いっしょにいるひと。
ねえ、朝ちゃん。
私たちはなんて面倒くさいところに生まれてきてしまったんだろうね。
誰一人、自分のことすら思い通りにいかないこの世界で。私たちを思い通りに出来ると誰が勘違いしたんだろう。
何のために生まれてきたのか、私たちで何をどうしたかったのか。それを考えてたはずの人達は、私たちに何かをさせる前にもうほとんどいなくなってしまった。
ーどうせろくな事じゃないから別にいいじゃないー
そうだね。
こんな能力の使い道なんて、限られてるから簡単に想像がつく。
これからどうしようか。
何がしたい?
ねえ、朝ちゃん。
あの研究所の中でただ生きる事は簡単だったけど、外ではね、難しいことばっかりなの。
あそこにいて言う事だけ聞いてれば楽ちんだったのにね。
ー……あんたのそういうとこ、ほんとムカつくんだけどー
えへへ。
だってね、本当にそうだったんだもん。
あそこでは何かを考えるのも、何かをするのも全部よそに置いておけたでしょ?
それで良かった。
誰も気にしなかったし、私も気にならなかった。
でもね、外に出たら何もしないなんて無理なの。
それで何かをするとね、中にいた時よりもっと、誰かをがっかりさせたり怒らせたりするのが、考えられないほど増えた。
外はどうしてこんなに面倒なんだろうね。
毎日毎日疲れるの。
ー目を閉じる前に、明日のことを考えながら寝る?ー
明日はもっと上手にできたらいいのになって。
ー……わかってる。全部知ってるー
大変なの、毎日毎日。
楽しくて疲れるの。
だからね、だからもし朝ちゃんがしたい事があるなら、朝ちゃんに全部あげたい。
ー……夜は何もしたくないの?ー
朝ちゃんがしたい事をすれば、それは私がしたのと一緒でしょ?
ーあのね……だったら夜がしたい事をすれば、それは私がしたのと一緒でしょ?ー
……そうなるのかな?
ー今まで面倒がってサボってきたんだから、そろそろ他所に置くのはやめなさい。気合い入れていくわよ、夜ー
私がいくの?
ーあんたの身体で、あんたの心だものー
でもそれは朝ちゃんがくれた……
ー言ったでしょ、生きやすい方が生きればいいー
朝ちゃんの方が上手なのに……
ーはは。……まぁ、そうかもね。でも夜のものー
だから、朝ちゃんにあげる。
ーそりゃ、昔はね、羨ましかった。なんで夜ばっかりって何度も思ったけどー
朝ちゃんの方が外に出たかったのに。
ーもう出られたー
したい事がたくさんあるのに。
ーできるから、夜と一緒にー
朝ちゃんはもういいの?
ーあのね、いい?……私は最初からこんながっつり出てくるつもりなんて無かったのに、引っ張り出してきたのは夜なんだからね?ー
あれ?そう?
ーちょろっと遊びたかっただけなのに、あんな思いもしない大見得まで切ってくれちゃって。私どんだけヤな奴なのよー
朝ちゃんのそういうところが格好良いところなのに。
ー……そりゃどうも。誰もそんな事思ってなかったけどねー
ええぇぇ?……ホントに?
ー夜の気持ちは嬉しいけどね、もういいの。私のほしいものは、もうもらえたから。いいの。もう充分……ー
ずっと一緒にいてくれるの?
ー死んじゃった他の私たちはかわいそうだったね。でも私を夜の部屋に入れてくれてありがとう。心配しなくていいから。ずっと一緒だからね……一緒に生きていこうー
うん……。
ー……ホラ、あんまりぼーっとしてるから、あんたの束縛系溺愛男が心配してるよ?ー
あ! リュカの事は? いいの? 大好きなのに?
ーいや、夜ほどは思ってないからね?! ……はあ。……もういいから戻りなさいってー
でも……
ーしつこい!! ー
「……ねえ、リュカ。あなたのかわいいかわいい夜ちゃんを返してあげる。コントロールが効かないから腕輪を持ってきてくれない?ーーダッシュで!!」
ぎゅっと抱きしめられる感覚の後に、ふわりと体が浮かんで、そっとベンチに下された。
目を閉じる。
外から受ける感覚に、ほうとため息をこぼした。
久しぶりの五感を自分の内に記憶する。
感覚は生きていた時よりずっと詳細で鮮明だった。
思い出すだけで体が震えるほど。
握っていた感覚をひとつずつ夜に手渡しながら、頬にぽろぽろ落ちてくる熱くて冷たい涙を手で拭った。
「気合い入れていこう、夜。半端なことしたら許さないからね、しまっていこう」
なんの試合だと笑って自分にツッコミを入れながら、静かな場所に奥深く沈んでいく感覚に身を任せた。
リュカは仰せのままにダッシュで持ってきた腕輪を、夜の手首にひとつずつ嵌めていく。
ベンチの前に片膝を立てて座り、お姫様に熱心に話をする王子様のような、そうじゃなければ恋愛映画の見せ場のような、そんな神妙さだ。
まだ少し残っている朝ちゃんの部分が、この有り様に確実にドン引きしている。
夜はおかしくなってくすくす笑い声を漏らすと、ベンチの空いている所、自分の隣をぽんぽんと叩いた。
少し前に比べると殊のほかご機嫌な様子でリュカが隣に座る。
朝ちゃんの、まあ、なんて賢いワンちゃんなのかしら、という声が最後の方は小さくなって聞こえなくなってしまった。
全部の腕輪が夜の手首に戻ると、周囲の音が澄んで聞こえ、吸い込む空気が軽くなった感覚がする。
楽しい夢から目を覚ましてしまった心残りと、これから出会う『いいもの』が目の前をふわふわと光の粒になって漂っている。
頬の力は抜けるのに、口の両端は持ち上がる。
「朝ちゃんはね」
「うん?」
「名前を呼んで欲しかったの」
「……うん」
「朝ちゃんが『居る』ことをね」
リュカの両腕の中にふわりと頭を抱えられる。
「誰かに知ってほしかったって……」
「……そうか。……そうだったんだね」
「それでね。だからもう、それだけでもう、充分なんだって……」
「ああ……それならもっと……名前を呼べば良かった……俺、ずっと怒った顔してたよね?サイテーだ……」
額を合わせているとリュカの熱がおでこに伝わってくる。
今度は自分の方からリュカの首に両腕を回す。
大丈夫と繰り返すと、リュカの肩口で声は服の中に染み込んでいく。
自分よりも大きな手が背中を支えている感覚、手の温かさ。
その手に撫でられてざらざらだった心がつるつるになっていく。
あの小さな白い部屋から、怖いほど広い世界に連れてきてくれた。
生まれて初めて名前を聞いてくれた、名前を大切そうに呼んでくれた人。
宝物のように大事にして、丁寧に扱ってくれる。
ひとりだと面倒で仕様がない事を、楽しくしてくれる人。
一緒に居るだけで世界に色が溢れて、それはとても綺麗で、綺麗すぎて身動きができなくなる。
その中を手を繋いで歩いてくれる人。
ずっと一緒に歩いてくれる人。
「リュカ!」
「……うん?」
「お腹が空きました!」
「……おかえり、夜」
「ん? ずっといますが?」
その晩、琴野とコッティ、都が招集されてそのまま特科ご一行様の修学旅行に突入する。
上機嫌の榊の気の向くままに敢行される運びとなった。
さあさて。
この章はここで終わりでございます。
またしても思った方向にいかず、こんなオチになって自分にびっくりのこの章です。
良い話風味になっちゃって、アレレ?です。
まぁ、しょうがない、なっちゃったもんはしょうがないよ。ナイスファイト、ナイスファイト!!
それはさておき。
これまでお付き合いいただきまして、読んで下さった方には感謝感激でございます。
ありがとうございます!!
そしてですね。
まだまだ色々この先のお話はあるのですが、近々、早々と書き上げたいのはそりゃもうそうなんですが。
申し訳ありません、ゆっくりやっていきますので、どうぞ気長にお待ち頂きますようお願いします。
とりあえずリュカの歳が学園を離れる年齢になりそうなので、いつまで学園モノで行くのかタイトル含め悩み中です笑。
ハイ、気にしてるのは私だけですけど!!
それでもですね。
次もお付き合いして頂けるように精進してまいります。
ありがとうございますとこれからもどうぞよろしくを添えて。
絵を描いてないで、話を書けよと。
まぁそんなこんなで、ヲトオさんお絵かきしたってよ。↓↓↓




