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怪談集「暗中」  作者: にとろ


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守り神と縛るモノ

 どうにも眠くてかなわないなと思っていたときだ。寝ようとしていたのだが、その前に水を一杯と飲みに行き、帰ってきたらメールが届いていた。シャットダウンしようとしていたのだが、見えてしまったので気が付いた時点で読むことにした、こういうのは先延ばしにするといくらでも先延ばしにしてしまう。


 内容は最近にしては珍しい所謂因習村の話だった。とはいっても、村ではなく市での出来事だそうだが、とにかく因習があるのだと書いてあった。内容は大体こうだ。


 地方移住のキャンペーンをやっていた地域があった。ちょうど東京での激務にも疲れていたし、地方に行って多少のんびりした生活を送るのも悪くないと思った。それにそこは地元に産業を誘致するのが上手くいっているそうなので食いっぱぐれる事はないだろうと、支援金をもらう手続きをして引っ越した。会社からは引き留められたモノの、健康診断で結構な結果が出ていたのでそれを伝えると、「静養しろよ」と有り難い言葉をいただいた。


 そうして引っ越したのだが、周囲の住民はいい人達だったし、順調な地方移住となった。補助金ももらったし、激務の結果ソレを含めれば一軒家が買える程度にはなった。職にも就いたし悪くないなと思っていた矢先、地元の祭をするからと参加を頼まれた。


 生活が順調にいっていたし、ご近所さんと軋轢を生むこともないだろうと引き受けた。その結果、子供達がお祭りをするので、その準備を頼まれた。


 お安いものだと思っていたのだが、お祭りは案外変ったものだった。準備と言うから何をするのかと思えば、神輿の準備をするのだそうだ。


 軽トラを出した人が、荷台に大きめの黒い石を積むのを手伝ってくれと頼まれた重く、それなりに大きい石だったが頭数を集めて皆で持ち上げると何とかトラックに乗せた。


 なんでもあの石は幸福を呼んでくれるのだそうだ。まあそういう祭なんだろうとそのトラックが神社に行くというのを聞いて、昔ながらの地域の祭なんだなとなんとなく思った。


 軽トラが帰ってくると石を降ろすのを手伝うことになったのだが、持って行くときには随分と乗せるのに苦労した石が、降ろすときはなんだか軽くなっているような気がした。


 祭は地元の子供が参加するということで、大人数ではないが、あの石が載った神輿で町を練り歩いていた。人数が寂しい気もするが迫力があるなと思うと同時に、始めにあの石を持ち上げたときは随分と重かったが、子供が簡単に運んでいるのを見て、あの石は軽いママなのだろうかと思った。


 祭が終わると、神輿を片付ける手伝いをしてくれということで、石を元の場所に戻すのだが、その時にはしっかり重くなっていた。


 そうして終わったわけだがその翌月、近所の住人が引っ越す話をしていた。入ってくる住人もいれば出て行く住人もいるのだろうと、そう言うものだと思っていたのだが、「気の毒になあ……」と近所の人が言っていたので、何が気の毒なのか聞いてみると、この市から住人が出て行くと不幸になるのだと言う。


 なんでもあの祭で担いだ石は、この市を護るものとして長年役割を果たしているのだが、出ていくものには容赦しないのだそうだ。だから祭を開いて子供と石の縁を繋いで出て行かないようにしているのだそうだ。


 一応隣の市の大学に行くくらいなら日帰りなので問題無いが単身赴任や長期の海外旅行などでは痛い目を見ることになって帰ってくるのだそうだ。


 そんな祭が今も開催されているのだと書かれていた。そして彼の悩みは『結婚したんですが、子供が出来たんですよ、このままここに居ると娘か息子ともあの石と縁が出来ますよね? 私はともかく、子供をここに縛り付けるようなことになっていいのでしょうか?』


 そう問いかけが書いてあったので、私は『住めば都という言葉もありますし、子には親が必要ですから』と書いておいた。もう彼と石とは縁が出来たようなので、子供だけを引っ越させることが出来ないなら子供の側に居るべきだと思う。


 彼から返信は来ていないが、少なくとも苦情は来ていないので彼も上手くやっていけているのだと思いたい。

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