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怪談集「暗中」  作者: にとろ


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新築物件に住む猫

 その日はさわやかな朝だった。朝日が窓から差し込んできているので、日差しの中で起きて朝食を食べようとした。トースターに入れたパンが出てきたところでバターを塗って、さあ何か味付けをして食べようか、そのタイミングでパンが手から滑り落ちた。


 運の悪い日はあるもので、バターを塗った方が上だと思いたかったのが現実はそんなものだ。諦めて勝手に三秒ルールの内だろうと決めてパンを拾い上げて食べた。その時、前日に床を掃除しておいてよかったと心底思った。


 朝っぱらから運がないなと思いながらPCを起動させると、その日もメールが来ていた。それもその日は厄日なのか、あまり気分の良いメールではなかった。


 大体の内容は以下になる。


 俺が妻と結婚して娘を産まれてから、どうにもおかしな事が起きる。


 始めは娘が妙なものを見たと言いだした。なんでもせっかく建てた一軒家なのに夜になると猫の声がするという。新築に猫が住み着かれてはかなわないので仕方なく床下を覗いてみることになった。


 娘が猫の声が聞こえると言っていたのはキッチンに備え付けの床下収納かららしい。こんなところに猫が入れるとは思っていなかったが、娘が聞こえるというのだから黙ってもらいたかった。


 ここを開ければ猫などいないと理解するだろう。そう決意して何も入っていない床下収納を開けた。そこに猫が忍び込んでいればどんなに良かっただろうか……収納を開けて目に付いたのはお札だった。一緒にいた妻も言葉を失っているのだが、娘は『ねこさん!』と言う。どうやらこのお札から猫に関する何かを感じるらしい。


 考えた末、そのお札を剥がしてゴミに出すことにした。たかがお札が一枚、グリルでもあれば焼けるものだが、なんとなくこれを自分の手で焼こうとは思わなかった。勘ではあるが嫌な予感がした。


 だからそれをゴミに出したのだが、その後が最悪だった。キッチンを始め至るところが獣臭くなったのだ。もちろん動物など居やしない。何も無い場所から獣の匂いがするのだ。犬か猫かも分からない、とにかく汚いものが通り過ぎたような匂いがする。


 娘の方は『ワンチャン』だの『きつねさん!』だの言うようになってしまった。何故こうなったのかさっぱり分からない、きちんとあのお札が持って行かれたことは確認済みだ。


 仕方ないので本当に嫌なのだが、近くの寺から坊さんを一人呼んで何とかしてくれと頼んだ。


 しかし坊さんは家に入るやいなや『ここに何か溜まっておりますな。こちらのようだ』そう言ってキッチンに向かっていった。


 その坊さんは迷わず床下収納を開けると嫌そうな顔をした。


「ここに何か封印があったはずですが、心当たりはありませんか?」


 何故かそこにあったお札の話をするとため息を一つ吐いてから「それは随分ともったいないことをした」と言い、お札を何枚も床下収納に貼っていった。貼り終える頃には床下収納から臭いは立たなくなっていた。


 その坊さんに謝礼を払うと、『これは定期的に貼り替えが必要ですよ』と言われてしまった。なんでも毎年くらいには貼り替えなければ封が外れるのだそうだ。理想は半年以下で貼り替えることだそうだが、何とか交渉して毎年にしてもらった。


 おかげで寺に払う金は結構な額になることになり、剥がしてはいけなかったお札を剥がしたせいで出てこれなかったものを出られるようにしてしまったらしい。


 どうして新築だというのにそんなものが出たのか? 不動産業者も何も言っていなかったはずだと思ったのだが、動物のことは告知しなくても良いと突っぱねられ詳細すら教えてもらえなかった。


 この○○不動産のことを書き残して欲しい。


 そう書かれていたのだが、私も実名で不動産業者を告発する役目はない。この方にはそっとお断りのメールを送って置いたのだが、その晩そのメールアドレスから罵詈雑言の書かれたメールが届いた。本当にその日は厄日だったと思ったのだった。

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