表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君の瞳に恋してない  作者: バカノ餅
オーケストラを観にいこうよ
43/53

【日常】昼に目あり、ケモノに耳あり!?

「お邪魔しま~す!」


「ようこそ〜!」


 キラキラ輝く瞳で卯月はアタシの玄関に立っていた。アタシは女王に道を譲るように跪き、部屋の方へと手を向ける。


 数日流れて、奏とアタシは退院した。

 オーケストラを観に行く約束については、開演するところが見つからないので一時保留となった。


 これからはいつもの日常だ。


 今日だって卯月がアタシの家に遊びに来てくれた。


 でも用があるのは──


「む…来たか。」


 狼のケモミミと尻尾を頭から生やす奏…いや……


「あ、ルナちゃんやっほ〜!」


「あ、ああ。」


 ──ルナだ。


 卯月はルンルンと笑顔で部屋へと向かう。

 アタシも後を追うように卯月の後ろをついていく。


「今日は何のキロクをみるのだ?」


「記録じゃなくて映画だよ?」


「む……」


 そう、卯月とルナは映画鑑賞仲間となっていた。

 卯月の(演者)の勉強とルナの人間の勉強が映画というアイテムにより交差したのだ。


「へへへ〜今日観る映画はね〜……じゃん!」


 卯月は鞄をガサゴソと漁り、誰に影響されたのかは知らないが某ネコダヌキロボットの効果音を口ずさんで、とあるCDを取り出した。


 なぜCDなのかと言うと、アタシがサブスクに契約できないからである。

 

「ホラー映画です!」


「ほらー……?」


「そそ、ホラー。ハラハラドキドキを楽しむジャンルだよ〜。この映画はね、ヒトコワ系の中で一番勉強になる作品なんだよね!ジャンプスケアに頼らず、演者さんの演技だけで怖さを感じちゃうの…!そしてね、この演者さん、えっと、表紙に写ってるこの人のこと!この人がもう──」


「ストーーーーップ!卯月!止まらなくなるから!ウチの犬ころ困ってるから!」


 卯月はハッとした表情を浮かべ少し顔を赤らめた。

 

「ふむ……今回は人の恐怖を学ぶのだな?」


 ルナは少し眉を寄せながらも考えを話した。

 えらいぞ〜!


「え、えっと…うん。そういうことだね……」


 少し沈んでしまった卯月は、気分を切り替えようとルナの隣に座ってCDをプレイヤーに挿入した。


 ルナは真顔のまま尻尾を振り、耳をピクピクさせる。


 そう……耳を……



 ***



「えっと……今は奏であってるんだよね?」


「え?うん。」


 退院から翌日。

 少し話しかけづらい朝。


 ベッドの上で仰向けに寝転がる奏にアタシは質問した。


 それに答えた奏は上半身を起こす。

 アタシは対等に話せるようベッドに座り、続けて話した。


「ルナってさ、奏と視覚共有できるの?そもそも今意識あるの?」


「うーんと……結論から言うと見えないらしいよ。」


「『らしい』?」

 

 きょとんとするアタシに向けて奏は胡座をかいた。


「うん。えっと…頭の中に響くんだよね。ルナの声が。」


 奏は自分の頭をトントンと人差し指で軽く叩いた。

 答えを聞く限り、ルナの意識はあるってことだよね。


「へ〜……二重人格的なアレ?」


「イメージはそんな感じでいいと思う。」


 事情さえ分かっていればなんとか頷けるが、知らない人が聞いたら多分心配されるだろう。

 後で注意しておこうかな……


「ねぇねぇ、ルナに代われる?」


「え?う、うん。」


 奏は瞼を閉じ、数秒静止した。


 そして次の瞬間、奏がみせる瞳の色はあの時と同じ深い銀色になっていた。


 顔つきも大人っぽいていうか、クールっていうか……


「なんだ?」


「は、はいっ!」


 ヒシヒシと伝わる威圧感に思わずドキッと肩が跳ねる。


 ってあれ……?


「耳と尻尾は……?」


 ルナはアタシの言葉に釣られるようにして頭を確認する。


「ふむ、やはりないな。」


「『やはり』?」


「ああ。奏はまだ完全に身体を渡していないということだ。」


「ほ、ほー……完全に渡してないと尻尾達は生えないと……?」


「ああ。それと耳やシッポだけではない、身体能力はフカンゼンで、奏の声も聞こえるままだ。」


 ルナは奏とは違い、可愛い仕草はなく、クールに腕を組んだ。


「へぇ〜。じゃあ完全に渡したら?」


「奏の声は聞こえなくなり、耳とシッポが生え、身体能力がカンゼンとなる。」


「ふーん……」


 そしてしばらくの沈黙が流れた。

 ……狼と人…共通の話題あったっけ?


(ぬし)よ。なぜダマル?ワタシが何か嫌われるようなことしただろうか?」


「あっ、いや!そんなことないよ!……っていうか…『主』?」


「……?主はここの家主だろう?」


「ま、まあそうだけどさ……」


「なぜそんなムズカシイ顔をする。」


「そんなことないわいっ!」


「……やはり人間は難しいな…」


 奏ぇ〜助けてぇ〜……


「む…いいのか?……そうか。」


 突然ルナがひとりでにつぶやき始めた。

 心配そうに何かを考えながらブツブツと喋る。

 でも多分これって……奏に関してだよね……?


「どうしたの…?」


「奏が一度身体を譲渡してみたいと言っている。」


「なんか心配そうだけど…渡したら危ないの?」


「いや、キケンなことでは無い。ただ…身体を譲渡すると奏の意識が無くなるのだ。」


「え!?戻れなくなるの?」


「数十分だ。」


 …な、なるほど……

 数十分……アタシは耐えられるのだろうか?


 そうやって考えているうちにいつの間にか奏の身体に耳と尻尾が生えていた。

 尻尾を振っている姿を見て幻じゃないと感じる。


 実際にあるんだ。身体の一部として。


 そして揺れる尻尾と動く耳にアタシの中で、とある疑問というか興味というか……

 決して下な心はなくただ単に人の性というか……


 本当に純粋な考えがアタシの脳裏に浮かんだ。


「さ、触ってもいい?」


「……は?」


「あっ嫌ならいいよ全然!アタシ本気じゃないしそういうんじゃ──」

「いいが……何を企んでいる?」


 ち、違うん──


「いいのっ!?」


 ビクッと肩を弾ませ、ルナは頭に生えた耳を押さえた。


「う、うるさかった?」


「まあ……そうだな。」


 確かに動物って耳いいらしいし、これからは変に大きな音出さないようにしないとなぁ……

 ていうかこれって奏にも言えるよね。

 

 奏、耳いいからルナみたいに耳を押さえ………る……


「あれ?耳…?」


 狼の耳生えたあと、元の耳っていったいどうなるんだ?イラストとかにある獣人ってだいだい長髪とか耳が隠れるショートヘアーだったりするけど……

 

 あれ…?アタシ、今禁忌に触れようとしてる……?


「どうした?」


 それからだった。

 アタシの頭の中はそれに支配されてしまったのだ。


「と、とりあえず尻尾触っちゃうね〜……」


 ひとまずアタシは禁忌から目を逸らすようにルナの背中に回って、尻尾に触れる。


 狼の尻尾って初めてだなぁ……

 モフモフっちゃあモフモフだけどなんか……その……


 ──骨がある。


「ど、どうなってんの…?尾てい骨どうなってんの…?」


 ああ、ま、まずい…!

 もう純粋に触れなくなっちゃったよ!?


 ルナもそんなの聞かれても…的な反応してるし、全ケモナーの夢叶えてる瞬間にこんな邪念抱いてたらもう宣戦布告してるようなもんだし……

 今のアタシって……


「……も、もういいか?」


「えっ、あっ、うん!」


 尻尾がアタシの手元から離れていく。


 動物のあたたかみが消え去ったアタシの手のひらに残ったのは、謝罪と後悔だった。


 そしてとある思いがアタシの手のひらに巡って行った。


 もう…やるしかない…… 


「ルナ…動かないで……」


「あ、ああ。」


 そっと手を延ばす。


 緊張で息が乱れ、手が震える。


 もうこの気持ちは止められない。

 抑えきれない……


 掴んでやる……真実()を!


 ─バッ!


「っ!?」


 隠れた真実()を掴むため、髪をかき分けようとした瞬間、突然両腕がものすごい勢いで掴まれた。


「……主よ…やめておいた方がいい……」


「っ……でもっ……それでもっ……やるしかないんだよっ……」


 アタシの両腕にぐっと力が入る。


「人間にはやらなきゃいけない時があるんだよっ!!」



 ──それからアタシとルナの戦いが始まったのだ。


 

 初日の数十分間はのらりくらりとかわされ、タイムリミットが来てしまい失敗した。

 その次の日にアタシはどうしても諦めきれず、もう一度交代してもらったが…失敗。

 その次の日も奏に相談したが、奏の機嫌が悪くなってしまったのでその日は諦め…失敗。

 

 ノートに失敗したと書き殴りなくなるほどアタシは無残に散っていったのだ。


 しかしそんなアタシにも勝ち筋が見えてきたのだ。

 そうそれが……


 卯月との映画監視……!  


 

 ***

 


「ふふっ、始まるよ〜!」


 卯月はウキウキしながら正座待機をする。

 そうだね……卯月……始まるよ……


 ──真実()をつかむ大作戦がね……!


 前回や前々回は、耳を生やさなくなるわ、邪魔するなと卯月にしばかれかけるわと、ことごとく失敗してきたが……


 今日は違う!


 ルナ…今回は卯月というガーディアンがいると思っているようだがね……

 卯月は映画に集中すると何も見えなくなるのさっ!


 そして今回はホラー映画。


 ハラハラドキドキの展開を卯月が見逃すと思いで?


 ふっふっふっ……ホラーで驚いて作戦失敗するんじゃねと思われるかもしれないけど、そんなダチョウなミス…するわけないでしょ?


 ふはははは!観てきたのさ!1人で!


 もう目つぶっててもわかるよ〜?

 オープニングの流れなんかもぜんっぜ──


「「あれ?」」


「む?どうしたのだ?」


 アレ(観る映画)じゃない!?「アレ(観る映画)じゃない!?」


「ありゃりゃ〜…スバルのと入れ替わっちゃったのかぁ……」


「では中止なのか?」


「いや、ホラー映画なのには変わりないし、ちゃんと怖いやつだから大丈夫だよ!うーん……でもジャンプスケアを結構使うやつだからルナちゃんにはうるさいやつかもね…」


 な、なにぃぃいいい!?!?


 う、うそだ!そんなバカな!

 一応言っておくけど、アタシはジャンプスケア?というものなどに屈する女ではない。

 べ、別にホラー自体が苦手な訳では無い。


 だ…大丈夫だアタシ…!

 逆に考えろ!ジャンプスケアってやつで驚いてもらったほうが、アタシに有利に働くんだ。


「『お、おいもう帰ろうぜ…』」

「『行こうって言い出したのはお前だろ?』」


 さ、さて…今の立ち位置を整理しようか。

 ルナと卯月が肩を並べてテレビを見ている。

 そしてその卯月の後ろにいるのがアタシだ。


 先にルナの後ろにいると気づかれるからね。


「『オバケとか居そうね…』」

「『やれやれ…まったくオバケだなんて…やれやれ…』」


 ……さてさて…この映画は初めて観るんだ…何処で何が起こるのか全く予想が──


 ─『パリン!』


「ぎゃあああああああああ!?」

「うわぁあああああああ!?」

「っ!?」


「お、お姉ちゃん!真後ろで叫ばないでよぉ、びっくりしたじゃん!ルナも耳塞いじゃってるし!」


「は…ははは!ゴメンゴメン!ははは…は……」


 はぁ…はぁ…はぁ……ふぅ……大丈夫…問題はないっ……!

 

 くっ、手ごわいぞこの映画……!

 まさか序盤でぶっ込むなんて……


 でも、そんなもので負けるアタシじゃない!


「『オバケよ!』」

「『やれやれ…そんなもの科学的にいるわけないでしょう?やれやれ…確認してきます…やれやれ…』」


 ──再開だっ!


 さて…次はゆっくりとルナに近づくことだ。


 実行するには少し早いけど、卯月から離れるいい機会だ。


「『ふむ……ただコップが壊れただけですね。』」


 よしっ…卯月の背中から離れることができた!

 このままルナの真後ろに…!


「『キャァアアアア!!』」

「ぎゃあああああああああ!?!?」

「うわぁあああああああ!?!?」

「っ!?!?」


「『…っ!今の悲鳴はっ!?』」


「もう!お姉ちゃん!」


「く、くぅ……」


「……」


 し、しまった…これで2回目だっ……

 

「主よ…何を緊張している?ワタシからみるに、主には、その映画にではないまた別の緊張を感じ──」

「あーっ!卯月、ルナ今いいところだよ!」


「え!?」「なにっ!?」


 こうなったら……行くしかない!



 もう計画なんかどうでもいいっ!


 真実()さえ確認できればもうどうでもいいんだ!


 映画に気をそらした瞬間、真実()を掴むか観る!

 ルナ…アンタは今、アタシの射程距離内(耳が届く距離)にいるんだっ!

 もう手はすでにアンタの耳の方へ伸びている!

 テレビの反射で気づいた顔してるけど…もう遅い! 

 

 勝つのはこの…朝日 知世だぁぁあああ!!



 

 


 ─バシッ……




 






 



 ………!……ね……ちゃん!


 誰かの声が聞こえる。

 とても真っ暗な世界だ。


 ここは一体……

 ああ、まさか噂のあのy──


「お姉ちゃん!」


「はっ!」


 暗い世界に光が灯った。

 ピカッと目の前に一瞬で広がった世界。

 そしてその世界の中には天使(卯月)と……


「かな…で……?」


 2人とも…心配そうな顔している。


「アタシは…いったい……」


「お姉ちゃんったらルナの前で急に倒れちゃったんだよ?……ねぇ、そんなに怖かったの?映画。」


「え?」


 うなじに残る小さな痛みがその現実を否定していた。

 気になってうなじを触ってみる。


 そしてそれと同時に思い出したのだ。


「あ。アタシ、ルナに──」

「え!?ルナがどうしたの!?」


 食いつくようにして奏が顔を近づけた。

 その瞳の奥に宿る銀色の影がうっすらと見えてしまう。


「ルナ何もしてないって言ってるよ?」


 くっ……やはりそうなるのか……!


「ああ…そっか、アタシの勘違いかもね。」


 上半身を起こし2人を見つめる。


「ふっ…アタシは諦めないからね。」


「……?お姉ちゃん何カッコつけてるの?」


「…?ね、ねぇ、知世、ルナがなんか言ってる。」


「え!?なんて…!」


 奏は両腕を組み、ニコっと笑った。

 どっちとも取れる優雅な格好。

 

 アタシに見せたその瞳の『色』は…………






 △△△



「なあ、我が息子よ。」

「なんだよ。父さん。」


「俺が昔好きだった『ブルーゴブリン1(ワン)』は、一体いつからこんなドロドロになったんだ?」


「わかんねぇ。」


「そうか。」


「…………」

「…………」


「父さん。」


「なんだ?」


「……サブスク…入ろ。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ