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怪談集「暗中」  作者: にとろ


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ロウソクを燃やす儀式では……

 その日、俺はイライラしていた。まだ扁桃が扁桃腺と呼ばれていた頃から弱かったのに、熱を出して喉が痛かった。これほどスポドリが美味しく感じる日はないなと思いながらPCの前に座っていた。


 こんな日は何かメールでも来れば気が紛れるのだが、音楽を聴いていても普段は好きな曲なのに喉が痛いと言うだけでここまでイライラするのか。本当にムカついていた


 そんな時、ピコーンとメーラーの着信音がした。本当にタイミング良く来てくれると重いそれを開いた。


 俺は嫁に必死に求婚してそれが実ったんだが、その時に結婚の条件が自分の両親と同居してくれと言うものだった。俺には不相応と言ってもいいほどの配偶者だったので嫌も応も無く引き受けた。それで結婚が成立するなら安いものだと思っていた。


 そうして妻の実挙での同居が始まった。家族は皆、別の地方に住んでいた俺でも温かく迎えてくれた。その日は宴会となり、義父に酒をガンガンと飲まされ翌日には妻が水を持ってきた。なんでも記憶には無いのだが、楽しい宴会にはなったらしい。家族も皆歓迎してくれたから安心していいよと言う。


 それは良かったと思ってその地域に骨を埋めるつもりで地域の活動に参加した。時代遅れと言われそうなイベントもあったのだが、それらは確かに楽しかった。気の持ちようだなと思い、そうしているうちにすっかりこの地域にも馴染んだ。


 そんな時、都市部から引っ越してくる夫婦がいた。金を持っているらしくFIREだなどと言っていたが、その意味がどんなものかは分からなかった。


 ただ、その夫婦は時折近所ともめ事を起こしていた。時にはゴミ出しの時間を守らなかったり、行事への参加を拒否したり、町内会にも入らなかったようだ。


 町の人たちはそんな夫婦を『現代的やねえ』などと言っていた。別に排除するでもなくその夫婦はもめ事を起こしつつも住み続けていた。ただ、ある夏の夜のことだ。


 花火大会があるのでと妻に連れ出された。開けた小さなグラウンドで遠くに観客席を設けて花火が打ち上がった。ささやかだったが、花火大会をする余裕もあるんだなと思った。


 ただ、その花火大会にいくつかの家族が参加していない。あのもめ事を起こしていた夫婦と、長老と言ってもいい、町内でも最高齢と見なされていた夫婦だ。


 若い夫婦はこういったことに興味がないのかもしれないし、年寄りには夜の花火大会は大変なのかもしれない。そう納得していたのだが……


 翌日、ゴミを捨てにいくとゴミ捨て場の掃除をしている奥さんから声をかけられた。その奥さんは、あのもめ事を起こしていた夫婦の奥さんだった。


 夫の方もそれから行事に参加するようになり、町内会にも入り、この町の一員として快く迎え入れてもらったそうだ。


 ただ、ある日の夜のことだ。寝ていると妻がこちらに話しかけてくる。そういう話かと思ったのだが、どうやら違うようで、小声で俺に言う。


「あの奥さん、もうここから離れられないわね。あなたも町の人と仲良くしていってね」


 その言葉にどこかゾクリとするものがあった。何処をどう考えてそう思ったのかは分からない。ただ、あの突然の豹変と無関係とは思わなかった。


 それから少しして、町内会の家族から一人ずつ出て、地域の地蔵にロウソクを供えるというイベントがあった。


 そのイベントには普通にロウソクをともしたものを置いていくのだが、そのトリを務めるのはあの問題を起こしていた夫婦だった。


 二人が招待されたらしく、ロウソクを二本地蔵に供えると、ひときわ大きく炎を出して燃え尽きた。それをぼんやりと見つめる夫婦には怖さがあった。


 それからというもの、待ちは平和そのものなのだが、あの二人に一体何があったのかは分からなかった。後になって妻にこっそりと尋ねた。すると『町にそぐわないものはあの儀式で燃え尽きちゃうのよ』と言っていた。


 確かに良い町なのだが、この町が何かに『守られている』と言っていいのだろうか? 何にせよ今もここは平和に暮らしている。時折外国人も移住してくるのだが、始めはルールを無視していても、必ず町に馴染んでいって、あの儀式では供えたロウソクが勢いよく燃えていた。


 あのロウソクには煩悩を燃やす効果でもあるのかと始めは思っていたのだが、幾度もそういったものを見ていると、アレは元の人格を燃やしているのではないかと思う。勝手な想像だがそういった古くからの風習があるようだ。正直怖くて仕方ない。


 彼からのメールにはそう書かれていた。今の生活に不安は無いが、自分だけは品行方正な生活をして行こうと誓ったそうだ。

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