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怪談集「暗中」  作者: にとろ


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川で泣くお嬢さん

 その日は私が夜寝ようかと思っていたときにメールが届いた。PCを二十四時間稼働させているとそんなこともある。よくあることと思いメールを開いたのだが、おそらくはスマホに慣れていない人が送ってきたのだろう、変な位置で改行が入っていた。


 ソレの意味をまとめると大体こうだ。


 私がまだ若かった頃、住んでいた町がある。そこでははるか昔、酷い日照りが続いて雨が行ってきも降らず、このままでは農作物が全滅するという事態に鳴ったことがあったと聞く。


 その時に残酷な話だが、当時の村で一番美しい娘を生贄に捧げ、するとその日に雨が降ってきたという。詳細は残されていなかったし、誰もが世迷い言だと言っていた。ただ、その話をする老人達は、今はもう居ないにしても、当時聞いたときは随分と何かを恐れるように話していた。


 時は経って治水は進み、ダムは造られ川はコンクリートの堤防に囲まれるような時代になった。もう古くさい生贄の伝説を語るものはいなくなったし忘れられようとしていた。


 そんな頃、古い友人達が帰ってくると言うので飲みに出かけた。その時にふとあの話が話題に出た。当時を知る人間からすれば十分に共通の話題だった。


 その話の中で『どうやって生贄にしたかは知らねえが、今はコンクリの中で川を見てんのかねえ』と言いだした。そこで皆揃って飲みも一段落付いたので、川に向かってみることにした。


 川に行ったところで、平和な水がさらさらと流れているだけだった。ダムのおかげで川の水は安定して流れるようになり、水不足には台風が来なかった歳くらいしかなったことがない。


『こんなもんだよなあ、生贄より議員さんの力だなあ』


 一人がそんなことを言った。地元の議員が公共事業としてダムなどの治水をしたのですっかり安全な川へと変ってしまった。水不足とも無縁となったので確かにその通りなのだが、誰かがその言葉を窘めた。


『自分の身を捧げた嬢ちゃんにそんなこと言うんじゃない』


 その時だ、シクシクと泣いている声が川の方から聞こえた。しかし堤防の下は普通の川で、誰かがはいるような所ではない。


『おい……』


『覗いてみるか?』


 そうして全員で恐る恐る覗くと、白無垢を着た誰かが川に腰まで浸かって泣いている。なんとなくソレを誰もが生贄になった娘さんだと理解した。怖くなって全員揃ってころぶのも構わず逃げ出した。


 皆がもう親の世代になっていて、忌まわしい生贄の言い伝えなど知らないため、逃げ帰ってから息子や娘達に皆が随分と呆れられた。ただ、その時誰もがその生贄の話はせず、酔っぱらって気が大きくなったのが原因の怪我だと言い訳したそうだ。


 今となってはもう誰も生贄のことは話さないが、せめて貴方は覚えておいて欲しい。


 大体の内容はそんなものだった。怪異としては弱いのだが、強いか弱いかは問題ではないだろう。具体的な場所はともかく、そう言った後ろ暗いことが行われる時代が、ずっと昔にあったらしい。

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