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怪談集「暗中」  作者: にとろ


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引っ越し先の家の先住者

 ある日、メールで届いた怪談になる。季節は春で桜も咲いているというのに、そのほのぼのした雰囲気に似つかわしくない話が来た。


 俺が引っ越してからどうにも妙なことが起きていた。始めは家の中に子供を時折見るようになったことだ。子供が見えると言っても、着ている服の裾であろうものが見えたり、戸を閉める手だけが見えたり、影が見えたりするだけだ。


 ハッキリ顔を見たわけではないのだが、どうにも子供だろうと考えが浮かぶ。そうなると気になってくるもので、子供の姿を見たいと思い始めた。


 しかし、自分が目を離そうとする寸前にわずかに手の先や服の端が見えるだけだ。ソレが幽霊か何かなのだろうがどうしても見ることはなかった。


 どうして自分は結婚もしていないというのに子供の幽霊と同居しているのか? わざわざ俺の所へ現れてきた理由はなんだ?


 そんなことを考えているとどうにもはっきり見えないものと同居しているのは据わりが悪い。せめてなんの理由で家に出るのかだけでも分かれば安心出来るのだが、不動産屋も子の家で何か起きたことは無いと言っていたので、幽霊が出るような下地はないのだろう。


 ある日、トイレに入っていたときだ、用を足しているとガチャガチャとドアノブが音を立てた。ノックを返そうとしたが、よく考えなくても自分以外が家にはいない。では誰がトイレに入ろうとしているのか?


 鍵をかけていたことに安心して、その誰か分からないものが去るのを待っていたのだが、カチャカチャと音を立てたかと思うと鍵が回り始めた。トイレの鍵は外側からでもコインのような薄く平たいものが有れば開けられるようになっている。


 慌てて内側から鍵を回し直して、しっかり握りしめ、開かないようにドアを支えた。しばしすると音が聞こえなくなったので恐る恐る外に出るとやはりというか誰もいなかった。


 ここは普通じゃないと思い、出来る限り外で過ごすことにしつつ不動産屋で新しい物件を探した。予算に余裕があるからと借家にしたのがマズかった、次に本社に戻るまでの仮住まいなのだから素直にアパートにしておけば良かった。


 不動産業者は引っ越したいというとあっさりと受け入れてくれた。あの家に何があったかは絶対に口を割らなかったが、何もないはずがないと思った。


 そうしてネカフェから銭湯や図書館などを利用してなんとか出来る限り家に帰ることなく過ごした。


 程なくアパートが見つかったので早々に引っ越した。ただ、どうにも気にかかるのは引っ越すときに引っ越し業者がやけに見積もりをふっかけてきたことだ。荷物量から考えるとそんなに高額になるはずがないのだが、やたらと高くついた。


 引っ越すときになっても業者が来たときに露骨に嫌そうな顔をしたのを覚えている。


 絶対にあの家には何かあるはずなのだがそれがどうしても分からない。


 そしてこのメールには『最後まであの家のことは分からなかったが、何か分かったら教えて欲しい』と書かれていた。しかし事故物件の検索サイトでも見つからなかったし、地名で調べても特に事件はない。送信者には申し訳ないがゼロ回答となったのだった。

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