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怪談集「暗中」  作者: にとろ


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おかしくない部屋……?

 その日は忙しい日だった。予定外のことをねじ込まれたり、なんだか電波の入りが悪く、しばしの間スマホを使う時間がなかった。ようやく帰ってからスマホを見るとメッセンジャーに通知がたくさん入っている。そこには連作先が入っていたのだが、DMで怪談を長文で書かれていた。少し気合いを入れ直してからそれを読んだのだが、おおよその内容は……


 僕はねえ、どうにも幽霊なんてものはいないと思うんですよ。だからこの前の引っ越し先で告知事項ありの物件を借りるのに何のためらいもなかったんです。思えばソレが良くなかった、どうにも気味の悪い部屋を借りてしまったんです。


 告知事項と言うからもっと悲惨な話なのかと思ったんですが、なんでも話によると、もう大往生だろうというお年寄りが部屋の中で亡くなっていたそうですが、毎日通っていた娘さんが朝に発見して救急を呼んだそうです。


 気の毒な話ですが手遅れだったようです。ただ、結構なお年寄りで娘さんは施設に入ってもらえないかと交渉していたそうなので急に亡くなってもおかしくなかったそうです。


 そんな長生きの人が住んでいただけの部屋なんておかしいはずがないじゃないですか、それが格安で借りられると言うことで私は一も二もなく借りたんです。トントン拍子に契約は進んで、それから間もなく引っ越しました。


 別に何もおかしな事はなかったんです。普通の部屋じゃないかと思いながら済んでいたんですよ。なんだ、やっぱり何もないなと思いながら平気な顔をしていたんです。


 そうしていつも通り生活を送っていたんですが、ある日同僚に言われたんです。


『最近休憩時間に音楽を聴いてますけど、今ってどんな曲が流行ってます?』


 同僚も流行に疎い方だったので私が今聴いていた曲を答えたんです。同僚はポカンと言う顔をしてからいうんですよ。


『いやいや、その歌手ってもうお年寄りじゃないですか! そんな懐メロ聞く人でしたっけ?』


 おかしいなと思ってスマホを見ると某演歌歌手の曲が再生されています。その時は何がおかしいんだと思いながら話はそこで終わりました。


 ただ、帰宅してみるといつも通り将棋の本を読みながら玉露を飲んで一安心したんです。同僚は何であんなことを言ったんだろうと思いながら帰りにスーパーで買った焼き鯖弁当を食べたんです。なんだかその頃は油物を体が受け付けなかったんですよ。


 そんな生活を続けていたんですが、上司から疲れているんじゃないかと言われました。思えば残業をして翌日には朝早く目を覚まし、焼き魚と味噌汁の朝食を食べてから出社していたんです。


 上司はなんだか頬がこけたような気がするし、診断を受けてみたらどうだと言われました。


 私はどうも病院へ足が向かなかったのでそのまま暮らそうとしていたんですが、それから程なく、引っ越し代は出すので別のアパートに引っ越してくれないかと不動産業者が言ってきました。


 なんだか気怠かったこともあり、断ろうかとも思ったんですが、事なかれ主義の自分が出てきて気分を変えるのも兼ねて引っ越すことにしました。


 引っ越して気が付いたんですが、引っ越し先の部屋が年寄り臭いレイアウトだったんです。本棚に並んだ本も、演歌や懐メロのたくさん入ったCDケースなど、どうしてこんな趣味でも無いものを集めていたのか疑問が湧いてきました。


 気のせいかもしれませんがカーテンの柄までなんだか年代物のように見えます。そう言えばお洒落なカーテンだと思って買ったんですが、引っ越してそれを付けるとやたら年寄り臭いんです。


 それから程なく、感覚も戻ってきて断捨離をして年寄り臭いものは処分しました。どうにも思うんですが、あの部屋でなくなったか他の趣味に引っ張られていたような気がするんですよね。


 引っ越し先では何も起きなかったんですが、それから不動産屋の前を通ったときに目玉物件として例のアパートの部屋が貼り出されていました。告知事項がなかったので、ああ、自分が一定期間住んだから普通の家賃に戻そうとしたんだなと思ったんですが、その部屋、告知事項は無くなっていたんですが新しい住人は入っていないようです。


 別に体に害があったわけでもなんでもないんですが、なんとも奇妙な物件だったなと思っています。私は幽霊なんて信じてないんですが、安心のためにお祓いでも受けた方が良いんでしょうか?


 そう尋ねられていたので、『今おかしな事が無くなっていて、その部屋が不自然な空き部屋になっていると言うことはもうその何かと縁が切れたのだと思いますよ』と送っておいた。


 彼が何処に住んでいたのかは知らないが、続報が無いのは何事もない証拠だと思っている。

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