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私立一之宮学園〈特科〉  作者: ヲトオ シゲル
閑話ちゃん。
70/83

小学生口ゲンカ防衛タイトルマッチ。






#16廃棄より前、ある夏の日のお話。


※例のアノ解熱鎮痛剤よろしく※

このお話の成分の半分は会話でできています。

なんてこと言いつつ。







では、どうぞ。











柔らかくて小さな手が額に当てられ、その後すぐに襟の中の首筋に入ってくる。


「なに?都……」


右隣に座っているのは都だと分かっていたから、右側から伸びてきている手の方に向かって小声で聞いた。


「……手が冷たい」

「何じゃない……俺は普通だ……熱があるだろ、夜」

「ねつ……?」


夜は机に伏せていた顔を少しだけ持ち上げて、薄っすらと目を開ける。

眉間にしわを寄せた都が頬杖をついて夜を見ている。

それでか……と机に顔を伏せて両腕で覆った。講師の声しか聞こえないはずの静かな講義室では、ざわざわと風とそれが揺らす木々の葉擦れのような音が聞こえている。




夜と都は午後の数時間、例のごとく理事長の勧めに従い特別講習に参加していた。

30席ある講義室はほぼ満員で、その部屋の最前列のど真ん中、かぶりつきの席にふたりは座っている。

葉擦れに聞こえているのは実際には同じ空間に居る人々の思考で、それが絶え間無くざわざわとしていた。

頭の上から体調を心配する講師の声まで聞こえる。

これも夜には、実際の音声なのかどうなのか判別が難しい。講義もいつの間にか中断しているらしいので無難に答えを選択する。


「大丈夫だから続けるといい……話は聞いているから……」

「ホント、大丈夫か?」

「……せんせい、そこの二個目の式はいらない……」


ちゃんと聞いていると証明したいのか、黒板に書かれた長ったらしい数式にダメ出しを始めた。

都は頬杖のままちらりと前方を見て、夜に諭すように言う。


「……お前は暗算できても、他の人には必要なんだって」


そうか、と息と一緒に小さくもらすと肘をついてゆっくりと体を起こした。


「めざわりだから後ろの席とかわろう……」


静かな講義室にカツンとペンが落ちる音が響く。

参考用にと講師から貸し与えられていた本をまとめて席を立った夜の後を追って、都も慌てて席を離れた。

夜は座っていた所から数えて3つ後ろの席の横で立ち止まる。床に落ちていたペンを拾い上げると落とし主の机に丁寧に置いた。


「もともとあそこしか座る所がなかった……めざわりなら今度からお前がいちばん前に行け」


机をこんこんとノックしながら夜は言い、ノックする度に手首にある金属がちりちりと高い音をたてた。首を傾げてペンを拾ったお礼を強要している。

落とし主の男子生徒は小さな声でお礼を言うとその後はきつく口を閉じる。

夜とは反対方向に視線を外し、ペンを見ようともしない。


「……はいはい、そのくらいにしといてやれよ」


半袖のシャツから出ている腕の手首には、いつもと同じ数の腕輪が両方ともにいつも通り嵌っている。

熱の所為でいつもは知らずかかっているリミッターが外れたのかと都は予測して、その予測は間違ってないだろうと、後ろから軽く夜の腰の辺りを押した。


まるで酔っ払いのようにふわふわした足取りで、酔っ払いのようにふわふわと笑いながら最後列と席を交代した。


「せんせー、続けるといい……」


酔っ払いのように声のボリュームがおかしな調子で言い放つと、夜は再び机の上に突っ伏して目を閉じた。


都はこの後のことを3秒ほど考えて、再開された講義に思考を切り替える。






予定通りこの後待ち合わせの場所に行くと言うので、ふわふわした足取りの夜の手を引いて、都は売店に向かう石畳の道をゆっくりと歩く。

売店前のベンチには、これまた予定通りに史隆と琴野が並んで座り、おやつタイムがすでに始まっていた。

微笑ましい光景を見たと言わんばかりに史隆がにこにこしている。


「仲良しさんだねぇ、どうしたの?」

「夜が熱出してるんだ……真っ直ぐ歩けてないから」


そのまま手を引いて琴野の横に座らせると、都は自分の手を腰に置いた。


「マジか……大丈夫か?夜」

「アイス食わないと帰らないってさ」

「はは。……じゃあ史隆お兄さんが買ってきてあげよう……いつものアレか?」

「……白いほうだ、お兄さん」

「おっけーおっけー、待ってなさいよ」


俺も糖分補給と言いながら小さいお兄さんも大きいお兄さんに連れ立って売店に向かう。


琴野は心配気に顔を覗き込み、夜の額に手を当てる。この後は榊の所だと優しく聞こえるバリトンボイスと、発言者の琴野に夜はふにゃりと笑って答えた。



アイスを食べ終え、その他病人が欲しがりそうな食べ物を必要以上に買い込み、いざ戻ろうと和隆が夜の前に背中を向けてしゃがみ込む。


「さあ、乗りなさい夜!」


背負おうとしていると気がついた夜は史隆の肩に手を乗せ、しばし考えた後手を引っ込めた。

どうしたと振り返る史隆に、リュカから度々きつく言い含められている言葉をそのままに告げた。


「史隆は最近、さかっててよくじょうするから、さわってはいけません」


爆笑したのは9歳児だった。

史隆は両手と両膝を地面についてぷるぷるとチワワみたいに震え出す。


「だーれーがー盛って欲情だぁぁ……そりゃ自分のコトだろがぁぁああ!!アイツ帰って来たらぶっ飛ばぁぁぁあす!!」

「……ぶっ飛ばそうとする前に返り討ちだろうけどな」

「……なー?!……あームカつくわー!!腕力だと絶対無理だ!!くそっ!こうなりゃ訴訟だ!!相手取ってやる!!」

「お、良いな。勝ち目が見えてきたぞ……」

「器物損壊だ、親権はこっちのもんだ!司法取引だぞ!!」

「……あーあ、残念ながら敗訴だな……取りあえず知ってる単語を並べるな」



盛ってても欲情はしないからと史隆本人から説得され、意味もよく分からないまま夜は背負われて榊の保健室に向かった。

道中で史隆からセクハラ発言か飛び出し、リュカに殴られろと都は吐き捨てたが被害を受けたはずの夜は痛くも痒くもない顔をしていた。

むしろ確信して、満足感すら得る。

史隆の言う通り、最初に学園に来た時より胸は大きくなったと本人もあっさり認め、はばかる事なく公言する。

前ほど痩せてないし、身長も体重も平均的な数値に近寄ってきた。

浴場(おふろ)と自分の成長と何が関係あるのかという夜の問いに、都は面倒だからリュカに聞きなさいと丸投げした。





保健室にたむろする至極健康なスポーツ科の生徒達を蹴散らした榊は、夜をベッドの中に放り込むと、電子音が鳴った体温計を睨みながらため息を吐いた。


「遅かれ早かれこうなるとは思ってたけど……何したの?」

「何したって、別に……ていうかこうなると思ってたってどーゆーことよ?」

「夜はあんた達とはお育ちが違うのよ」

「先生さ……もうちょっと言い方考えて言ってやれよ」


琴野はそっと席を立ち、自分が居た椅子にコッティを座らせ、ひよこ色のサマードレスの裾をきれいにならして自分はシンクのある場所に行った。


「そういう都がおバカな史隆に分かりやすく説明してあげれば良いじゃない」

「……いいか、史隆。……夜を各階級制覇のタイトル王者だとしよう」

「は?待て、もうすでに意味わからん」

「まぁ、聞けよ……夜は今まで外には一歩も出ることが無いまま、トレーナーから英才教育を受けて、有名なランカーとだけ戦い、数々の試合で防衛を続けてきた。そうだろ?先生」

「そうね、日本の有名選手とは戦った」


洗面器に氷水を作って、浸したタオルを絞る。

それを額に乗せると夜はうっとりと目を閉じた。布団を肩口まで引っ張り上げてやり、琴野だけが甲斐甲斐しく世話を焼いている。

世話をしなくてはいけない役割の保健医は大と小のお兄ちゃん達と重要なようでそうでもない話を続けている。


「戦ってきたのは、有名で強い相手ばかりだ……今までプロとしか戦ってないから、無意味にからもうとしてくる性質の悪い中学生との戦い方を知らないんだよ」

「試合では負け無しでも、道端のケンカは弱いってこと?」

「……小学生の口ゲンカでも一発K.O だ……」

「……それと熱とどう関係が……?」


都はしばらく無言で史隆を見て、見るだけ見てそのまま放置で榊の方に向き直る。


「……ーーーコレ多分、一昨日の晩にスポ専のプール入ったからだな。掃除で水抜くって聞いたからその前に遊びに行ったんだよ」

「どうせなら水張り替えてから行きなさいよ、雑菌祭りじゃないの」

「俺もきれいな水がいいって言ったんだけど、みんな何日も待てないって言うし」

「……まぁ、これで少しでも抵抗力が付くなら良しとしとこうかね……で?ルカはいつ帰って来るって?」

「今日の夕食までにはと言っていたな?琴野」


琴野は頷き、合わせて都も同意した。

会話に参加できないまま散々待遇で、あのそのねぇねぇ言っていた史隆が声を上げる。


「オイ!無視すんな、お兄ちゃん泣いちゃうぞ!」


うとうとしていた夜が大きな声ではっと目を覚まし、榊は史隆に無言で肩にグーパンを入れる。


「……夜はしばらくここで寝てなさい。あんた達は一度戻ってルカと出直して」

「そうする……夜、プリン食べる?」

「……ぜりー……がいい……むらさきの」


都はビニール袋をごそごそ探り、グレープ味と表示のあるカップをベッド脇の台に置いた。


「じゃあ……先生あとヨロ」

「はいよー。あ、せんせーにもなんかおくれ……」

「そんで、最後まで説明ナシか!……お兄ちゃんホントに泣くからな!」


夜は布団から出した手をひらひらと振る。


「……泣くな史隆……むらさきのぜりー食べてもいいから……」

「っっ!!……かわいいのは夜だけか!!」

「……盛ってんなよ、殺されるぞ」

「間違っても欲情はしないからルカには言わないで下さい!!」






この後ひと仕事終えて帰ってきたリュカに、いまひとつ空気が読めないひよこ色のドレスを着たフランス人形が事の顛末を全部話してしまい、史隆はしばらく接近禁止を言い渡された。













夜は一晩明けて全快。

すぐにまたプールで遊んで榊に叱られるという。




いつもの白いアイス→パピ◯のホワイトサワー味。


熱が高い時はさっぱり味がいいですね。





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