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怪談集「暗中」  作者: にとろ


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車に乗ってきた若者と、旅館の人

 世の中を生きていると眠い日もある、そんな日に夢現で読んだメールだ。内容は以下のようになっていた。


 私も会社勤めが長くなる。そうなってくると転勤する必要も無いのだが、同じ町で暮らしていてそれでいいのかとふと思った。


 閑静な住宅街で結婚もせず延々と生活をしていく、特に人生にイベントらしいイベントも無く淡々と日常を過ごしていく、そんな生活を続けていいのだろうか?


 そんな事を考えてふと有給があったのを思い出した。まとめて申請するのは迷惑かと思ったのだが、必要は無いにしても今更だが自分探しのような事をしたいので有休を取れないかと聞いた。するとあっさり『そうか、随分と熱心だったしたまには休暇を取ってくれ。私も立場上有休を取れとも言いづらくてな』と言われた。


 何処まで本心かは分からないが、とにかく有休は取れた。遠方の方に旅館の予約を取って来るまで一人旅をする事にした。


 平日に休暇を取った罪悪感を覚えつつ、普段は買物にしか使わない車を出して高速に乗った。しばし走っていくと年には勝てないのか眠気が来た。事故を起こしては元も子もないので一番近いサービスエリアに入ってしばし寝る事にした。どうせ旅館までは余裕のある予定を組んでいるのだから問題無い。


 そう思いサービスエリアに車を停めた。止めた位置が悪かったのか、フロントガラスの向こう側にヒッチハイクをしている若者の姿が見える。彼がスケッチブックか何かに書いている行き先はちょうど行こうと思っている方と同じだった。


 だが、そんな若者を乗せるほど余裕もないので少しだけと仮眠をとった。目が覚めると思ったより寝ていたようで、決行に時計が進んでいた。


 慌てて車を出し、サービスエリアを出ると加速して合流をする。その時に思わずブレーキを踏みそうになった。


 後ろに人が乗っている。服装からしてあの時見えたヒッチハイクをしていた若者のようだ。だが、車にはきちんと鍵をかけていたし、セキュリティで無理矢理ドアを開けようとするとアラームが鳴るはずだ。


 訳がわからないが、停まるわけにも行かず、少々強引に本線に入るとアクセルを踏みこんだ。


 一刻も早く後ろの誰かを車から降ろしたい。その一心で道を急いだ。しかし次のサービスエリアは高速を降りるインターチェンジより向こうにある。


 途中で降りるのも困るのでそのまま走り続けて、予定通り降りるところで高速を降りた。それからもう旅館まで行ってしまえと車を走らせた。


 小一時間走って行くと旅館が見えたので、敷地に入るとそうそうにキーを渡して車を預けた。


 それから気が気でないような滞在をして、旅館からチェックアウトするときだ。旅館の人が『サービスです』と言って、その地域で有名な神社の御守を渡された。それは高越安全のものだったので帰りの安全を祈っての事だと思ったのだが、怖々と車に乗ると、そっとバックミラーを見る。しかしそこには空席が映っていた。


 帰りはと手もサービスエリアに停める気にならず、眠らないように必死に走らせ続けて帰った。そうして都市部に入ってきて、ようやく人心地ついた。


 それ以降おかしな事は起きていない。ただ、自分探しなどと言う年甲斐も無い事は二度としようと思わない。


 相談は車を売った方が良いかと言う事で、もしあの霊か何かが消えてしまったなら売る気は無いのだが、まだアレがいるなら売り払って公共交通機関のみで生活していきたい。霊のようなものは消えたのでしょうか?


 最後の一文が相談のようだ。私は『きっと旅館の人が何か知っているのでしょう。霊はもう心配ないと思います。気になるならば旅館に問い合わせてはどうでしょう?』と返しておいた。


 しばし後に、『あのことの真相を知るのも怖いので旅館には聞かないが、霊はすっかり見えなくなったので消えたようです』と返事が来た。何とか差出人は普通の生活を送れそうだ。


 ただ、彼はそのメールに『何が何でも都会にしがみつく覚悟が出来ました』と書いていた。


 それ以降の事は知らないが、彼はそれなりに元気に過ごしている事を祈るばかりだ。

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