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怪談集「暗中」  作者: にとろ


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故郷の呼び声

 もう、以前のことになるが、当時はネトゲにハマっていた。その頃はオカルトも全盛期のような有様で、ネトゲをしている人の中には、延々とギルドチャットで駄弁っている人もいたが、そんな人も終末論について楽しそうに語っていた時代のことだ。


 なんだかんだ言っても二十一世紀になり、二千年に世界が終わるという予言も廃れていたのだが、それでも幽霊妖怪その他の何かなど、様々なものが話題にはなっていた。


 その頃ネトゲのギルドにあたる機能で、今週のオカルト番組について皆で話していたときだった。一人が少しの間ログインできなくなるという。ネトゲの関係なんて突然失踪されても気にしないようなものなのに、その人がどうして宣言したのか気になっていると、彼(おそらく彼で合っているだろう)キャラは話してくれた。


 なんでも、実家に帰る必要が出たのだという。ところが実家というのが光回線は論外で、ADSLどころか、ISDNさえ整っていない地域なのだという。いくらゲームが大量に通信しないとはいえ、音響カプラでネトゲをするのはしんどいので帰省中はログインできないのだそうだ。


 わざわざ宣言してくれたので、ギルマスだった私は、失踪ではなく一時離脱ということで、ギルドに籍を残しておくことを約束し、皆で彼を見送った。彼は別れ際に、リキャストタイムの随分と長い回復魔法を打ってお辞儀のエモートをしてからログアウトした。


 冷たいように思うかもしれないが、ネトゲで出会いと別れは突然来るものなので、彼がログインしていなくても普通に運用はされていった。ネトゲとはそういうものであると思って、彼がいなかった頃のようにいつも通りの活動をしていたのだが、一週間以上して、彼は久しぶりにログインしてきた。


 ただ、ログインしてそうそう、久しぶりのあいさつもなく話し始めた。


「なあ、実家に帰ったんだけどさ、実家でおかしな事があったんだよ。あのクソ田舎、俺が帰るなり祭りがあるから参加しろなんて言うんだ」


 皆彼の言動に困惑しつつ、思い出話をしようとしているのかと思っていると、彼は続ける。


「そしたらさ、祭りをやるっていうからさ、広場でやるんだと思ってたんだよ、昔やってた祭りはいつもそこだったしさ。でもさ、連れて行かれたのが寺だったんだよな……」


 彼の話にどう答えていいのか分からず困惑していた。数人が『怪談話か?』と冗談めかして聞いたところ『真面目に聞いてくれ!』と言われたのでギルドチャットには彼の発言だけがしばし流れた。


 要約すると、彼は祭りとやらで地元の寺に連れて行かれ、懐かしい顔ぶれと会ったかと思うと、全員がお堂に入れられた。そこで一晩明かすのが祭りなのだそうだが、派手さも楽しさも一切無く、ただ延々と坊さんのするよく分からないお経を聞かされた。


 そうして日が暮れる頃にはお堂に地元を離れたメンバーのみが残されて、皆でそれぞれの出ていったサキでの思い出話をしていたときだ、徐々に足がしびれてきた。正座もしていないのにどうしてだと思っていると、皆同じように足がしびれてきたようで、あぐらをかいたり寝たりするやつもいた。


 ただ、全員足をしきりに気にしていたのでやはり同じように姿勢を変えてもしびれていたのだろう。だが、それは突然終わった。


 縛られていたロープが切れたようにしびれがプツンと途切れたのだ。皆落ち着いたように座り直していたので、おそらくしびれが同じように無くなったのだと思った。


 だが、一人だけずっと足をかいたり動かしたりしているやつがいる。誰もが嫌な予感をして言葉を出せなかった。


 それから夜の十二時を回る頃、「もう良いぞ」と言われ全員お堂から出された。しびれていたやつは待っていたのであろう人に担架で運ばれていった。


『今年は早かったな』とか『三時くらいまではかかると思ってたな』などと言う声が聞こえたが、もうどうでもよく一刻も早く帰りたかった。


 家に帰るとお金がかかるのも構わず、離れた駅までタクシーを使っていった。家を出るときに両親が引き留めたが、とてもこんなところにはいられないと思った。


 それから特に何かが起きたわけでは無い。ただ、携帯電話に時々あの時足がしびれていたやつからメールは届く。足のしびれはよくなったらしいが、その文章には必ずあの田舎が素晴らしいという意味の文章が書かれていて、彼はそこに骨を埋めるつもりだとまで書いていた。


 彼は話を終えてギルドに皆に聞いた。『バイトとかあったら紹介してくれよ、タクシー代が結構痛くってさ、金が無いんだよ。実家からはタクシー代は振り込むなんて言われてんだけどさ、正直に度と関わりたくねーんだよ』と彼は最後に付け加えた。


 私がそのゲームを引退するまで彼はずっとギルドのメンバーとして参加してくれていたが、お盆も正月も一日も休まずログインしていたので、おそらく彼は実家に帰ることはなかったんだなと思われる。

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