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君の瞳に恋してない  作者: バカノ餅
オーケストラを観にいこうよ
41/52

『月光』

「ハァ…ハァ……」


「さて、どっから話してもらおうか?」


 スバルが壁際に座り込む白衣の男を見下ろす。

 白が赤に染まっていく。


「後に警官が突入する。どっちみちお前は終わりなんだ。この空間も、この技術も…な。」


「……フッ。」


 男は肩で呼吸をしながら、スバルの事を鼻で笑った。


「終わり……ですか……フ…フフ……いいえ、終わりませんよ……」


「なに?」


 白衣の男はニヤリと不気味な笑顔を浮かべた。

 

 スバルの瞳が赤く光る。

 白衣の男と目線を合わせるようにしゃがみ込んで、スバルは胸ぐらをつかんだ。


「けほっ…けほっ……」

「奏!?」


 それと同時に、一階でお姉ちゃんが白花ちゃんを呼ぶ声も聞こえてきた。


 尋問をするスバルから目を離して、一階のお姉ちゃんに視線を移す。

 そこには、白花ちゃんをカプセルから床へ丁寧に移すお姉ちゃんがいた。


「え、ええっと…!」


 床に寝かせた後、どうするべきかとお姉ちゃんはあたふたしている。

 

 白花ちゃんは今にも消えそうな呼吸をしている。

 そう見て取れた。


「私やこの空間が終わったとしても、『この技術』は終わりません。もうすでに()()()()()()()()()()()()()のですから……」


 その場にいるみんなの空気が変わった。


 スバルは目を見開いて固まっている。

 瞬きもせず、男を見つめて。


「……おい。お前、奏の事、No.001…って呼んでたよな……?」


 胸ぐらを掴む力がグッと強くなる。

 今にも破れそうな力に男は顔色一つ変えなかった。

 依然と余裕そうに下を俯いている。


「白花教授の研究は素晴らしかったです。……存分に利用させてもらいました。()()()()()……ね。」


「言え!組織の名は?アタマは?構成は?その人狼は何人作られた?」


 その瞬間、えらく重みのある謎の轟音と共にこの空間が揺れ動いた。

 突然のことで身構えてしまう。


「おい、お前今何した。」

「何も。」


 スバルの問いかけに、男はハッキリと否定した。


「くっ…!」


「さて……私を運び出すつもりでしょうが、無駄です。もうすぐ私は死にます。」


 フフフと笑ったあと、疲れた笑顔で天井を見上げた。


「ヘヘッ、そんなの死ぬ前に運び出してやるよ!卯月、奏のほ──」


 ─ドォン!

 

 先程の轟音がここの近くで鳴り始める。

 揺れも音も強くて近い……

 このままじゃ……


「ちっ……そろそろ崩れるなコレ……!」

 

「お姉ちゃん大丈夫?」


「うん、なんとか!」


 爆発音のスパンは次第に短くなっており、ここが爆発するのも時間の問題だった。


「くそっ……」


「フフフ……恵まれていますねぇ…No.001は……」


「はぁ?」


「今でも実験が施されている()()()()がいる。No.001の僅かなデータを元にして、成功し、失敗し、しかも副産物が生まれる程だ。……フフフ、リアルな原初の人狼のデータさえあればここまでする必要はなかったものの……本当にその人外を匿っててもいいんでしょうか……?」


 白衣の男は醜い笑顔で延々と喋り続ける。

 笑いを止めず、手を額に当てながら……


 そして……笑う力は弱くかすれていく………


 額にあった手は地面についていた。


 


「負け惜しみはあとだ!洗いざらい話してもらう……!」

「スバル……」


「終わらせない!絶対に……絶対にだ……!」


 そうやってスバルは自分に言い聞かせるようにして白衣の男の腕を掴み背中に背負おうとした。


「スバル!」


「っ……くそっ……」


「ねぇ!今何起きてんのわかんないけどさ、早く逃げようよ!このままじゃ全滅だよ?」


 ひび割れた天井から小さな破片が振ってくる中、一階から発せられたお姉ちゃんの声がボクとスバルの耳に入り込む。


 ……確かに、変に心配されて隊員さん達が来るのはどうしても避けたいし、もうここに留まる理由もないはずだ。


「わかった!いこ!」


「……ああ。」


 そう言って俯くスバルの腕を掴み、無理矢理にでもお姉ちゃんの元へ連れて行った。

 抵抗する素振りは見せなかったもののスバルはどこかやりきれない顔をしていた。


 スバルは白花ちゃんを担ぎ、ボクとお姉ちゃんは周りを警戒する。


 そうやって、暗く崩れる廊下を走った。

 ただ1点を目指す。


 僅かに漏れ出る光へと……


 

 


 △△△

 




 ──……ちゃん!


 ……え…?


 ──お…ちゃん!


 誰かの……いや…これは……


「お姉ちゃん!」


「うず…き…?」


 あれ……?

 アタシ……


「大丈夫?身体動く?」


 涙目を浮かべてベッドの柵を握る卯月。

 薄暗く月光に照らされる部屋の中で、アタシは天井を見る。


 ……って、あれ?


 ベッドの柵…?


「お姉ちゃん…ここは池月病院(いけづきびょういん)って言って、えっと……例の廃病院の近くにあるところなんだ。」


 ああ…そっか。アタシ……


「あっ、ねぇ!奏は!?」


「右見て。」


 微笑む卯月の視線の方へと顔を向ける。


 そこには、弱くも呼吸しながらぐっすりとベッドで寝ている奏がいた。


 生きている。

 ちゃんとだ……ちゃんと……


「びっくりしたんだよ?出口についたと思ったら、お姉ちゃん何も言わずに膝から崩れ落ちたんだから。」


「あはは…ごめんね…」


 あそことは違うこの白い空間……

 この空間に広がる静寂の中、心拍図の音だけがただ機械的に鳴り響いていた。


「……そう言えばスバル君は?」


「『父さんと話しに行く』って言ったきりだよ。」


「ふーん。」


「大丈夫そうだし、ボク行くね。」


「えー?どこに?」


「スバルの方。きっとまだ近くにいるから。聞きたいこともあるし……」


 そう何かを含めるように言って卯月は椅子から立ち上がり、「安堵にしててよ?」と言い残して引き戸を引いた。


「はーい。」


 少し寂しさを感じながら、仰向けになる奏の方へと顔を向ける。


 手配してくれたのはスバル君か彼のお父さんだろう。誰でもいいが、こうやって同じ病室にしてくれたのはありがたい。


 奥にある窓から外の景色が見える。


 清夏病院とは違い自然に囲まれていて、四季ノ大通りの夜景も見える。


 身体が動かない。

 力が入らないと言ったほうが正しいのだろう。


 少し…眠い……


 そう言えば今何時だろう?


 まあ……いっか…………


 



 △△△




 

 とある崩れた廃病院の地下。



 瓦礫で埋まった施設の中で、一人の男が依然として座っていた。


 血に染まった白衣を月光が照らしている。 


「…………クッ……」


 男は力なく光を見上げた。

 光のない瞳を輝かせ、月を見ていた。


「あ。まだ生きてたんだね。」


 しかし、その月は欠けていく。


 小柄な黒い影は月光を背にして、男のいる穴へと下っていった。


「貴方……でした……か……」


「同僚の最後の姿ぐらい見届けないとね。」


 軽く、落ち着いた、小さな少年の声が瓦礫の墓で響き渡っていた。


「一応幹部っていう職業なんだから、情報を渡すような真似はしてないよね?」


「……どう……でしたっけ……?」


「えー?ちゃんとしてよ?」


「……貴方…ですね……?ここを……爆破……させ…たのは……」


「うん。いろいろ持ってかれるの嫌だろうし。」


「フフ……フ……」


 男は再び天井を見上げる。

 穴の開いた天井には無数もの星が囚われていた。


「どうしたの?諦めるの?」


「『最後』と言ったのは……貴方……でしょう…?」


「そうだね。でも、助けを求めるかもと思ったんだ。」


「……フフフ……腐っても……私は……科学者……です……自分の身体ぐらい……理解してます……」


 座り込む男の前に少年は立つ。

 しゃがまなくとも視線は合っていた。 


「腐ってる自覚はあるんだね。じゃあ腐ってる人にプレゼント。」


 ─ザクッ……


「ガハッ!」


 男の胸に鋭い何かが深く刺さった。

 血は溢れ出し、凶器は赤で隠れていく。


()()()()()の手向けだよ。辛く苦しく醜く死んでね。」


「グッ…!ガッ……!アァア!!」


 赤色に包まれる男の体の中でその凶器は暴れていた。それに操られるようにして男もまた暴れる。

 

 凶器は変幻自在に形を変えて男を死なないよう串刺しにしていく。男の体から無数の針が飛び出ていった。


 月光を乱反射する…

 

 ()()()が。


「しっかし……へぇ?面白そうだね。あの4人たち。いや、4人と1匹かな。……神美 卯月…ね。」


「なぜッ!なぜェッ!!なぜ私をォッ!!」


「さあ?考えてみたら?得意でしょ?()()()()()()さん。」


 少年は高く飛び上がり、月の光へ姿を消した。


 それでも月光は変わらず照らし続けていた。



 ──動けず俯く赤い白衣を。




  


 △△△





「……ん?」


 月の光が眩しい……

 そう言えばカーテン閉まってなかったな……


 しんと静まる病室。

 アタシはもう一度天井を見た。


「あれ……?」


 突然芽吹いた違和感に釣られて奏がいるベッドへ顔を向ける。


「いない…?」


 

 ###

 


「うぅ…」


 万全じゃないからまだ身体がふらつく。

 アタシは今点滴のカートに体重をかけながら外を歩いていた。


 自然に囲まれた薄暗い世界で、奏を探して。


 〜〜♪


「あっ……」


 探すことは別に時間がかかることではなかった。

 

 病院の裏にある小さな池。

 そこにポツンと置かれたベンチに奏はいた。

 聴き覚えのあるメロディーがアタシを導く。

 優しく美しいハミングが緑を靡かせていた。


 池が月光を反射し、銀色の髪がより一層輝いている。


 ゆっくりとだが、確実に前へと進む。


「奏…」


「…あ……知世…」


 ハミングをやめ、振り向き見上げる桃色の瞳は月の光に負けず光っていた。


「…おかえり……」


「うん…ただいま……」


 ──疲れた微笑を月は変わらず照らしていた。

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