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君の瞳に恋してない  作者: バカノ餅
オーケストラを観にいこうよ
44/52

【日常】オーケストラを観にいこうよ!

「はぁっ…はぁっ…はぁっ…!」


 例の河川敷。

 少し暖かい快晴の日に私はそこを駆けていた。

 もうルナの応答がない。

 きっとつかれて寝ちゃったんだ。


 おねがい……間に合って!



 ***



 時は遡って数日前。

 卯月とルナが映画を観た日。


 知世が元気を取り戻した後、私はいつも通り作曲をしていた。

 

「ねぇねぇねぇねぇねぇ!!」


「うわっ!?なに?」


 知世が突然ものすごい勢いでリビングからひょいと顔を出した。

 とてもキラキラした瞳で興奮している。


「チケット取れたよ!」


「……え!?!?」



 ###



「んじゃ、心秋公園(みあきこうえん)で〜」


「はーい。」


 ガチャンと扉は閉まり、静かな部屋の音が私の耳に入ってくる。

 そして、鼻歌を歌いながら廊下を歩く音が聴こえた。


 今日は約束の日。

 約束の時間は午後からだけど、知世は用事があるとのことで午前中に家を出たのだ。


「楽しみなんだね。」

(奏もだろう?)


 ルナ!?起きたの!?


(今日は大事な日なのだろう?マカサレタミとして見守らなければ。)


 そ、そんな大袈裟な……


 知世から借りている部屋の机から離れ、ドッとベッドに身を任せた。


 カチッと聴こえる時計の音と、頭に響くルナの声により、静寂というものは訪れなかった。

 でも、私にはそれがちょうどいい気がする。


「なんか……」


(どうした?)


 いや…なんでもない。


(……?)


 上半身を起こし辺りを見回す。


「ちょっと出かけよっか。」



 ###



 そんなこんなで私は四季ノ大通りに着いた。

 あいも変わらず騒がしく楽しい。


 なんか新鮮だなぁ…先生の服以外の着て外出るなんて。


「あれ?カナっちじゃないっすか!」


「え?」


 聴き覚えのある元気な声の方へ顔を向ける。

 そしてそこにはいつもの三人組がいた。


(む?三人組?)

 

 ああ、知世たちの方じゃなくて、音楽科の方だよ。

 前話したでしょ?


(……音楽家?)


 家じゃなくて科学の科ね。


(ほう、音楽化か。)


 ……ごめん。


「白花ちゃん!久しぶりだね〜!元気にしてた?」 


「ケガしたって聞いたけど大丈夫やった?」


 彩歌さんに続いて、夏海さん、楽奈さんも私の元へ近づいてくる。


 彩歌さんの凶器チェーン…夏海さんの優しさメッシュ…楽奈さんのおっとり方言……


 私…帰ってきたんだなぁ……


「カナっちー!ハグさせ──」

「すとぉぉっぷだよ?彩歌??」

「追い打ちかけんといてあげて〜!」


 2人が必死に彩歌さんを止めている……


「ちぇ…」


 諦めた人間凶器さんは、暇そうに空を見上げたが、その時間は数秒にも持たず、新しい興味へと向いていった。


「1人で外って…何してたんすか?」


「えーっとね…」


 状況をカクカクシカジカとみんなに話す。


「へぇ〜…えっと白花ちゃんのお話を要するに……」

「オーケストラまでに時間があるから〜」

「1人で暇をつぶそうとしたんすね!」


「せ、説明ありがとうみんな……」


(あの三人組が何をしていたか聞かないのか?)


「あっ、えっとみんなは何しに?」


「ウチら楽器店に行く予定なんす〜!」

「かなちゃんもくる?」

「えっと確かあそこ笛もあったよね?」


「「うんうん!」」


 ……相変わらず息ぴったりっていうか…仲良しっていうか……


(ふっ、負けてられないな。)


 なにが!?


「さっ、行こ!白花ちゃん!」


「っ!……うん!」


 夏海さんが差し伸ばす手はとてもあたたかく、とても晴れやかに、そして…彼女達が持つ音楽の世界へと私を誘ってくれた。


 やっぱりいいな。


 友達持つって!

 



 ###



「うっひっひっ!いい買い物でしたっすね!」

「も〜、あやちゃん!少しぐらい欲抑えて〜?」

「そうそう。あのペースのままだったら白花ちゃんコンサートいけなかったよ?」


「い、いいよ全然!」


 わ、私も興奮してたから……


(何とか抑えきれていたな。エライぞ。)


 あ、ありがとう……


 彩歌さんはルンルンとスキップしながら、両手に紙袋を引っさげていた。

 先程より多く感じる車の轟音と人の話し声。


 休日だからだろうか。


「じゃあ、私そろそろ行くね!」


「え〜?もう少しゆっくりしときや〜?」

「そうっすよ!もう少しウチの買い物に──」

「『みんなの買い物』だからね??」


「ご、ごめんね……なんかいろいろ……」


「ええんよ!」「大丈夫っす!」


「君たちが謝る側だからね?」


「うっそ、なんでアタイまで!?」


「素、でてるっすよ……」


「じゃ、じゃあねー!」


 三人組へ大きく手を振り、別れの挨拶を交わした。

 そのまま人にぶつからないよう大通りを小走りで駆ける。


(本当に良かったのか?)


 うん。いいんだ。


 初めて行く場所だからもしもの時のためにも時間の余裕は欲しいし、やっぱり……


 はやく会えたらなって…


(……ふふ…そうか。)


 ……や、やっぱ恥ずかしいから今のナシ!

 誰にも言わないでよ?


 入れ替わった時なんて特にだからね?


(ふふ…ああ。任せろ。)


 うぅ…ホントだよ……?



 そうして会話した後、私はもう一度走りに集中した。

 ここから初めて見る景色だ。

 うーん……マップの見方ってこれであってるのかな?


「ここを……右……?」


(奏。シコウサクゴしている所すまない。そのオーケストラについてなのだが、チケット?というものは持ってきているのか?)


 え?あー、任せて!

 私の分と、知世の分!ほら、2枚ある!


(む……ワタシには見えないが……カバンから出したということなのだろう?)


 あっ…うんゴメン…

 

 そうして、私は小さなカバンから取り出した2枚のチケットを戻──


 ─みゃ〜!


「え……」


 風が吹いた。

 風なんか吹いてないのに。

 

 小さく素早い、爽やかな風が。


 私の手元がスッキリする感覚に陥ってしまうほ──

「あーーーっ!ちょっ!なっ!」


(どうした!?)


 盗られたぁ!!


(なに!?)


「まってぇ!にゃんこぉお!!」


 そうして私ととある三毛猫とのチェイスが始まった。

 


 ###



 何にも知らない街の中で猫の後を追いながら、向かってくる障害物をなんとか避ける。

 今はちゃんとした道を走ってくれてるけど、変な隙間に入ったら終わりだ!


「は、速いぃい……!」 


 体力には自信があるけど、速さはまた別問題……


(奏。ここでこそワタシのデバンだろう?)


 おねがいっ!ルナっ!


 一瞬だけど、身体が硬直する。

 私の身体が離れていくのを感じる。


 でも別に怖くない。

 だって私の側には……


 

 △△△

 


「…………ワタシがいるから。」


(とにかく2枚の紙を加えてるにゃんこ追って!)


「了解した。」


 身体は不完全ではあるが、別に問題はない。

 というかこの状態でなければ、奏が困ってしまう。


 しかし、単純だな。人間の街というのは。


 キソクテキに並んでいて、初めて見る景色でも予想がしやすい。


 2枚の紙を咥えている猫……


 きっと今ワタシの前を走っているこの三毛猫だろう。

 広い道だし、人は少ないから見逃すこともないな。



 しかし……コイツ……



(ど、どう?取れそう?)


「……いや、少しかかるかもな。」


(じゃ、じゃあ、身体渡すから──)

「それはダメだ。今回の主役は奏だ。一歩下がるべきではない。」


(そ、そっか。)


「それに…ワタシは『取り返せない』とは言ってないだろう?」


 距離は着々と縮まっている。

 あと、数メートル……

 もう少し近づくことができればこの三毛猫を……!


 ─ササッ……


「なにっ!?」


(なに!?)


「ああ、いや、三毛猫がウラロジに曲がってしまっただけだ。そのまま追う。」

(う、うそ!変な隙間とか入ってない!?)


「いや、問題はない。同じ通り道の真ん中を走っている。」


 やはりだ……違和感がある。

 これは逃げているんじゃない……


 きっとこれは……


 三毛猫をムガムチュウに追いかけ、ウラロジを抜けていく。


 そして、その時であった。


「きゃっ!」「なっ!?」


 薄暗い世界に光が灯った瞬間、ワタシの眼の前に、小さな女の子が飛び出してきたのだ。

 勢いがついてしまったワタシとぶつかったせいでその女の子は放物線状に飛んでいってしまう。


「まずいっ…!」


 このままでは道路に倒れる。

 奏の身体だから罪を着せられるのは奏だ。


 それだけはゼッタイに避けなくてはならない。


 そのため、ワタシは一生にあるかないかの本気を使って、道路へ飛んでいこうとする女の子をキャッチした。

 クルマの邪魔にならないように、なんとかホドウへと着地を決める。

 

「ふ、ふぃ〜死ぬかとおもたぁ……」


「大丈夫か?」


 ケガがないかどうか観察できるよう、頭を片手で支え、ひざ裏をもう片方の手で支える。

 

 ふむ…そういえばこの体勢はなんといったか……


「〜〜っ!?」


 前髪が目にかかっているショートヘアーの茶髪であり、方言というものを使っている女の子か……

 む?どこかで聞いたことあるような。

(え、ちょっと待って)


「楽奈!!」「ラクっち〜〜!!」


(ルナ様お願いです!絶対変なこと喋らないでください!)


「む?」


「あれ?カナっちじゃないっすか!」

「どうしてここに?」


 ……ふむ。音楽化の人間たちだな?

 どうするべきか……


 ─みゃ〜!


「……あ〜〜……す、すまない今急いでいる!では…!」


 小さな女の子を丁寧に立たせ、その場から駆け出す。

 座って待っていた三毛猫はワタシが駆け出したと同時に、いつものように走っていった。


 

 △△△

 


「ふわぁぁぁ、、、」


「あ、行っちゃったね。」

「ラクっちとカナっちどうしちゃったんすか?」

「……さあ?」

「…とういかさ、夏海。今のカナっち…だったのかな?」

「…いや…わからない。けど、なんか……別人みたいだったね。」



 △△△



「よっ…はっ…捕まえ──」


 ─みゃ〜


「な、なにー」


(ルナ…なんか適当になってない?)


「ワタシはいつだって奏のために生きている。」


(な、なにそれ?)


「適当といったな?別に諦めたって訳では無い。もう捕まえる必要はないと分かったからだ。」


(え?)


「自分の眼で確かめてご覧。」


 

 △△△



「ルナ…?一体どういう──」


 暗い世界に差し込む光の中で、私が観たもの。

 それは見覚えのある河川敷にあった。

 別に壮大なものでもないし、絶対に観るべきというものでもない。


 ただ、私の眼に映ったものは……


「ミャンちゃん!ミャンちゃん!もー探してたよ!」

「ずるい!私もミャンちゃん抱きたい!」

「そっちにはニャンちゃんがいるじゃん!」

「どっちも抱きたいのー!」

「そんなの私もだよー!」


「「むーーーーーっ!!」」


「こら!喧嘩しないの!」


 先程の三毛猫とそれに似たもう一匹の猫を抱く双子の小さな女の子達とその母親の姿。

 そして……

 

「ボクも()()()()()を抱きたいです!」

「お前は大人しくしてろよ……?」

 

「卯月!?スバル!?」


 その子どもたちを見守る2人がいた。


「え?白花ちゃん?」

「何やってんだ?」


 ジャージ姿の2人は不思議そうに私を見ている。


「何やってるって、それはもちろん……って、あ!」


 ふと本来の目的が私の脳裏に浮かび上がり、ミャンちゃんと呼ばれていた三毛猫へ顔を向けた。


「ミャンちゃんなにくわえてるのー?」


 ミャンちゃんを抱えている女の子が、2枚のチケットを手に取った。


「チ、チケット!私と知世の!」


「おねーさんの?あっ!うちのミャンちゃんがごめんなさい。これかえします!」


 ちゃんとしたかわいい謝罪に心が癒されていく……

 ああっ…子供っていいなぁ……


「って!そんな場合じゃなかった!チケットありがとうね!」


 2枚のチケットを受け取り周りを見渡す。


「さ、さっき来た方向に戻れば……で、でももう時間が!」


「白花ちゃん!お姉ちゃんのところにいきたいの?」


「う、うん!」


「俺達前まで知世と話してたからな。心秋公園に続く道なら分かるぜ?」


「ホント!?」


「「そのまま真っすぐ走ればお姉ちゃんに(知世に)会えるよ(ぜ)!」」


「みんなっ…ありがとう!」


 2人の声が背中を押してくれる。

 それに答えるよう、私は走り出す。


 猫達も、子供とその親も、私に向かって別れの挨拶をしてくれた。


 みんなの声が私の身体を前へ…ひたすら前へと連れ出してくれる。

 私の頬を通過していく!


 あはは!なんかおかしいな。


 風なんか吹いてないのに…!


  

 ***



「はぁっ…はぁっ…はぁっ…!」


 光を乱反射する河川敷。

 少し暖かい快晴の日に、私は今そこを駆けている。


 やがて走っていくと、緑色の木がアーチのように道に沿って並んでいる所まで来た。

 木々が話をしている下、私は駆け抜ける。


 風を抜け、木漏れ日を抜け。

 やがて見える秋の世界に瞳を輝かせ。

 


 タクトのように揺れ動くこの感情を。

 溢れ出るこの気持ちを。


 私は一体、第何楽譜にするのだろう。


 


「そんなの…簡単だ!」




 ###



「はぁっ…はぁっ…はぁっ……」


 この季節外れな秋の世界。

 茶色い髪をなびかせる、秋模様の彼女のもとに。


 ──私はいた。


「ははっ…まった?」


「ぜーんぜん!」


 ベンチに座る笑顔な知世に私も精一杯の笑顔を贈る。


 まだ、ちゃんと声にできないからさ。

 いつか声に出せるまで、私言うよ。


 くどいだろうけどさ。

 もうとっくに気づいてるかも知れないけどさ。


 知世、それでも……さ。


「はぁ…はぁ…ふふ、知世!」


「ん〜?」


 手を伸ばす。

 嘘なんかありっこない胸の高鳴りが、私の手を脈打つ。


「オーケストラを観にいこうよ!」 


 知世は……その手を……


「──うん!」


 握ってくれた。




 ###




「〜〜♪」


「ふふっ、危ないよ?」


 踊るようにハミングをする私に知世は笑顔で見守ってくれる。


「ふふ…だいじょーぶだよ!知世!」


「どうしたの〜?そんなニタニタ笑って。」


「ははっ、そんな大したことじゃないよ!なんか…さ。」


「『なんか』?」


「なんか私、『幸せ』だなって!」

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