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怪談集「暗中」  作者: にとろ


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帰ってきませんように……

 令和の世に因習村というのもとんと聞かなくなった。しかし、昔には確かに妙な言い伝えがあるところはあったようで、これは大学に出てようやくインターネット回線を得た方の話になる。


 俺は随分と無鉄砲だったと思う。住んでいる村にはロクにパトカーが走っていることもないし、いい感じに峠は空いていた。そうなると十六歳になったら二輪の免許を取って早々に走り出した。


 走るのは気分のいいことだが、そんなことをしていると、村では鼻つまみ者になった。しかしそんなことは気にしなければいいことで、くだらないことを気にするような小心者ではない。


 そうしてバイクで峠を攻めていた頃に、両親からお使いを頼まれた。いい年して親のお使いなんてとは思ったものの、日々走っているバイクの購入代を誰が払ったかと言われると辛い。渋々隣町まで接客用の茶菓子を買いにいかされた。


 順調に走って行くだけで、親の頼みとなると急いで飛ばすような義理は無い。制限速度を遵守してのんびり走っていた。


 山を越えて、銘菓を売っている隣町に入った頃に道祖神が建っているのを見た。こんなものが町を守ってくれるとでも思ってんのかな? などとくだらないと考えつつ、和菓子屋に行って饅頭を買うと帰途についた。


 町を出て、その時に道祖神があるのを見たのだが、物珍しさにギアをニュートラルに入れてその前で少し止まって眺めてみた。


 それはなんだか怒っているような顔をしていて、よくまあこんな他所から来る人を威圧するようなものを建てたもんだと思いながら再びバイクに乗って走っていく。


 そうして途中、山の中を走っていると、脇の崖が崩れてきた。細かい石がぱらぱら降ってくる程度だったのだが、狭い道なのに危ないなあと思いつつ早いところ帰ろうとした。


 無事帰宅すると、家の中に鯨幕が張られている。ギョッとして奥に行くと、なんと自分の葬式が行われていた。もちろん自分は生きているので空っぽなのだが棺まで用意してあった。


「どういうことだよ!」


 そう怒鳴ると、参列していたと言っていいのか、その全員がビクッとした顔をした。それから『おい……帰ってこないんじゃないのか?』『ちゃんと帰れないようにしたはずなんだが……』などと言っていた。それが怖くなって怒鳴るだけ怒鳴って自室にこもって震えていた。夕食時になると母親が呼んできたが、怖々出るともう葬式の装いは全て取り払われていた。気のせいだと思うようにして席に着いたのだが、その日の夕食として出されたのが仕出し弁当だった。


 アイツらが何をしたのかは分からない、人に迷惑をかけるようなことをしたのも事実だろう。だがここまでされる謂れはないと思うので、それからは村の人と関わらないようにした。


 それから都市部に出て行くと今に至るまで一度も実家に帰っていない。もう何があったとしても関わりたくはない。


 メールにはそう書かれていた。何より恐ろしかったのは、自分が帰ってこないように多くの人が願っていたことだそうだ。


 そんなことがあって以来、多少は人当たりを良くしようと決め、今では慕ってくれる後輩もいるのだそうだ。彼が今でも無事であることを祈っている。

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