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怪談集「暗中」  作者: にとろ


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偽物でもいいから

 その日はぼんやりと一日過ごしていた。しんどかったというか体力を使った日だったので早々に寝たのだが、寝るのが早すぎたのか早朝に目が覚めた。スマホで時刻を確認しようとするとメールの通知が来ている。


 時間があるばかりにPCを起動してメールを確かめた。その内容はなんとも不思議な話だった。


 俺も随分といろんなコトを体験してきた。その結果、オカルトは儲かると言うことを発見した。何でも屋でバイトをしていたときに、拝み屋のようなことをやってくれといわれて戸惑っていると、雇い主のオヤジから『そういうのは実入りがいいから受けてソレっぽいことをやっとけ、ソレっぽいだけでいいからな』と言われ、半信半疑で依頼主のところに行った。


 依頼主は祟りがあったと主張しているのだが、くだらないと思いつつ、これに金を払うヤツがいるのかなんて思いながらうろ覚えのお経を唱えた。依頼してきておいてこっちのデタラメに近いお経に何の違和感も持たないことに呆れつつ、最後まで読むと結構な厚さの封筒をもらった。


 ソレを持ち帰って本日の儲けを渡すと、その中から結構な枚数を抜き出して俺に渡してくる。『この手のヤツは儲かるから次からも受けろよ』と言われ帰らされた。その金は一日パチンコを打っていても尽きない程度の金額で、よくそんなに払うよなんて思った。


 しかし、職が長続きしないのはいつもの事でその何でも屋も程なく辞めた。どうせ資金はしばらく持つのだから、精々次までの間楽しませてもらおうと気楽に構えていた。


 そうしてパチンコをしたりお馬をやったりと遊び人らしいことは一通りやった。だがやはり金は尽きてくるもので、そろそろヤバいかなと思ったときにスマホに着信があった。


 くらい声だったが、その声は何でも屋で拝み屋の真似事をしていたときに聞いたクライアントの声だ。なんでも、この前の祈祷が聞いたのでまた俺に頼みたいのだそうだ。


 コイツもいいカモだな、とは思いつつもハッキリそうは言わず、さも相手のことを心配しいている風に話を続けると、なんでも庭によくないモノが居ると言われたが、そういった霊能者に払うお金が無かったのであなたに頼みたいなんて言ってきた。


 人の賃金を買い叩くつもりなのは気に食わないが、それはこちらが偽坊主のようなことをしているのだから人のことは言えない。二つ返事でそれを受けて、ソレっぽい経典のように見えるモノを書店で買ってその家に向かった。


 相変わらずの陰気な家だなと思いつつ、ドアチャイムを鳴らすと家主が出てきた。こちらにペコペコ頭を下げながら庭への該当箇所へと案内された。他人事ながら、一応スーツは着ているものの、こんな偽物を信じるようだし、庭に何か要るなんて適当なことを言われたんだろう。


 そうして庭の該当箇所にいくと、経典を開いて適当に読めそうなところを読んだ。念のため動画サイトでお経を見ていたのでソレの真似をして適当に読んでいる振りをした。


 事が終わると家主はお茶を茶菓子と共に出し、封筒を『お気持ちですが』と出してきた。いちおうがっつかないようにうやうやしくソレを受け取ると、そうそうに家を出た。


 チョロい連中だとあの家の夫婦のことを考えながら封筒を見ると結構な金額が入っている。興奮を必死に抑えながら近くのコンビニのATMで口座に入れておいた。


 これでまた当分は遊べるなと思ったのだが、どうもそう上手くはいかない、馬も船もパチンコもさっぱりあたらない。おまけにパチンコなんて一日中していても平気だったのが二三時間もすると肩が痛くなってきた。


 金ならあるからと整体にも行ってみたのだが、以上は無いので運動を適度にするよう勧められた。


 それから寝るときは金縛りに遭うし、寝覚めも寝た気がしないような生活が続いた。


 これはさすがにおかしいと、近所のお寺に行ったところ『アンタえらいもんを連れ取るねえ……』と住職が露骨に嫌な顔をする。何か憑いているなら祓ってくれと言ったのだが、ウチじゃあ手に負えませんと言われ、どこそこにいくらくらい包めば祓ってくれると言われたのだが、あの時もらった札束の何倍にもなる額だった。


 あの家主に担がれたんだと気が付いたので、あの家の電話にスマホからかけた。しかし電話番号は使われていないと流れる。


 じれったくなりあの家に行くと、そこはもう家を壊して売地となっていた。もうどうしようもないのかとイライラしたのであの家主を探して欲しい。


 私はこの身勝手なメールを読んだ後に、一応ちゃんとしたお寺の名前を書いてここに頼めと送ったのだが、帰ってきたのはメーラーデーモンからアドレスが存在しない旨の自動返信だけだった。


 彼が今、なんとか元気にやっているのかは杳として知れない。

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