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怪談集「暗中」  作者: にとろ


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ごた混ぜの職場

 その日、コーヒーを飲みながら新しく買ったイヤホンをPCに繋いで音楽を聴いていた。そのとき聞いていた曲がのんびりしていたせいか、ついウトウトしてしまったのだが、ミュージックプレーヤーの音量を下げていたせいでシステム音が大きいままなのを忘れていた。


 意識が落ちそうになったとき通知音で一気に現実に引き戻された。どうやらメールフォームから送信されたメールがあったようだ。


 それを読んでみたのだが、なんでも少し前、奇妙な出来事があったそうだ。


 私が就職をして程なく、社内で妙なことが始まった。試用期間が終わったかと思うと朝出社すると神棚を丁寧に綺麗にしてから、応接室の仏像を綺麗に拭いて、入り口にある十字架を磨いておけと言うのだ。


 もちろんそんなことは一言も業務に含まれるなんて言われていないし、応接室に至っては入ったことが無いので仏像の存在すら知らなかった。


 よく考えてみればどれか一つならともかく、これら全部となると偉い誰かが特定の宗教を信仰しているわけでもないのだろう、全体的に宗教がちぐはぐになっている。


 何故そんなことをするのかと疑問には思ったのだが、その時間にも給与は出ると言うし、その時期は就職難で就職先を選ぶなんて贅沢だった。だから否が応でもそのよく分からない業務命令に従っていた。


 ただ、何か職場がおかしいのだ。とにかく入れ替わりが多い。就職難だというのに辞めるヤツは辞めてしまう。だが、時代が許したのか、就活をしている人間はたくさんいたので次から次へと雇っていたのだが、何故か上は退職届や辞表を持ってこられたときに、なんだか納得したような顔をして受け取っている。


 何かがあるのだろうと思うのだが、具体的に何があるかは不明だった。ただ、一回新人を飲みに誘ったことがある。その時に妙なことを聞いたのだ。


 その新人は『勘弁して欲しいですよ、この前も最後にオフィスを出て帰ろうとしたら電気が点いてるんですよ、消しに戻るのが面倒でもう……』そのときは愚痴半分に聞いたのだが、その次の言葉にゾクリとした。


『それで電気を消しに戻ったらオフィスに誰かいるんですよ、誰だと思って入ろうとしたら鍵もちゃんとかかかってるんですよ。でも開けたら誰もいないんです……そのときは灯りを消して帰りましたけど、あそこなんか居るんじゃないですか?』


 そのときは『そんな話は知らないが……』と言って誤魔化したが、あのごたまぜの宗教アイテムはそこに居る何かを抑えるためのものではないか。よく考えたら仏像など翌日に拭くと煤のようなものが付いていることがある。一日で付くような量ではない。


 その新人が辞めてから程なく、思うところもあり退職を決めたのだが、そのときは随分と引き留められた。他の新人からベテランまで去る者追わずの精神だったのに『君みたいな人材は貴重なんだよ』と言って引き留められた。自分が特別なスキルを持っているわけではないので、なんとなくだが『幽霊が分からないってことか』と分かってそこからは逃げ出した。


 なんとか次の職場も見つかって無事に今もそこに勤めている。あの職場で何があったのかは謎なので知っていたら教えて欲しい。


 そう書かれていたのでその場所を調べるとあっさりと原因らしきものは出てきた。どうやら遙か昔にその辺りが刑場だったらしい。後味の悪い結果となったが、メールを送ってもらったのでそれを返信しておいた。


 それに対する返信は無かったが、メールが返送されてこなかっただけで安心した。

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