出て来たものと辞めていった同僚
その日はスーパーに買物に行っているときにメールが届いた。帰りだったのでマイバッグには酒も入っていたのだが、メールが届いた以上読むべきだし、アルコールは控えることにして帰宅次第メールをPCで開いた。
そこにあったのは思い出の話だった。
どうにも私は一般的な男だと思っていた。普通に高校に進学して、その後大学に行き、それなりの企業に就職するのだと思っていた。
躓いたのは大学の段階だ。就活が運悪く求人が少なく、ソレに大勢が飛びつこうとする時期、そんな時になってしまった。就職浪人も考えたが、ソレは親にあえなく却下された。バイトで学費を稼ごうにもバイトでさえ立派な社会人が参加していて、そう都合良く稼げはしなかった。
仕方なくその時人が寄りつかないような企業を選んで就職し、案の定というべきかそこは随分と条件の悪い企業だった。それでも贅沢を言えない、そんな時代だった。
そうして当たり前のように終電まで残業をして、残業代はろくにでない状態で働かされた。そんな日々が続けば日常に絶望するのは必然だった。
いい加減もういやだ、そう考えると終電の時に一歩踏み出しそうになってしまう。皮肉にもそれを止める感情はこの電車で買える人に迷惑がかかるという同じ境遇の人たちへの同情だった。
そんな日々を過ごしていたのだが、ある日朝一で出社して雑用として掃除をしていると、掃除用具をしまおうと用具入れを開けたときだ。何か黒いものが飛び出してきて一つの部屋へ飛び込んでいった。
なんだったんだと思うのだが、鍵のかかった部屋であり、どうやって入ったのか分からないが、隙間と言えばドアの間にわずかにある液体か気体くらいしか通れないくらいの隙間だ。
こんなところに入れるはずがないとは思うのだが、何故だかそこに入ったに違いないという感情もあった。そこの札には会議室と書かれている。だがワンマン経営の会社で会議などと呼ばれるものは見たことがない。この部屋はどうして存在しているのだろう? バブル期に金が余っていたから作ったくらいの理由しか思いつかない。
ただ、その日のことだ、何故か重役達が会議室に集まった。何をしていたのかは分からない、ただその日を境に一人の社員がやめた。退職を認めないような社風なのにどうして簡単に退職出来たのかは分からない。
ただ、その翌日、また早朝に掃除をしているときだ。掃除用具入れを開けようとしたとき中からうめき声が聞こえた。その時聞こえた声はやめていった同僚のものに違いないと何故かそう思った。そう考えると恐怖がわいてくる。
あの同僚は本当にやめたのだろうか? 今となってはこうして自分もそれなりに役職はもらった。だが残業代を出さないためだけの役職で、権利は何もない。
このままここで働き続けてもいいものか不安で仕方ない。
そのメールを読んでなんと答えたものか悩んだのだが、お手上げだったので『あなたの思うままにした方がいいですよ』という無責任極まりない回答しか出来なかった。彼が今どうしているかは不明のままだ。




