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私立一之宮学園〈特科〉  作者: ヲトオ シゲル
閑話ちゃん。
82/83

暇を持て余した、放置ズの、遊び。






※やはり閑話ちゃんですので、時系列がアレ※


本編より少し先のはなし。














えっと……ここまで必要があるんだろうか?


もうかれこれ二時間ほど同じ事をずーっと考えている。もうとっくに終わっているはずだろうに、作戦終了及び、撤収の連絡が来ない。

絶対もう終わってるはずなのに! まさか不測の事態が?! いや、終わっているはずだ、ていうかワザとだと思う。ワザと連絡せずにいるんだと思う。

俺がこんな状態になっているのをワザと忘れて、後から「あ、ついうっかり。ごめ〜ん」とか言う気だ、絶対そうだ。

確かに? どっちかって言えば俺の方が向いてるよ? でもじゃあ得意かと言われれば、そうでもないし、むしろ苦手だし、嫌いだ。

あー………帰りたーい。


居酒屋を出て、今度はしっとり大人の飲み屋だとやかましい連中に、どこら辺がしっとりなのかと溜息をこっそり吐き出した。

二軒目に行く途中で半数が離脱していく連中の顔を見て、作戦上問題無さそうだから引き止めなかった。何なら離脱組に混ざりたいけど、それもどうかと思ったから、心の中で心に浮かぶ人に盛大に中指を立てておく。


輪の中心にいるのは、この度、画期的なプログラムを開発、発表間近の天才プログラマー。

前祝いだと持ち上げて、周りを巻き込んで街に繰り出した。


で、今まさに空っぽになったオフィスで、そのプログラムの破壊活動が進行中のはずなんだけど、それが二時間経っても一向に終了の合図がない。


実はこの他称天才プログラマー、本来だと二流のクラッカー。もちろん本人はそんな風に自称しないだろうけど。ちまちま細かいハッキングとクラッキングで遊んでいれば、美味しいごはんにぽかぽかお風呂、あったかい布団で眠れただろうに。

何を血迷ったのか一之宮に手を出した。

その辺りで二流臭さが半端ない。


まず三流は手の出しようが無い。

一流は手を出さない、何故って後が怖いから。

噂にもならない、真しやかにも語られない、都市伝説にもならない、不文律で暗黙の了解だ。


なのにそいつは手を出した。

企業の情報流出させる程度で満足していれば。ショボいウイルスでもばら撒いて悦に入っていれは良かったものを。

一之宮が見逃すなんて無いにしても、せいぜい訴訟を起こされて億単位の賠償金程度で済まされただろうに。

盗んだプログラムを発表、こういうのは先にやったもん勝ちだ。そんな事はままあるかもしれない。何を間違えたかと言えば、盗む相手を誤ったのが問題だった。大問題だ。


しばらくしたら新聞に小さな記事が載るんだろうな、夕方のニュースかなとぼんやり輪の中心にいるそいつを見る。

それなら人生の最後にしっとり酒でも飲めば良いかと、賑やかな集団の後を付いて行く。




え? ていうか付いて行く必要なくね?

もうなんなら面倒だから、そこの路地に引っぱり込んで、きゅっと捻ったら終わりだろ?

あれ? 生かせって言われてたっけか? 俺がするのはオフィスからさっさと全員引き揚げさせろ、足止めしてオフィスに戻すな、だった。

飲みに誘えなんて言われてなかった。

けど、それが一番楽かなと思って……。

超メンドウ全然楽じゃない。

え? 俺バカなの?



「あ! 瑛人だ!」


突然大声で叫ばれた自分の名前、今使っている偽名じゃなくて、本名として使ってる方の名前が聞こえて、そっちを向いた。


「え? なになに? どこ?!」

「そこそこ! おーい、えーいーとー!」


道の向こう側から飲み屋街の人の流れを横切りながら渡ってくるふたりの姿に、俺は鞄を持つ手から力が抜けかける。慌てて持ち直した。


「おー久しぶり……いつぶりだっけか?」

「んー?……五年……ぶりだな」


それくらいぶりのふたりは、その時と変わらない笑顔を浮かべている。

変わったのは見た目の雰囲気だ。

今まさに自分に面倒を押し付けて、何なら仕事を終えた上で、敢えてうっかり撤収の連絡を忘れてまったりしているであろう俺の相方の双子の兄。

弟よりも少し背が高くてあの頃よりも体ががっちりした。

それに俺をこんな体にした人の至上の女神様は、大人っぽくなって、いじめっ子の影もチラつかないような、優しげな顔付きになっている。


「……ちょ……その名前で呼ぶなよ、いま、仕事中」


こっそり早口で言うと、察してくれたのかふたりはにっと笑みを深めた。前を行っていたはずの集団はいつの間にか俺たちを取り囲もうと、わらわら寄って来てそれぞれに己の場所を陣取っている。


「エイトってなにー?」

「お姉さんこいつの友達? 美人さんだね」

「おいこら紹介しろ!」


さっきの一次会で数少ない女性がみな帰ってしまった。酔いも手伝って気が大きくなったのか、声も比例して大きい。


「瑛人はねー、こいつのあだ名。高校の時の友達なんだよ。ね? 瑛人」

「へー。え、なんでエイトなの?説明ハヨ」

「あー。この彼女の八番目の彼氏だからエイト……ちなみに俺はナンバー2」

「ナニ、マジか!マジなのかお姉さん?!」

「ちなみに子持ち、一児の母ね」

「マジなのか!お母さん?!」


黒髪の美人なお姉さん改めお母さんはくすくす笑いながら頷いた。

どっと盛り上がる一団は、一緒に飲みに行こうとふたりを誘う。勘弁してくれと気が遠くなりかけた。


「んー……というより、瑛人が私たちと一緒に行こう? 良いでしょう?」


かくんと絶妙な角度に頭を倒して、ね? と俺の腕を引っ張った。

寒気のする俺と真反対に周囲がどよめいて熱が上がる。


「や、だから、仕事中……」


いいよいいよ連れてっちゃってーと背中を押され、一団は離れて行く。


「……ああ……もう、どうしてくれるんだよ」

「帰りたがってたから助けてあげたのに」

「や、まあ……そうだけど」

「元気そうじゃん、瑛人」

「ああ……うん」

「あいつと仲良くやってるって?」

「仲良くはないけど、なんとかやってるよ」

「カズちゃんをよろしくしてやってよ」

「よろしくされたいのはこっちなんだけど」


自分の話はこれ以上聞かれると、後々その件のカズちゃんに怒られそうなので、話題を変えることにした。


「あーあれ……あの人は? 何してんの?」

「どの人?」

「あの……ナンバー1の人」

「……ああ、あいつね……」


見てこれ、と差し出されたふたりの左手には、ペアの指輪がしてあった。薬指に。


「え?!……なに? え?!」

「あいつ……遠くへ行っちゃったんだ。俺たちじゃ、行けない所だよ」

「は?!……うそ……だろ……?」


黒くて長い髪がさらりと揺れる。顔を伏せると両手でそこを覆った。

震える肩を、隣の人がぎゅっと抱き寄せる。


「瑛人は……このまま元気でいてな……いつまでも、お前の中であいつは生き……ゴメン……俺たちももう……帰るわ」


言葉も無いまま呆然としている俺の肩をばしっと叩いて、ふたりは人の波にのまれて消えた。




有り得ない、そんな事。


だって殺したって死ぬような人じゃないし、殺される前に相手を殺せる人なのに。


死ぬなら俺が、俺の方が先のはずなのに。


もう仕事のことなんかどうでもよくなって、どこをどう通ったかは覚えてないけど、気が付いたら自分の部屋にいた。


実感がない。

聞いた話が衝撃的過ぎて、感情が追いついてこない。









翌日にやにやしながら、ごめ〜ん連絡忘れちゃったと呑気にやって来た和隆に、昨日の話を、偶然に町で再会したふたりの話をした。




「からかわれ体質だね……」

「え?」

「ルカなら今……どこだっけ、アラスカ?に居るはずだけど」

「は?」

「指輪だって、アレじゃない?どっちもルカに『男除け』で着けさせられてるんじゃない?」

「そ……?」

「ちょろいね、瑛人」

「そんな……」



俺の昨日は戻ってこない。


やっと遅れてやってきた感情。

ぽろりと涙が出た。

















モンスターエンジンのコントからタイトルをいただきました。

「私だ」「お前か」ってやつです、神々の遊び。

好きなんですよね、アレ。


もう、史隆と夜はひどいヤツらですよ、ホント。


打ち合わせもなくこんな遊びができたのは、久しぶりに会う人用の鉄板ネタだからでした。

しかも他人にではなくて自分たちに鉄板という。

色々と残念な遊びなのでした。













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