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怪談集「暗中」  作者: にとろ


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住人が優しい日

 その日は平穏に過ごしていたので漫然と日差しを浴びながら本を読んでいた。そんな時にスマホに入ってきたメールがある。


 PCを起動するのが手間だったのでそのままスマホで読んだ。幸い本文に怪談がべた書きされていて添付ファイルは無かったのでそのまま読めた。


 内容としては以下のようになる。


 俺は都市部に出てからUターンをして生活をしている。いや、Uターンとは言わないのだったか、都市部から田舎に引っ越して平穏に暮らしていた。


 そこでは長閑(のどか)としか言いようが無い町が広がっていて、待ちの周りには田畑が広がっている。いかにも田舎ですと言った光景なので、都会に住んでいたときには匂いがすると思っていた空気も空気清浄機無しで気持ちの良い深呼吸が出来るくらいになった。


 こういうところもいいな、そんな風に思っていた。呑気な生活が始まった。就職先も見つかって、そりゃあ都会じゃあないので昇級はしないだろうと思っていたが、就職してみると給与はいくらか下がったものの、生活に困るほどではなかったし、生活費の中の家賃が下がっていたので生活レベルをそれほど落とさなくてもよかった。


 だから、きっと平和に過ごせると思っていた。だが、気になることもある。住んでいるところが家鳴りをするのだ。家鳴りの仕組みからして出来てかなりの時間が経っているはずの物件にそんな音がするのはおかしいと思っていた。


 そんなある日、家の前、出社しようと思っていたときに玄関に蛇の亡骸がころがっていた。ヒイっと怖がったものの、近くを見ると黒猫が一匹こちらを見ていた。


 全く迷惑なことをする、そうは思ったものの、猫に教育するわけにも行かないので帰ったら蛇を掃除しておこうと思いながら出社した。


 ところで、なんとなく職場ではいくらかよそよそしくされている。始めはよそ者だからかと思っていたのだが、それにしてもそろそろ一年になるというのに冷遇されている気がする。


 それを言ってもキリが無いので帰ってからやはり残っていた蛇の亡骸を掃除して夕食にしようとなった。


 その日は普通に過ごせると思っていたのだが、その晩も家鳴りがした。ただその日の家鳴りにはなんだかシュルシュルとどうにも蛇が這い回っているような音がしていた、気味が悪くて仕方ない。


 そうして生活していたのだが、定期的に昆虫だったり、小動物だったり、小物が家の前に置かれることになる。毎回嫌な思いをして掃除をしていたのだが、始めは猫か何かが置いて行っているのだろうと思っていたが、時々犬や烏のような動物が家の前に供物のように亡骸を置いて行くのを見てしまった。


 この家には何かあるのではないかと思っていたが、どうにも出来ず掃除をするのを繰り返していた。


 そんなある日、これはもう我慢できないと言うことがあった。おそらく生後すぐの犬の亡骸が家の前に放置されていたのだ。確かに法律的にも条例でも燃えるゴミとして処分するように決まっている。だからそうしたのだが、しばらくの間小さな犬のことを思いだして嫌な気分になった。


 そこでペット避けの薬剤をドラッグストアで買ってきて家の前と庭に大量に撒いた。これで動物が寄りつかないはずと思っていたのだが、その晩から大雨が降って忌避剤はあっさりと流れてしまった。環境のためにと自然由来の物質を買ってきていたので雨には弱かった。


 それから雨が上がった日、職場に行くと『君、ああいうことはしないようにね』と言われた。上司からの言葉だったので無視は出来なかったのだが「ああいうこと」が何を指しているのかよく分かったのでおとなしくそれに従うことにした。


 それから時折何かが玄関前に置かれていることは続いているが、住人達はあの供物が置かれた日、優しく接してくれる。


 こんな事があるのですが引っ越した方がいいでしょうか?


 私に随分と難問を投げてくるなと思ったのだが、『地域に入れたなら良いのではないでしょうか、就職先も見つかったことですし町になじめるようになってはどうでしょう』と変身しておいた。丁度就職難が問題視されていた時代だったのでそう返信したのだが、今になって思うとどこか回答を間違えたような気がする。


 ただ、そのメール以降返信はないので彼が今どう暮らしているのかは不明のままだ。

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