故郷へのいざない
その日は随分と退屈をしていた。暇なので昼間からスマホを定期的に取り出してチェックしていた。しかしそんな日に都合良く話が来るはずも無く、私は休日の夕暮れを過ぎて、電子書籍を読みながらぼんやりしていた。
そんな時、PCの方でメールの着信音が響いた。メッセンジャーよりメールの方が長文の話を教えてもらえることが多いので期待していた。
内容としては……
最近実家に帰らないといけないと思っている、いや、ホームシックとかじゃない。年末年始にはきちんと帰っていた
だがここのところのその郷愁と呼んで良いものかは常軌を逸している。始めは上京して標準語に切り替えてしっかり頭にたたき込んだつもりだったのだが、バイト先で突然方言が出てきた。イントネーションが少しおかしいくらいだったのが、普段の会話で方言を出すのをおかしく思わなくなってきた。
それから、交通マナー、始めは信号が赤なら、青信号になってから発車していた。しかし、ある時から横の信号を見て、赤くなってきたらもう進み始め、交差点に入る頃に青信号になっていた。
些細なことから次第に地元の癖になっていく。生活習慣もお洒落なカフェからその辺のファミレスに食べるところを変えたりした。地元にもあるファミレスか、ファストフード等ばかり食べるようになった。
それから夜に夢を見るようになって、夢の中では実家にいた。そして実家からあれやこれやと注文をされてそれを疑問も持たずにやらされる夢だ。
そういうのが嫌だから上京したのだが、どうにもそう言った記憶と混ざったような夢では田舎の暮らしをシミュレーションしているようだった。
おかしいとは思いながらも、それを続けていると、気味が悪くなりついには一旦実家に顔を出すことにした。久しく顔を見せていないものの、帰る家が無いような関係ではないし、たまには帰ってみてもいいだろう。
そう考えて実家へ帰る新幹線のチケットを買ってさあ帰るかとなった。そうして音信不通同然だった実家に帰ってみると酷い有様になっていた。両親が高齢なのもあって庭に手入れが行き届いておらず、草が鬱蒼と茂っており、家の中も重いものが運べず大きめのゴミがそのままになっていた。
これは手に負えないということで業者に頼んで庭を整え、家の中を掃除した。両親は感謝していたが、こちらはこれが原因で帰ってくることになったのだろうと思った。
そうして無事、庭も屋内も綺麗になると、不思議と心の中の引っかかりが取れたようにスッキリとした。
それから帰ってくると、特に郷愁のようなものは感じることが無くなり、方言も態度も一般的なものに戻った。アレがなんだったかは分からないが、実家の何かが原因だったのだとは思う。そうして事態は一応の解決を見た。
大体上記の内容だがこれからどうすればいいのでしょうか? と書かれていたので、私には原因が書かれている限りではさっぱり分からないので、『折に触れてご実家に顔を出してはいかがでしょうか』と返信しておいた。
それに対する返信は無かったので、送り主がどうしたのかは不明だが、解決したのだと思いたい。




