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夫に「ただの主婦」と言われた私、実は誰かの人生を変えていた  作者: すみれ


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第11話 気づき始めた人


「最近、なんか変わった?」


朝。


夫がコーヒーを飲みながら、何気なく言った。


私は一瞬だけ手を止める。


「何が?」


できるだけ普通に返した。


でも、夫は少し眉を寄せる。


「いや……」


そこで言葉を探すように黙った。


私は冷蔵庫を閉める。


胸の奥が少しだけざわついた。


昨夜の電話。


あの声。


『お前はまだ死んでない』


ずっと頭から離れない。


「疲れてるんじゃない?」


私は背を向けたまま言う。


夫は「かもな」と笑った。


でも——


その視線だけは、まだ私に残っていた。


昔なら気づかなかった。


今は分かる。


人は、違和感を覚えたとき、


無意識に相手を見る。


「今日、帰り遅い?」


夫が聞く。


「分からない」


そう答えると、


夫が少し驚いた顔をした。


私は自分でも気づく。


前までなら、


『夕飯どうする?』


『何時ごろ帰る?』


そう聞いていた。


でも今日は違った。


夫もそれを感じている。


小さな沈黙。


その空気が少しだけ苦しかった。


会社に着くと、


空気が昨日までと違っていた。


「おはようございます」


後輩の声が妙に丁寧だ。


私は軽く頭を下げる。


その瞬間、


奥の席の女性社員が小声で言った。


「昨日の会議、すごかったですよね」


聞こえないふりをした。


でも、別の声が続く。


「部長、完全に黙ってたし」


「空気変わったよね」


私は歩きながら小さく息を吐く。


——やめてほしい。


そんなふうに見られるのは。


期待されるのは。


昔、


私はそれで壊れた。


誰かに必要とされ続ける感覚は、


思っているより苦しい。


席に座る。


パソコンを開く。


すると——


社内チャットが鳴った。


【少し時間ある?】


送信者を見て、


私は目を止める。


部長だった。


数秒迷う。


でも断れない。


会議室に入ると、


部長は昨日と違って静かだった。


昨日までの、


“ただの主婦を見る顔”じゃない。


「……昨日は助かった」


低い声。


私は黙っていた。


部長が続ける。


「正直、驚いた」


その言葉に、


胸の奥が少しだけ痛む。


昔の私は、


驚かれる側じゃなかった。


結果を出して当たり前だった。


でも今は違う。


私はただ、


静かに働いていただけの人間だ。


——そう思っていた。


「前の会社、何してたんだ?」


私は視線を落とす。


来ると思っていた質問だった。


でも、


一番答えたくない質問でもあった。


「普通の仕事です」


部長が苦笑する。


「普通で、あれはない」


空気が少し止まる。


私は何も言えなかった。


すると部長が急に真面目な顔になる。


「もしよかったら——」


その瞬間。


会議室のドアが開いた。


「失礼します」


入ってきた若い社員が、


私を見た瞬間に固まった。


そして、


信じられないものを見る顔で言った。


「……え?」


空気が変わる。


その社員の顔色が、


一気に変わっていく。


私はゆっくり立ち上がった。


——最悪だった。


この会社に、


“過去の私を知っている人間”がいた。

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