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怪談集「暗中」  作者: にとろ


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海のもの、山のもの

 その日は夜中、メールの届く音で目が覚めた。送り主は慣れないメールでこんな時間までかかってしまったことを詫びていたが、そもそもメールは送ってすぐ読むものではないし、下書きで保存するなりテキストファイルにまとめて添付するなどあるとは思うのだが、それを言うほど野暮ではない。


 彼女からのメールによると随分昔の話になるようだ。


 今より昔、あまり縁起のいい話ではないが、海辺の町に住んでいた。子供だった自分には時折大人が集まっていて、近寄るなとそこに行ってみようとすると止められたのを覚えている。


 察しが悪かったのだとは思うが、おそらくは水難事故か、あるいは……まあそういったことをする人もいる海だった。


 海というのは怖いものだと、なんとなくそう思っていた。ただ、ある時海の近くを歩いていると、人が消波ブロックの前に立っている。危ないですよと止めようとしたのだが、近寄ろうとした時にビュウと海風が吹いたかと思うと、それに目を閉じ再び開けたときにはその人は消えていた。


 音もしなかったので海に落ちたのではないだろう。怖々近寄ろうとすると、町の人が声をかけてきて『どうしてあんなところに行くんだ?』と尋ねられたので、さっき人が……と言うと、最後まで言う前に『それは見なかったことにしときな、危ないよ』と言われてしまった。


 そこでようやく、アレはこの世のモノではなかったんだと気が付いた。そう思い至ると急に海というものが怖くなった。漁師の人も大勢居居るが、皆海は危ないものだと思っていたらしい。観光客が来るようなビーチではない、そんな恐ろしい場所だった。


 問題はそんなことより、アレを見てから魚を食べるのに抵抗が出た。何を食べて育った魚か分からないのでもしかしたらと思うと、とても魚を食べる気にならなかった。しかし子供は親に逆らえないもので、嫌々ながらも魚が食事に出る度に完食していた。


 そんな確率はほぼゼロであることが分かっていても、どうしても考えが離れてくれなかった。ただ、進学と共に海を離れ、山の中にある大学に入り、自炊を始めたので魚を食べなくなった。一安心だと思ったのだが、学生が集まると刺身などを出す居酒屋に行ったりする。


 嫌な顔も出来ずなんとか笑顔のまま食べられるようになったのだが、魚を食べるのを嫌がっている様子が伝わってしまったのか、海に行ったことの無い人が声をかけてきた。


「俺も山育ちだからなんとなく分かるんだけどさ、そういうものを食べてるかどうかって割とわかるもんだから安心して食べなよ」


 彼は山では動物がいろんなものを食べていて、その中にはあまり気分の良いものではない物を食べているものもいるらしいのだが、そういうものは食卓に並ぶ前に処分されるらしい。


 なんでも彼によると、雰囲気からそれが分かるのだそうだ。だから大丈夫と言っていた。


 その言葉を信じて再び魚を食べるようになったのだが、一回だけ、その彼が刺身の盛り合わせが出たときに、すぐ枝豆を頼んで私にしきりに勧めてきた。


 理由はなんとなく分かったので、海のものでも分かるんだなあ……と思いながら枝豆を刺身がなくなるまでつまんでいた。島の彼はフライドポテトでビールを飲んでいたので、安心は出来ないものだなあと思わされた話だった。

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