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怪談集「暗中」  作者: にとろ


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カラスがついばむモノ

 その日、少し田舎の山中を通っていた。そこを抜け、道の駅があったのでそこで一休みしているといくつもの通知音がスマホから鳴った。見ればアンテナマークが微妙な状態だった。


 どうやら県外にいたらしいとそこで気が付いてスマホを確認すると、メールも来ていて怪談が書かれていた。


 私が住んでいたところなんですが、なんだか怖いんですよね。いえ、普通の家なんですが、なんだか妙なことが起きたんです。


 始めは夫が義両親と同居したいと言い出したんです。私がそれは嫌というと、不承不承ながらも二人で暮らせる家を見つけてくれたんです。その時は多少は配慮してくれたんだと思い、一安心した。


 これで新婚生活に邪魔が入ることはない、そう思っていたのは甘かったのでしょうか、その借家なんですが、そこそこ立派な家なんですよ。築年数は経っているんですが、作りが良いのか年季は感じますがボロいって感じではありませんでした。


 古風な家だけど、せっかく言うことを聞いてくれて選んでくれた家だからと文句は言わなかった。ただ、何故か生活費は折半なのに、家賃は安いから俺の給料から払うと夫は言った。


 別居は渋々だったのに随分気前がいいなとは思った。ただ、夫の方が稼いでいるのだから払ってくれるのだろうと、そう思っていた。


 しかしその家に住んでから奇妙な夢を見るようになった。夜に寝ていると金縛りに遭うことになる。それが始めは頻繁にあるだけで、目が覚めればスッキリしていたのだが、それが続いているうちに妙なことが起き始めた。


 夢の中、金縛りで目が覚めると自分の体の上にカラスが停まっている。そのカラスは自分の口にくちばしを突っ込んでくる。金縛りに遭っているのに口は閉じることが出来ない。カラスはしばらくくちばしを突っ込んでいたかと思うと、何かピンク色のものをくわえてそれを食べ、どこかへ飛び去っていくと言うことがあった。


 それが続くと次第に物忘れが激しくなってきた。始めは買物でいくつか買い忘れがある程度だったのだが、徐々に人の名前も怪しくなってきた。


 あのカラスのせいだとなんとなく思ったのだが、どうにもしようがない。夫に言っても閉めた窓からカラスがは行ってくるなんてあるわけないだろと言われた。


 それでも続くので専門の外来に行った。確かに脳組織が萎縮していると言われ非常にショックを受けたのだが、もっとショックだったのはそこから帰っての夫の反応だった。


 どうしてそんなどうでもいいことで仕事を休んで病院に行くのか、夢の話を医師に語るなんて家の恥だとまで言った。


 正常な判断は付いていなかったと自分でも思っているが、その時に自然に別れ話が口をついて出た。随分と渋られたものの、最終的に夫は元夫になった。


 離婚が終わって随分とみすぼらしくなったものの、アパートを見つけ引っ越すと寝ているときに金縛りに遭うことは無くなった。不思議と物忘れも減ったのだが、それでも病院の外来に入ったところ医師に非常に驚かれた。


 萎縮していると言われていた脳の部分が綺麗に元通りになっていると言われた。始めは脳組織の画像を取り違えたのかと疑ってから同じ人の写真であることがハッキリすると、加工が無いか医師が必死に確認していたのだが、信じがたいことに脳組織が回復したとしか言えないと医師は言う。


 それから物忘れも無くなり、人の名前も一目で出てくるようになった。今となっては関わりたくないことだが、あのカラスは人の心を食べていたのでは無いかと疑っている。ただ、元夫に関わるくらいなら謎のままになった方がマシなのでそれきりにしている。


 彼女からのメールは以上となった、随分と元夫への恨み言も入っていたがそれは割愛している。


 どこまで本当かは分からないが、彼女も調べたくはないようなので、私は深く調べることはしないことにした。

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