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怪談集「暗中」  作者: にとろ


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酒を飲んでの失態

 その日、メールが一通届いた。一通のメールだが、添付ファイルに文章を保存するでも無く、本文にベタ書きで大量に書かれていた。ソレを手間をかけて読み上げると大体こんな話だった。


 俺はようやく大学に入って一安心をしていた。受験戦争という名の酷い争いに参加しているとやっていられないという気分になりながら数式から英語のイディオムまで必死に覚えていた。


 大学に入ると遊びも覚えて、今ではとても出来ないにしても、酒をその辺で買って新入生の友人を集めて酒盛りをしていた。


 酒を買えたのはあの頃その辺が甘かっただけで、その後の悲惨な事件で酷く厳しくなって今はされていないのだろう。時代があの頃は許すという雰囲気だっただけだ。


 とまあそんな面子を集めて酒を飲んだものだから、酷い深酒になった。加減を知らず飲んだものだから、皆飲み会をやっていたその部屋で潰れてしまった。


 夜、窓の外は真っ暗で、安普請のアパートで目が覚めたので、水を飲もうとした。ワンルームなのでキッチンに行き水道をひねってコップに水を溜める。ソレをゴクリと飲むと、都市部独特の水道水の味がした。今は水道水も美味しくなったものだが、あの頃は我慢して飲んでいた。


 少し酔いが覚めた気がして、皆が雑魚寝している部屋に戻る。すると寝込んでいる皆の中に、一人の老婆がいた。白髪頭にしわくちゃの顔で一人一人、顔を覗き込んでいる。驚いて固まっていると、その老婆が全員の顔を覗き込んだ後、自分の方を向いてきたのだが、その顔に目はなく、落ちくぼんだ穴になっていた。


 逃げなきゃと思いながら必死に体をドアの方に動かそうとするのだがまったく動かない。


 老婆が近づいてきて、その不気味な顔が自分の顔と向き合ったところで目が覚めた。深夜に水を飲んだからか、多少は酔いも軽かった。ただ、水を飲んだのだとしたら、あの老婆を見た記憶も本当だと言うことになる。想像したくなかったので友人達には黙っていた。


 ただ、朝からその時は二日酔いの友人達が、トイレに代わる代わる入っては戻し、水を飲むと言うことの繰り返しになっていた。


 酷いもんだと思いながら自分も水を飲んで何とか吐かずにすんでいた。その時友人が部屋に戻ってきた、この部屋を契約している友人だったので、『昨日は随分と飲んだな』と言った。コイツが酒をたくさん買ってくれたのでそれをみんなで飲んでいたのだが、どうして買ってくれたのかと聞いてみた。


『いやぁ……この部屋さ、家賃がやたら安くってな、親が家賃を払ってくれるっつったんだが、安いんで多少余るんだよ。ただ、どうも一人で寝るのが寂しくてなあ……大学にも入ったしバカ騒ぎがしたかったんだよ』


 そう言った、そう言っているときに彼の手がプルプル震えていたのは気になったが、何も聞かないことにして、彼の部屋を訪れることはそれから無くなった。


 その一件からすっかり酒は出来る限り飲まないようにしていて、会社の飲み会では一人ソフトドリンクを頼むので毎回そのことを弄られることになってしまった。それでもアレをまた見るかと思うと酒に手が伸びることはなかった。


 今となっては未成年が酒を買うのが不可能なほど厳しくなったので、今の子がそんな経験はしないのかもしれないが、とにかく苦い思い出だ。


 そう書かれていた。そしてメールの最後にリンクが貼ってあったので、それを開いてみると、一つのニュース記事へのリンクだった。内容は、元アパートの廃屋が謎の火元から火が出て全焼したとなっていた。死傷者は出なかったが、結構な面積が焼けたと書いてあった。それが本文に書いてあったアパートなのかは不明だ。

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