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怪談集「暗中」  作者: にとろ


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娘が遊ぶ庭

 あの日は朝方まで手間のかかる作業をしていた後だった。とにかく手間がかかってイライラしていたので、ファイルの編集が終わるとすぐにアプリケーションを閉じて、気晴らしにメールを受信してみた。


 すると一通届いており、何やら困っていることがうかがえる書き出しになっていたので、コーヒーを一杯淹れ、眠気を振り払って読んでみた。


 問題は新居に移ってから起きた。多少のお金もあったし、マンションで上下左右の隣人に気をつかいながら暮らすのも疲れていたし、家族揃って引っ越そうかという言葉に反対する声はあがらなかった。


 ただ、多少はお金があると言っても大金持ちではない。人よりいくらか余裕があるだけなので豪邸を買えるはずもなく、多少通勤時間は妥協して郊外の一軒家に引っ越した。立派とは言えないかもしれないが、妻と子供がいて一軒家に住んでいるというのは平均より上の生活をしているという充実感があった。


 ただ、引っ越してからしばらくして、妻が妙なことを言い出した。なんでも娘が時折庭で遊んでいるのだそうだ。綺麗な格好をさせていても泥だらけになって家に入ってくるので注意してもらえないかと言ってきた。


 親バカだとは思うが、娘にそれとなくやんちゃな遊びをするなら汚れても良い服にしなさいと言うと、娘は庭で遊んでいるときに友達が来て遊ぼうというので遊んでいるのだという。越してきてまだ友達がほぼいない娘には友達に反対することは出来なかったようだ。


 ただ、疑問は残る。どうして引っ越してきたばかりの娘が庭まで入ってくるような中の友人を作れたのか? そしてその友達は女の子だといっていたのだが、女子がそこまで泥だらけになる遊びをするのだろうか?


 そんな疑問も湧いたが、その子と遊んでいるときのことを語る娘の笑顔はまぶしいもので、大人の都合で引っ越してきた手前、その子と遊ぶのはやめなさいとも言えなかった。


 妻は娘がどんな遊びをしてそこまで汚れてくるのかは分からないが、いつの間にか泥遊びをしているのだと言う。


 そんなことが続いたある日、妻が深刻そうな顔で話しかけてくる。なんだと思えば、娘が泥遊びをしているところを見たのだという。


 友達など影も形も無く、一人で庭の隅の方をシャベルで掘っている姿を見た。いつもなら木々に隠れて死角になる場所だが、剪定してすぐの気に囲まれていたので見えたのだそうだ。


 しばらく震えながら娘が帰ってくるのを待つと、友達と遊んだと言って帰ってきた娘に服を洗濯機に入れてしっかり体を洗っておきなさいと言って、風呂から出てくる前に娘が掘っていたところを見ると埋め直したような跡がある。急いでガシャガシャと掘っていくと、カツンと固いモノにあたった。


 傷がつくのも構わずソレを掘ってみると、あまり大きくは無いが、マンホール大のコンクリートの蓋が出てきたのだという。


「あれ、絶対良くないものだと思う。ねえ、どうにか出来ない?」


 そう言われたので休日に妻と娘で揃って出かけてもらい、教えられた場所をスコップで掘り返した。本当にコンクリートの蓋はあって、もう少し掘るとどうやら井戸のようなものらしいと分かった。


 ここまで書いてから、『これを開けていいものか悩んでいるのです』と尋ねられた。私はその付近を検索し、信用出来そうな神社を見つけると、そこを紹介して立ち会ってもらうといいですよと返信した。


 それからしばし後、『解決しました、娘も学校に馴染んでいます』とお礼のメールが来たのだが、娘さんが掘り返していたものが何だったかの説明は一切無かったので謎のままとなっている。

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