表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君の瞳に恋してない  作者: バカノ餅
オーケストラを観にいこうよ
40/52

Dizzy Trickster

 ***

 

 ずっとだ。あの時からずっと考えていた。

 アタシの戦い方。


『自分の持ち味を活かしたほうがいいんじゃねぇか?』


 スバル君にそう提案されてからずっと探していた。

 アタシには何があるのか。

 真正面からねじ伏せるスバル君のような力は無いし、しなやかに相手を受け流す卯月の技術も無い。


 アタシの持ち味……


 多分それは()()()だ。


 先読みして対策を考える。

 いつもそうしてきた。


 じゃあそれを反射的にやれるとしたら?


 実際にできるよう取り組んだ。

 必要だろうと踏んで覚えた物理の公式。

 何度も演算して頭に馴染ませた。


 でも…足りない。


 すぐに失敗してしまう。

 計算対象が物にぶつかったりするせいで計算が狂う……


 足りない……絶対的なピースが……まだ……


「おや、間一髪でしたね?しかし()()()()()()()()死んでしまいますよ?」


 周りを……見る……


『お前…マジで卯月しか見てねぇな…』


 ──他人なんかどうでもいい。


 そうだ……そう思っているからだ……

 アタシ…周りを見ていないんだ。


 自分と卯月のことしか気にしていないからだ。


 ──その瞬間だった。


 暗かった周りの世界がクリアに視えた。

 

 ─ダンッ!カカカカ!


「……右?」


「くっ!」


 あ……

 

 数秒。たった数秒だけど……


 ─ダンッ!カカカカ!


「…正面…」


「ちっ!」


 合ってる……視えてる……


 ─ダンッ!カカ!


「…右……いや、刀?」


 ─キィィイン!


「つ…!卯月!」

「…左!」


 卯月が素早く後ろに下がる。


 様子からして多分2人はハッキリ視えていない。

 

 卯月反射的にとにかく避けて、スバル君は近くに来たものを直感的に弾いているんだ。


 だからわざと刀に弾を当てていることに気づいていないんだ。


 アタシ……だけだ……


 ふふっ…あははは……あはははは……


 気持ちいい……


 周りの世界がクリアに視えているせいかどうか分からないけど、この空間を支配しているかのような感覚だ。


 ─カッ!


「うっ…!」


 …あっつ……あはは…撃たれちゃった。

 まだ反射回数残ってんだったな……

 ジリジリと痛みが襲ってくる。うわぁ…右腕真っ赤じゃん。てか…何気に初めてだなぁ…撃たれるのって。


 でも…どうでもいいやぁ……


 何をすればいいのか…もう分かったし。

 任せて……奏……


 アタシ……



 ***

 


「はぁっ……はぁっ……はぁっ……ふふっ…あははははははははは!」


 ああ、気持ちいい。

 世界全部がアタシのものみたいだ!

 身体中が脈打ってて、なんでも思いついちゃうようで何も考えられないこの感覚。


 ダメだぁ…笑いが止まらない……


 興奮が冷めない!


「知世!」


 アタシの笑い声が響いてしまうこの空間で、何かを確信した自信のこもる声が右側から聞こえてきた。


「……ん?ああ…どうしたの〜?」


「俺達はどうすればいい?」


 カプセルの裏から卯月とスバル君が出てくる。


 ─ダンッ!カカ……


「2人とも2歩下がって。」


「ああ。」「う、うん。」


「チッ!」


 金属音がもう2回ほど鳴ったあと、弾は2人が先ほどいた位置にめり込んだ。

 シュ〜っと鳴った焦げ臭い煙が辺りを漂う。


 2人とも従順に動いてくれる。


 お人形さんみたいだなぁ……


 あっ……


「ねぇ、2人とも。今からアタシの言う通りに動いてね。」


 2人が頷く。


 空気が変わる。



「あははっ…!そろそろコイツの出番かな〜!」



 ***



「んで?頼みたいことって?」


 会議が終わり、少し薄暗い廊下を歩く。

 よかった。ちゃんと覚えてくれている。


「これ、作ってくれませんか?」


 歩みを止め、向かい合うようにして、折り畳んである2枚の紙を赤い瞳を持つ大人に渡す。

 スバル君のお父さんは紙を広げ、少しキョトンと顔を傾げたあと、「ああ」と呟いてニヤリと笑った。


「設計図だな?しかもよくできている。」


「……どうですか?」


「うん。やってみようか。」


 っ!


「だが…」


 少し申し訳なさそうな表情を浮かべてスバル君のお父さんは歩き始めた。


「コスト面の問題で1個ずつしか作ることができない。特に強度の面がな……。それでもいいのか?片方は使い切りみたいだが。」


「大丈夫です。」


「へへッ、そうか。なあ、設計図に書かれていないが、この道具の名前とか決まってるのか?特にコレ!」


 片方の紙をヒラヒラとアタシに見せる。


「まあ…はい。」

「お!どんなんだ!」


 食い込むようにして、スバル君のお父さんは、子供のように瞳を輝かせながらこっちを見てきた。


「そんな凝ってないですよ?」


「えぇ…?」


「ふふっ。」


 スバル君のお父さんに負けないようにその先へ一歩踏み出す。


「時には獲物を捕らえるトラップになったり、時には自分と仲間を守る盾となったりする、最高強度の糸の爆弾。そうですね…コイツの名前は…」

 

 ***


ウェブ(蜘蛛の巣)


 ポケットから取り出した黒い球体を地面へ落とす。


「みんな隠れて。」


 地面と接触し一度浮き上がった球体は、ミシシと音を立て、無数もの糸が四方八方、真っ直ぐ伸びていった。

 勢いよく発射された糸は壁、床、天井、カプセル、全てに刺さっていった。 

 どこからか薄い鉄を貫く音も聞こえてきた。

 

 発射される糸の勢いで、球体はアタシの胸の高さまで昇っていく。 

 もちろんアタシの方へと伸びてくる糸もあったが、今なら簡単に避けれる。

 

 伸びていった糸は互いを感知した瞬間、橋を渡すように、互いを同じ糸で繋いでいく。


 この空間はジャングルジムのように数多もの糸が交差する、何重も重なった蜘蛛の巣に早変わりした。


 すべての糸の元であるウェブの核(黒い球体)を左手でガシッと掴む。

 だいたい球体全体から糸が伸びてるのでちょっと掴みにくいが問題はない。



 もともとこのウェブは捕獲ネットのような役割だったが…ネットだけじゃ勿体ないと思い、串刺し攻撃もできるよう糸の爆弾に改造しておいた。



 あははっ…まさかこんな風に役立つだなんて。



 ここからは狂った悪魔(白衣の男)の世界じゃない。



 ──私の世界だ。


 

「妨害のつもりでしょうか?」


「あははっ…ねぇ、悪魔。癪だけどさ、アンタとアタシって頭の出来が似てるっぽいんだよね〜。」


「ほう?それが?」


 悪魔は二丁拳銃をアタシに向ける。

 だが狙いはきっと……


 アタシの糸達。


「ねじ伏せてあげましょうか。」


 ─ダンッ!ダンッ!


 耳に突き刺さるような発砲音がこだまする。

 糸から糸へ反射していき、複雑な軌道がアタシの周りでなぞられる。


 …また、弾丸を変えたな?


 弾によって反射する回数は変わってくる。 

 多分他の人達はそれでは不規則すぎると思って、予測を諦めスバル君のように直感で弾くようになるかもしれないが、実際はできる。


 この弾丸にはルールがある。


 それはざっと90°で曲がるということだ。


 それを駆使して、弾丸の向きや障害物を把握できれば……


「ふふっ…」


 金属同士が擦られる音の中で、アタシは握っている球体を右に少し捻って下げた。


 そう…そうすることで……

 


 ─パシュ……



 ……アタシの視界に赤い鮮血が空へと飛び散った。

 血の主は右肩を押さえて数歩下がる。

 


 撃たれたのは……()()()()()()()

 

 

「あいつ変えやがった!弾の軌道を!」

「えぇ!?」


 

 そう…そうすることで…弾の軌道を()()()できる。


 どんなに回数が増えようと、曲がる方向は決まっているんだ。


 アタシの脳天へ辿り着くルートは決まっている。

 その道を弾丸より素早くたどれば……


 避ける……いや、当てることだってできるんだ。


「クッ…!」


 青ざめた顔をして、男は下をうつむいている。

 ふふっ、上にいるから悔しそうな顔が見える見える。


「よくもッ…私の技術をォ……!」


「なに?プライドとか持ってんの?こんなガキの手玉に取られる程度で?」


「クククッ……だが……」


 冷や汗を垂らしながら男はニヤリと顔を崩した。


「お姉ちゃん!まだ弾残ってる!」


「知ってるよ!アタシの卯月!」


 カプセルの裏に隠れている卯月がアタシに忠告をしてくれた。

 軌道をみればあと2回でアタシの右膝裏に直撃だ。


 今は避けるしか……



 ──そう思った瞬間だった。


「っ!」


 突然、自分が立っている感覚がなくなり、バランスを崩してしまった。

 倒れないよう踏ん張るも、次の瞬間には右脹脛の外側頭から熱い感覚を覚える。


 …くそっ、遅れた!掠ったんだ!


「お姉ちゃん!」「…っ…卯月…こっちへ。」


「あははっ……これ…反動ってやつ……?」


 まずい…少しでも気を抜いたらもう動けなくなる。

 はははっ…鼻血まで出てきちゃったよ。


「もう終わりですか?」


 ウェブの核を支えにするアタシに男は右肩をぶらりと下げながら銃を構える。 


「ふふっ……」


「……?」

 


「あははっ…………あはははははははは!!」

 


 糸が揺れる。

 ブルリと身体が震える。

 


「……死の恐怖とは、時に人を狂わせると聞きます。どうやら本当のようですね。」


「違う!ぜんっぜん違うよ!」


「……ほう?」


「アタシが狂ってるのは死の恐怖だって?ふふっ…あははっ…!違う!アタシを狂わせるのは『死の恐怖』じゃない!……『生の高揚』そのものだよっ!」


 ─ダンッ!


 弾が跳び、反射する。


 糸をずらして、軌道を変える。


「左脛。」


「ッ!」


 アタシの警告により、男は反射的に左脛をずらした。

 ずらした先には白い壁に黒い弾痕がくっきりと残っていた。


 煙を上げて、音を出している。


「チッ…」


「もう終わり?」


 男の顔は黒く、赤く、歪んでいた。

 腕がブルブルと震え出す。


「ま、終わりだもんね。だって……」


 突然、ガラスがジャリッと踏まれる音が響いた。

 一歩、二歩と…


 ──2人分の音を出して。


「だって、もう近づいちまったからなぁ?()()さんよぉ?」

「お姉ちゃんが流れを作ったんだから、終わりに向かうのも当然だよね。」


「なにッ!?どうやってここへの道を……!」


 ……そう。

 この空間はアタシがいる一階と、白衣の男と卯月達がいる二階の指令室に分かれている。


 ここに来るまで、二階に続きそうな道はなかったし、あったとしたら隊員がすでに突入しているはずだ。それをしないのは、二階へ続く道は外の廊下にはないか、隊員がただ手こずっているかの2択になるはず。

 でも、あの部隊を見るに手こずることはないはずだから後者の説はないと考えられる。


 ……きっとこの空間は実験室だ。


 いちいち外に出なくても一階と二階をスムーズに移動できる道だってあってもいいはず。


 ──そして実際にあった。


 アタシのウェブが起動した時に、隠された扉を破壊したんだ。


 薄い鉄の扉を…貫通させたんだ。


「さて…どうする?」


「どう……する……ッ……?」


 スバル君の問いかけに男はじっと下を見つめる。

 震える両腕は拳銃をグッと握りしめた。


「どうも……どうもこうもあるかァ!ああ、クソッ!すべてがメチャクチャだッ!」


 歪みきった顔はまさに悪魔のように醜かった。

 地団駄を踏み、ゆらりゆらりと身体を揺らした。


「もういいもういいもういいもういいもういいもういいもういいもういいもういいもういい!!!」


 そのままぶらりと身体を倒した。


「まずはお前らだクソガキ共ッ!」


 ギロリと動いた黒い視線にスバル君はニヤリと鼻で笑った。


「私をその目で見るなァァア!!」


 ─ダンッダンッダンッダンッダンッ!


 これは……乱射!?


 いつかは激情するかと覚悟してたけど…乱射って……!

 アイツは計算してるのか?マガジンは変わってないからきっと8回の反射。あの狭い部屋にこんな弾をまき散らすだなんて……そんなの……そんなの……!




 面白そうじゃんか!!!


 


「スバル君、5秒後最高速度で前に飛び出して!卯月は待機!変に動いたら当たるから気をつけて!」


「了解!」「わかった!」


 3…1…!


「今!」「っしゃあ!」


 スバル君は拳を構えて一気に飛び出した。

 この5秒間で男はマガジンを変えた。


 次も撃つはずだ。もし反射回数が増えた弾を撃ってきたら、まだ完全に予測できない2人は多分キツくなる。


 ならば……


「撃たせねぇよっ!」


「ぐッ!!」


 かろうじて腕でガードした男は部屋の隅に殴り飛ばされ、膝をついた。


 スバル君がすかさず蹴りをお見舞いするが、男はくるりと回って回避をした。

 スバル君の足は白い壁を抉り取るだけだった。

 

「そこでじっとしてろッ!」


 男は弾丸の壁ができるよう、何発も壁天井に撃ち込み、スバル君を閉じ込めた。


 反射回数も増えているし、数も多いからさっきみたいに抜けられない。

 多分10秒くらいは続くぞ……!


 きっと次の標的は……


「神美の人間!貴様からだ!」


 卯月の元へ向かう男は、銃を構え、人が避けきれない近距離で直接撃ち込もうとしていた。

 

 その黒い瞳は卯月をしっかりと捉え、銃口を向け…


 

 ─ダンッ!


 

 引き金を引いた。



 そして、飛んでいく弾の向かう先は……



 



 ──ただの壁だった。



 


 

「ッ!?」



 反射した弾は、あらぬ方向へと飛んでいき、そのまま誰にも当たらずしばらく反射して壁に埋まった。


「へへッ!相手が悪かったな悪魔さんよぉ!卯月は今……」


 …卯月はすでに……


「テメーの裏だ!」


「クッ!」


 男は振り返りざまに銃をごとブンと横に振ったが、それもただ虚空で虚しく腕を動かしているだけに過ぎなかった。


 人は驚いた状態で振り返ると重心がずれる事がある。


 しゃがみ込んで、死角に入った卯月はそれを利用し、脚を払った。


 男はバランスを崩し地面に倒れ込む。


 片方の銃が男の手元から離れ、卯月により、割れた窓の外へと蹴られていった。

 銃は放物線を描いて降ってくる。


「舐めやがってッ!」


 男はなんとか立ち上がり卯月に銃を向け、引き金に指を掛けた。「卯月が危険だ」そう思った瞬間……


 

 世界の動きが…スローに視えた。

 


 あと2秒後に弾丸の壁は消えてスバル君が走り出すだろう。しかし、この距離じゃ間に合わない。

 卯月は避けようとじっと銃口を見つめている。


 

 アタシがするべきことも何となく分かる。

 卯月は男から銃を手放させ、一階へ蹴っていた。


 放物線を描いた銃は今、アタシの手元だ。

 


 何となくだけど、身体が勝手に動いた気がした。



 確かな反動、確かな音、確かな匂い、確かな閃光。

 アタシには視えた。線が視えていた。


 展開される糸の網を掻い潜り、割れた窓へと入り込む。


 反射角度はざっと90°。


 弾は銃を撃ち飛ばし、天井からガラスへと反射する。



 


 …身体の制御が効かない。

 何処となく震えもある。


 でも、そんなのには縛られない。

 

 今だって、抑えられないほど気持ちが高ぶってる。


 過去のシガラミだって、例の研究だって、この空間だって、ヤツの組織だって。


 そんなものどうでもいい。

 そんなものには囚われない。

 そんなものには負けない。



「ウグッ!?」


「さすがだ!」「お姉ちゃん!」


 弾は男の脇腹にめり込んでいった。


 見たか2人とも!

 見たかよ悪魔!


 ああ…最高だっ! 

 


「あははははははっ!!」


 

 ──この高揚感は誰にも奪えない!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ