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怪談集「暗中」  作者: にとろ


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スマホを買ってもらったのに……

 その日はあまり気分の良い日ではなく、そんな日もあるかと諦め気味にPCの前に座っていた。そうそうメールなんて届きやしないだろうと高をくくっていたのがマズかったのか、なかなかに酷い体験談が届いた。内容は大体こうだ。


 俺は小学校でスマホを買ってもらえなかった。腹が立ったものの、当時は親というものは絶対的なものであり、買わないと言われるとどうしてもそれでおしまい、どうあっても手に入らなかった。


 ただ中学に上がるとき、スマホを買ってやろうと言われた。喜び勇んだのも僅かな間で、買ってやるのは中古のみだという。


 中学生になったんだからスマホくらい持たせてくれよとは思っていたが、型落ち品を押しつけられるとは思わなかった。確かに多少の型落ちでも我慢するべきかもしれない。そう考えて親と一緒の近所のスマホを売っているジャンク屋に行った。いくらなんでも初めてのスマホを買い与えるってのにジャンク屋で探すのはどうなんだと思ったが、その言葉はぐっと飲み込んだ。


 そうして店内に入ったのだが、型落ちとはいえ、そこそこ動くスマホが目に付く。この中から出来るだけ新しくてグレードの高いものを探していたのだが、同行していた父親が『これなんて良いんじゃないか?』と値段以外見たことの無いものであろうスマホを指さした。


 それは一見黒い板であり、値札が貼られていなければスマホと気づかなかったかもしれない。値段は一万にも満たない。明らかに値段で選んだろうなと思ったのだが、ここで悩むことになる。


 これ我慢すれば訳のわからない端末だがスマホは手に入る。しかし我儘を言うとスマホの購入自体を白紙にされる危険性もある。安いので我慢するか、上手く交渉するか、悩んだ末にそのスマホでいいと決めた。


 そうしてそのまま持ち込みで携帯ショップでSIMを発光してもらい、無事に自分のスマホを手に入れた。


 だが、両親が不定期にスマホをチェックするという条件まで入ったのでロクな話が出来ない。親の監視下だとちょっとした猥談も出来たもんじゃない。それが条件だと言われてしまった以上仕方ない。


 そのスマホを使うことにして、一通りの設定を済ませ部屋の机に置いておいた。


 勉強もしないとなあなんて思いながら精々メッセンジャーくらいしか使える機能がないスマホを置いておいた。


 ところがある日のことだ。母親がスマホをチェックしたいと言ってきた。どうせロクなものなんて入ってないんだから勝手に見てくれとばかりに手渡した。


 何やらチェックをしているようだが、どうせまともにコミュニケーションの取れないような内容しか送れないのだ、何の問題があるだろうかと勝手にさせていた。


「アンタこれなんなの!」


 そんなことを大声で言われたので驚きつつ、一体何の問題があったのかと見せてもらうと、そのスマホは光沢のあるブラックで、画面に映っているのは長い間病院に入院している親戚の名前が流ちょうな明朝体で書かれていた。背景は真っ黒で、それは確かにスマホなのだが何処か位牌のデザインに見えた。


「知らねーよ、わざわざこんなしょうもない画像なんて作るかよ」


 そう言ったのだが理解はしてくれず、しばしスマホを預けることになった。どうせロクな話が出来ないものだからと割り切って預けてしまった。


 それから数日後、元々危ないといわれていたとはいえ、その親戚の訃報が届いた。


 それからも数日母親によるスマホ没収は続いたのだが、ある日青い顔をしてスマホの画面を見せてきた。そこにはこの前と同じように黒背景に文字が書かれている。今度書かれていたその文字は、親戚間でもヤンチャをしていると噂の素行の悪いヤツだった。


 作ってないんだなと詰問されて、触ってもないというと、ため息と共にそのスマホを金庫にしまった。元々は隠されていたようだが、今度はどうにも物理的に触れないようになった。


 それで一安心……とはならなかった。霊の親戚が盗んだバイクで百五十キロほどを出して事故を起こし、それはもう大変な有様だったという。その様子は盗まれたバイクの持ち主が賠償を求める気にもならなかったと言うことから分かるようなものだったらしい。


 それから、父親が日曜日に携帯ショップに行こうというので、何の用なのか聞くと、『いや、最新のスマホを買ってやろうと思ってな。古いヤツだと何かと不便だろ?』と言っていたが、実際のところはどうだろうか?


 店舗に着くなり真っ先に霊の端末の処分を求めて、俺は無事最新機種を手に入れたのだが、これを素直に喜んでいいのか分からない。悪いのはあの端末だとは思うのだが、自分がアレを適当にいじっていたことを思い出すと背筋の冷える思いだった。


 新しいスマホにしてから何も問題は起きていない。スマホなんてごく最近のものにも幽霊か呪いかなんて付くんですね。


 メールはその一文で終わっていた。調べてみたところ、それから程なく、スマホを買ってもらったキャリアショップが、契約者に必要のないサービスを押し売りしていたことで一時営業停止になったのはきっと偶然なのだと思いたい。

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