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怪談集「暗中」  作者: にとろ


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倫理観が今より緩かった頃のこと

 その日は結構な時間寝ていた。休日なので暇を持て余していたのだが、平日の疲れをとろうと割り切って寝て過ごす事にした。


 そんな時、いったん起きて、牛乳を一杯飲んで寝ようとしたところでメールが届いているのが見えた。


 PCの最前面にメーラーを出しておいたのが良くなかったなと思いながら、目に付いてしまったのでメールを開いた。


 そこには昔の過ちですと書かれた文章があった。多分お年を召した方なのだろう、所々漢字変換や句読点がおかしかったりした。それを修正して読んだものだ。


 私は随分と生きてきた、年をとるともう先が見えてくる。そんな年になったので年寄りの懺悔を聞いて欲しい。


 アレは私がまだ遊び歩いていた頃だ。戦後ではあるが今ほど安全でも無ければいろいろな問題が山積していた時代のこと。


 私は悪友と川で食べられる魚を捕って、家に持ち帰ろうとしていた。もちろん密漁であり、そんな事がバレたら叱られるどころか、あの時代なりの制裁をされるだろう。ソレも覚悟の上でするほどに当時は飢えていた。


 川には鮎やヤマメがおり、今となっては見る影も無いが天然の高級魚たちがこれでもかというほどいた。


 だから気が大きくなって、お互い家族の分までも捕まえて帰ろうと網を構えて魚を掬っていった。数が多いだけ合って結構な数が取れたのだが、その中の一匹に見た事も無い、うっすらと虹色に輝く魚がいた。


 そんなものは見たことが無く、いつの間にか混ざっていたこれをどうするか、友人と意見が割れた。そこで友人が『食えなくは無いだろ、要らないなら俺がもらう』というので、これを自分が持っていても仕方なさそうなこともあり友人にソレを譲った。


 結構な大量で家に帰ったのだが、母親に怒鳴られ父親には殴られた。食べ物の貴重だった時代に密漁なんてしたというのは恥だと言われた。だが、祖父は戦時中を知っており、人間腹が減ると人倫にもとることだってするもんだと擁護してくれた。


 ソレで何とか論争は収まり、今更魚を返す方法も無いのでこっそり食べるように決まった。


 その時に、祖父に礼のつもりで言葉を述べ、その時にふと友人に渡したよく分からない魚のことを話してしまった。途端にゲンコツが頭に降ってきた。


「お前は持って帰っておらんのだろうな!」


 強く言われたので必死に自分はそんな変な魚は持って帰っていないと言った。すると祖父は『あれはな、命を食って生きとるんだ』と言う。


 始めは何を言っているのか分からなかったのだが、どうやら祖父によると、戦中に死人が沢山出たときに、川に何匹も奇妙な色をした魚がわいたそうだ。その時に魚たちは死人の出た家の方に集まっていたので何とも不吉な扱いをされたらしい。


「いいか、アレを絶対に捕るんじゃないぞ」と言われて頷くほかなかった。


 その翌日から友人は腹を下した。友人達の家族全員が腹を下すものだから、何かの流行病を疑われたのだが、他の誰にも感染する様子はない。


 結局、その友達は生死の境をさまよったと自称していたが、無事回復した。


 ただ、後になってその友から、『俺さあ、戦場に行ってる夢を寝込んでいる間ずっと見てたんだ』と言われゾクリとした。


 それから魚の密漁はすっかりとやめて、貧しいながらも真剣に生活を送った。ただ、あの日の友人の言葉は忘れられない。どうにも触れてはならないものに触れてしまったのではないかという気がしてならないので、こうして誰かに知っていてほしかった。


 そう書かれていた。返事は不要だそうだ。なんとも昔の、不幸が珍しくなかった時代の奇妙な出来事だと思わされたメールだった。

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