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怪談集「暗中」  作者: にとろ


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実家に残ってほしいから

 その日は気取ってファミレスにノートPCを持ち込み、スマホでテザリングしながら使っていた。パフェが運ばれてきたので、喜々としてソレにスプーンをさしたところでメールが届いた。


 タイミングを考えろよと思いながら、パフェを食べ終わったらドリンクバーで粘りつつ、本文を読むこととなった。


 なんでも彼は実家と折り合いが悪く、都市部に引っ越したのだそうだが、最近帰ってこいとの連絡がしつこいのだそうだ。


 俺は田舎の窮屈さが嫌で都会に出てきた。デカい建物、豊富な求人、お洒落な店。どれを盗っても田舎には無かったものだ。


 とりあえず喧嘩別れになってしまったので日銭を稼ぐためにバイトから始めることにした。田舎だと採点賃金に多少色が付いていれば良い求人だと言われていたのが、平気で四桁の時給が提示されている。


 始めは訝かったのだが、その月、給料日にはしっかりと働いた分だけ口座に振り込まれていた。その分家賃が高かったが、ソレもシフトを多めに入れれば何とか生活出来た。


 ソレからしばし経って、なんとか社員になって生活も安定した頃、実家から家を継げと連絡が入った。『今更戻るわけないだろ』と辛辣なメールを送り返していたのだが、年単位で実家に寄りつかないと今度は誰それがアンタに会いたいと言っていると泣き落としのようなこともしてきた。


 知ったことかとは思ったのだが、一度顔を出して二度と帰らないからと伝えて帰ってこようと決めて帰省を決めた。


 出来るだけ客の少ない閑散としている頃に連休をもらえないかと掛け合った。この時に『出来れば出てほしい』と少しでも言われれば帰省は無しにしようと思っていたのだが、案外あっさりと一週間ほどの休暇をくれた。


 言い出した手前仕方ないかと、電車を乗り継いで帰省をした。しばらく帰ってこなかった間に随分と町並みが荒れている。自治体も金が無いのかねなんて思いながら実家に帰ると、皆揃って出迎えてくれた。


 そうして客間に上等の布団を敷かれ、滅多に食べられなかったすき焼きを夕食として食べて、風呂で疲れを落とすと布団に飛び込んだ。ああ心地いい、もうその時点で意識は微睡んでいたのだが、あっさりと意識が落ちるとき、カーン、カーンと音が鳴ったような気がした。


 しかしそれがなんの音か考えることも出来ず目を閉じていたまま眠りに落ちた。


 翌早朝、目が覚めると部屋が異様になっていることに気が付いた。部屋の四隅、そこに藁人形が打ち付けてある。どれにも自分の名前が顔に当たる部分に貼られていて丑の刻参りを思わせたが、五寸釘で打ち込まれたわけではないようだ。


 そんな時に両親が揃って呼びに来て朝食となった。気味が悪いのでさっさと東京に帰ろうと切り出すタイミングを図っていたら、引き留めの言葉ばかり飛んでくる。何故かあの藁人形には一切触れられない。


 その晩も同じ部屋で寝るのは嫌だったので強引に東京に帰ることにして、延々グチグチという両親をおいで一時間に一本しか来ない電車で東京に帰った。電車を逃してもすぐに次が来ることがその時にいかにありがたいことなのか分かった。


 ただ、その日から夜寝ていると、目が開いて天井を見ることがあるのだが、その天井は今住んでいるアパートのものではなく、あの実家のものだった。


 異様なことになっているのは分かるのだが、その光景は郷愁を誘うものだった。


 私は最近田舎に帰って静かに暮らすべきなのでは無いかと思っているのだが、どうもそれがあの藁人形のせいに思えてしょうがない、これは私の本心なのだろうか?


 そう締めくくられたメールが来ていた。私はそれに『民間に伝わっていた儀式だとは思いますが、田舎の景色を見るのはそのせいでしょう、帰るかどうかはご自身で決めればいいですが、そういった家ですよ』と遠回しにオススメしないと書いておいた。


 今はもう彼がどうしているかは分からない。続報はないのだが、どんな選択をしたにせよ、彼が元気でいることを祈るばかりだ。

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