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怪談集「暗中」  作者: にとろ


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その町に惹かれた理由

 その日はとにかく寒かった。こんなに寒い日があってもいいのかと思いながら、ポケットに入れた電気カイロで指を温めながらスマホを操作していた。


 スマホの充電が減っているというのにモバイルバッテリーを優先的にカイロに使っていることに納得いかないながらもスマホを見ていると、メールが届いた。


 最近の人はスマホで長文を書けるんだなと感心しながらそれを読んだ内容となる。


 私は長年夫と共に都市部に住んでいたんですが、夫の定年と言うことで田舎でのんびり暮らそうという話になりました。私も夫の実家に帰ると言われたわけではないので、そんな生活もいいかと承諾したんです。


 納得はしました、ただ物件を夫が勝手に選んで私に見せてきたんです。定年を迎えて暇だったのか、勝手に物件を見に行って写真を撮ってきたんですよ。


 それ自体はまあいいかなと思ったんですが、夫が持ってきた写真はいかにも山間の村と行った物が多く、リタイア後の生活としては多少不便かなと思ったのでそう伝えると、『車の免許なら持ってるから大丈夫だ』と言っていました。運転が不安だとは流石に言いませんでしたが、一応話は聞きました。


 ただ、夫は何故か不動さんの紹介をしてもらっているときにこの地域に何か直感めいたものがあったらしく、ここの家を紹介されたときにすぐにでも生きたいと思ったそうなんです。


 そんなに急がなくてもと思ったんですが、どうしてここに行きたくなったのか聞いてみた。何処にひかれたのかと尋ねてみたのですが、夫はなんとなくとしか言いません。絶対に何かあると思った私は一人でそこに適当な言い訳をつけていってみたんです。場所は教えてくれましたから。


 そうしてそこに行って驚いたんですが、電車を乗り継いでそこに付くと真っ先に見えたのは大きな墓地なんです。いえ、墓地があるからよくないなんて言いたいわけではないですが、来てみて一番目立つのが墓地というのに惹かれるのは疑問に思いました。


 それからその町を回ってみたんですが、商店街はシャッターばかりでしたし、これといって珍しいものはない地方の町でした。


 こんなものかと思って帰ろうとしたんです。その時、帰り道の脇に小さな墓地がありました。そこの石に彫ってあった名前は私たち夫婦のものと同じ名字です。でもどう考えても夫と関係のある土地ではありません。


 申し訳ないと思いつつ写真にそれを撮って帰りの電車に乗りました。それから帰ってきて、夫と話し合おうと思ったんですが、まずあの墓地について問いかけようとしたんです。そうしてスマホを取り出したんですが、そこに映っていた墓地の一つは名前が変わっているんです。


 それは私たちと同じ名字が掘ってあった墓地なんですが、名字が変わっているんです。全然知らない名前の家の墓地になっています。


 私はなんだか嫌な予感がして夫に、引っ越しはいいが場所はちゃんと考えてねと言いました。


 すると恥ずかしそうに『いや、俺もちょうどなんであそこにあんなにこだわったのか分かんないんだがな、まあ考え直してみるよ』と言っていました。


 私も夫も今はリタイア後の移住先を探していますが、見に行くときは必ず夫婦揃ってにしています。アレは一体何だったんでしょうか?


 こんな内容で私は『おそらくちょっとした見間違えか何かでしょう。疲れがたまっているときにはあることです』と返信しておいた。流石に、『呼ばれていたんじゃないでしょうか』と直球で返せる度胸は私にはなかった。

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