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怪談集「暗中」  作者: にとろ


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オオキさんの御利益

 その日、休日ということもあり昼寝をしていた。気分良く目覚めたのだが、PCにメールが届いているのが目に入った。休日でもお構いなしだなと思いながらメールを開いた。


 その内容は不思議なモノだったので記載しておこう。


 私は娘が生まれてから田舎に引っ越した。娘が喘息であり、重度だったため空気が綺麗なところに越そうと夫婦で話し合って決めた。


 そうして田舎での仕事も見つかり、引っ越そうとなった。一番の条件である食う気が綺麗なところは譲れなかったのでそこにはこだわって決めた物件だ。


 田舎への引っ越しはトントン拍子で進んだ。大荷物を持って行くことになるかと思ったのだが、夫婦揃って荷物をまとめたときには思いのほか小さかった。


 そうしてまとめた荷物を業者に渡し、揃って引っ越した。娘はぜぇぜぇと息苦しそうにしていたのでこのままここにいてはダメだと思い、引っ越しは決めて良かったと思った。


 そうしてやって来た田舎なのだが、住人はフレンドリーだし、郷に入っては郷に従うと言う言葉の通り、多少変わった習慣はあったモノの、それに合わせていれば歓迎された。


 幸いなことに娘も引っ越してから喘息が見る見るよくなっていった。


 ところで引っ越してきた理由を誰にも説明をしていなかったはずなのだが、近所の人との世間話をしたときに『娘さんの喘息もよくなったろう?』と一人が言ったので驚いてしまった。


 詰問したいところを抑えて『ええ、おかげさまで』と答えると『そりゃあ良かった、オオキさんのおかげやからな』と言う。オオキという人物に心当たりが無かったのでそれを問いかけた。


「ああ、ちゃうちゃう、オオキ言うんは大きな木と書いて大木さんや。ほら、あの寺に大きな木があるじゃろ? アレをここじゃあ大木さんって呼んでるんや」


 そう言えば寺の敷地、辞めに面した方に大きな木が生えていたのは覚えているが、土着信仰か何かだろうか?


「大木さんが教えてくれるんですか?」


 そう問いかけると、隣人のおじいさんが言う。


「そうや、何過去まっ撮る人が来たら大木さんに文字が浮き出るんや、それからちゃんと生活しとったら大木さんがその困りごとを引き受けてくれるんや」


 にわかには信じがたい話だったが、娘の喘息が突然よくなっただけに否定も出来ない。


「大木さんにはな、困っとる人がおったら木の皮に困りごとが刻まれるんや、その時に見つけた住職がありがたいお経を上げてくれてな、その字が大木さんから消えると解決するんや」


 どう答えたものなのかと思いながらも、曖昧に頷いていた。言い伝えレベルの話ではあるが、それが害をなさないのならそのままでもいいやと思った。


 最後に聞きたいのですが、こういうものって見返りを求めたりするんでしょうか? そうだとするとかなり大きな支払いが必要になるような気がして怖いんですけど、聞いたことはありますか?


 こんなメールだったが、私には正直それが何なのかも分からないし、調べてもそんな言い伝えなんてなかった。どう答えようか悩んだ末に、『娘さんが良くなったなら気にしなくていいことだと思いますよ』と答えて返信した。


 それから後日、町の人が小火を出したのだが、それが寺の方へ燃え広がりそうだったのが、例の木の付近で不自然に火が止まったので鎮火に成功したらしい。


 そんな力を持った木に助けられて大丈夫なのだろうかと不安なのだそうだが、このメールを送られた方は、あの木の力は本物ですねと締めてしたのできっと平穏な生活を送れているのだろう。気になるのは木が燃えるかどうかの火事だったというのに検索しようがその地域の新聞を軽く調べようが何も出てこなかった。


 良いことだとは思うのだが、果たして彼女が信じている木は本当に存在するのだろうかと少しだけ不安になった。

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