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怪談集「暗中」  作者: にとろ


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とある都市にて起きた奇妙な体験

 その日は気分良く帰って来た。珍しく凡ミスもやらかさず平和に終わったので、今日はきっといい日なんだろうとアルコール度数の低い酒も一本買ってきた。明日のために度数の強い酒を買わなかった自分を、勝手に自分で褒めてやりながらPCの前に座ってナッツと缶チューハイの蓋を開けた。


 ポリポリ……ゴクリ


 適当に交互に食べながら動画を見ていたときだ。不意にピコーンと音が鳴った。こんな日もメールは来るものなんだなと思いながらメーラーを見てみると、何やら不思議な体験をしたらしいことが書いてあった。


 私は大学を卒業してから某県庁所在地に住んでいるが、最近なんだか変なことが起きる。時には目覚ましがセットしたはずの時間より早くなったり、しかたなくスマホのアラームに頼ろうとすれば時間設定の部分を一時間ずれて設定していたりする。


 おかげで遅刻したなら腹立たしいのだが、早く目が覚めたの遅刻こそしなかったが、一時間という朝の貴重な睡眠時間を削られてイライラした。


 その日、帰ってきて鍵穴に鍵を刺したのだが、なかなか上手く回らない。時計回りも反時計回りも試していると、ようやくガチャッとドアが開いた。一安心して部屋に入ると、疲れ切っていたので最低限の化粧落としなどをしてからさっさと寝てしまうことにした。普段より力を入れて体を洗って着替え、寝ようとしたときだ、ふっとそれまでたまっていたイライラが消えた。


 気持ちの問題なので気のせいだろうといわれてしまえばそれまでなのだが、どうにも私がイライラしていた気持ちを浄化されたような勢いの良さで気分が良くなった。


 その日は結構いい睡眠をとることが出来た。しかし、翌朝になるとキッチンにジュースを出しっぱなしにしていたことに気が付いた。冷房は狭い台所には無いので、その時ジュースはお察しの状況になっている。そっとゴミに突っ込んでから何事もなかったとした。


 しかしそういったイライラはどうしても募っていく。日々生活しているときに時には冷蔵庫の蓋が締めきられておらず生ものが傷んでいたり、お風呂の蛇口から水がちょろちょろ出ていたりと、些細な腹の立つことばかりが続いていく。


 しかし不思議なもので、寝ようとするときそのイライラは毎日フッと霧散するように消えていく。この感じはどうして起きるのだろうかと考えるのだが、深く考える前に寝てしまう。


 そうして目を覚ましたときだ、ある時随分晴れやかな朝だなと思いながらカーテンを開けると、黒い毛がハラハラと落ちてきた。


 その時にふと思いだした。ずっと昔、学校の図書室の本にバクという生き物のことが書かれており、それは悪夢を食べるのだと書いてあった。


 もしかすると、この部屋にいるのは私のイライラを食べてくれているのかもしれない。それ自体は良いことのように思えるが、そうなるとイライラの原因を作ったのも同じモノと言うことになる。


 酷いマッチポンプだと思いながら、今は次のアパートを探している。事故物件を調べる方法など、出来るなら教えて欲しい。


 メールにはそう書かれていた。瑕疵物件、いわゆる事故物件はそう言ったものの告知義務があるので無理して調べなくても教えてもらえますよと私は返答をしておいた。今も彼女がその部屋に住んでいるのか、今はもう引っ越したのかは知るよしも無い。

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