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怪談集「暗中」  作者: にとろ


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庭の隅にあるパイプ

 あの日は眠気でうとうとしていたのだが、そんな時にスマホにメッセージで送られてきたものだ。二十四時間ネットに繋がったデバイスも難儀だなと思いながら読んでみた。


 俺は昔、呑気に実家に住んでいた。これといって何も起きないだろうと高をくくって生活していたのだが、なんだか妙なことが起こり始めた。


 始めは実家の仏壇で、供えていた食事があっという間に傷むことだった。傷むにしても、冬場に炊きたての米を供えていたのに、夜供えたものが朝には緑色のカビまみれになっている。


 親たちは淡々と捨てて交換していたが、いくら何でもそんな気楽なものではないだろうと思っていた。


 なんだか次第に家の中が湿っぽくなっていたのにしばらくしてから気が付いた。お世辞にも勉強熱心だとは言えなかったが、教科書を机の上に置いて多少読んでから寝るようなこともした、その時に翌朝、予習をしておこうと机に向かうと教科書にいくらかシワがついている。


 一晩置いておいただけなのに、まるでお風呂場に一晩置いておいたような状態になっている。

 おかしいなあとは思ったのだが、如何せん勉強が好きではないので変形した教科書でもそのまま学校に持って行った。不真面目だったのはクラスメイト全員が知っているので教科書が変形している事なんて誰も気にしない。


 気にしなければいいやなんて思いながら生活をしていた。ただ相変わらずご飯は傷むし、まいったのはマンガ本まで湿気を吸ったようになることだ。これは堪ったもんじゃない。そうお思いながら部屋に湿気の素があるんじゃないかと思って探したこともある。しかし何も見つからない。


 なら除湿機を使うかといえば、地方の学生に除湿機を買うお金は無かった。


 仕方なくそれなりにそれと付き合っていくことにした。幸い百均に除湿用のシリカゲルが売っていたりする。それを買い込んで置いておくと多少はやわらいだ。


 もうこのまま我慢しようと思っていたのだが、ある時庭に出たときに庭の片隅、そこに一カ所、草一本生えていないところがあるのに気が付いた。


 そこに近寄ると、何やら一本のパイプが出ていた。何処に繋がるでも無いパイプが出ていることを不思議に思ったのだが、理由は思いつかない。


 その晩、祖父にあそこについて尋ねたところ『あそこは昔井戸があった、今じゃ誰も使わなくなったがなアレは井戸の神さんが息をするものだから余計なことはするなよ』そう言われた。


 正直に言ってまったく信じていなかった。間が悪いことにそれから少しした後、紙粘土を使う授業があった。残った紙粘土は持ち帰れということなのだが、持ち帰って使い道があるものでもない。


 家の敷地には行ったときに例のパイプが目に入った。どうせ迷信だろうと、持ち帰っていた紙粘土をそのパイプに詰め込んだ。


 その結果、部屋が湿ることは全く無くなり、過ごしやすい部屋になって仏壇のお供え物も傷まなくなった。余計なことをしなくて良くなったので喜んでいたのだが、ある時のことだ。


 夜に庭の方でガサガサ音がした。部屋から少しだけカーテンを開けて窓越しに音の方を見た。


 そこには爺さんが金属の棒のようなものを使って紙粘土をあのパイプから掻きだしていた。それが全て取れたら満足したのか家に入ってきていた。あの時の形相は忘れられないものになる。


 ただ、爺さんが扱いを変えることがなく、孫として普通に接してくれたので問題無いのだと思っていた。


 その日からまた家が湿っぽくなる。ジメジメとした空気が家中に広がっている。あの爺さんはなんで快適になったのにあんなことをするんだよと文句も言いたくなった。


 そのままの生活をしていたのだが、爺さんも歳だったので認知症を発症した。当時はまだ痴呆症と呼ばれていた頃だ。


 冷たいと親族に言われたのだが、施設に入ってもらうことにした。親族は協力しないのだから何か言われる覚えも無いと言いたかった。


 そうして家の中は一時の平穏を取り戻したのだが、なんとそれから家の中の湿気が一掃されたかのように気分良く暮らせることになった。


 ふと窓の外を見ると、あの井戸があったところは雑草が生え放題で、突き出ていたパイプも塞がりつつあるようだった。放っておくとそうなると言うことは、おそらく爺さんが手入れをしていたのだろう。それをやめたのであの有様になったわけだ。


 家での生活は楽になったのだが、祖父が入っている施設の方から連絡があった。時折せん妄を起こして『弟が苦しんでいるんだ! 帰らせろ』と言うらしい。


 その時にふと思ったのは井戸を塞いだ理由だ。祖父の幼かった頃は今よりずっと不治の病というものが多く、それを隠している家もたくさんあった。もしかしてあの井戸が塞がれた理由は……


 そこまで考えてゲスの勘ぐりをするべきではないと考えるのをやめた。今はもう実家に帰れば雑草まみれになったあの庭の隅が見えるだけとなっている。


 これが正しいのかどうかは分からないものの、祖父はあそこに何があるのか知っているのだとは思いつつも聞きたくないので聞くことはしなかった。


 そうしてそのまま平和な日々が続いている。もう何もかも昔の話だが、今は突き出ていたパイプを地面付近で切って土を盛り、ただの平地にしてしまった。何も起きていないし、あそこが地上に出ていると、何かが出てくるんじゃないかという恐ろしさもあった。


 幸い祟りのようなこともなく、ごく普通の家になっている。ただ……家はもう売れないのだろうなと、おそらく暗い過去があるであろう庭を見て思う。


 自分の世代まで平和なら後は野となれ山となれの精神で、今はもう気にすることもほとんど無くなった。


 そんな会談を教えてくださった。そこを掘り返せば何か結論が出るのかもしれないが、曖昧なまま放置しておけばいいと思っているそうだ。

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