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私立一之宮学園〈特科〉  作者: ヲトオ シゲル
閑話ちゃん。
69/83

中学生よつば。





これは14日間のおはなし。より1年前、まだリュカと夜が出会う前のお話です。




やっぱり時系列がアレですが、閑話ちゃんはこんなものだと思っていただければ嬉しいです。


今回この話をやっと出せて、ひとり勝手にほっとしております。

伏線回収の巻でございます。







では、どうぞ。













「てぇへんだ!てぇへんだ!」


おやつを買い出しに行っていた史隆と和隆が大きな声を上げながら教室に入ってくる。

史隆が卓の周りを走りながらあまりにも喧しくしているので、都は渋々相手をすることにした。


「……何がてぇへんなんだい、ふみさんや」

「聞いとくれよ、都のダンナ。助さんの野郎が人間になっちまってるんだよ!」

「……えっと?意味が分からないから、最初から話してくれ……普通に」




助さんの正式名称は『スポ専の助三郎さん』。

代々伝わる話では、学園のある山に捨てられただろうと推測されている犬で、都が生まれるよりも前からスポーツ専攻科で飼われている。

性格は大人しく誰にでも友好的なゴールデンレトリーバーはもうずいぶんなご老体で、そこかしこの日なたで眠っている姿だけが目撃される。

なぜか移動中は誰の目にも止まらないので、いつの頃からか学園の七不思議に数えられ、生ける伝説となった。

散歩の途中で眠くなって寝てしまうのか、特別なこだわりでもあるのか、晴れた日のおやつの時間前後には、決まって助さんは特科の芝生の上で長くなって寝そべっている。




おやつを買いに出掛ける時、校舎前の芝生の上にはいつものように助三郎さんが眠っていた。

眠っている助さんを史隆と和隆はひとしきり撫でまわしたものの、相手にしてもらえなかったので、ふたりはそのまま買い物に行った。

帰ってきてみると助さんが寝そべっていたその場所に、人が寝転んでいる。

犬の助さんが人間に変身したと結論を出し、その結果がこの騒ぎだと史隆は興奮気味に説明する。


「……何言ってんの?バカなの?」

「んもー!そりゃ都に比べたらバカだけど!!ちょ……いいから外に来てって!」


全員を引き連れて校舎前に出てみると、史隆の言う通りに人が芝生の上に寝転んでいた。

太陽に照らされた髪の毛は光をはね返し、それは助さんの毛の色に似ている。

そこも史隆の勘違い要因のひとつかもしれないが、その人は学園とは違う学校の制服姿だった。


眠っている顔を覗き込み、すぐさまリュカによって回答が導き出される。


「よつば」

「うん……よつばだ。ーーー大きくなったなぁ……」


親戚のおじさん発言をする都に、リュカが笑って頷き返す。

つい数ヶ月前に現れたよつばは、片方の手を誇らしく持ち上げて、5歳だと言っていたが、このよつばはどう見てもリュカや双子と同年代に見えた。


「えぇぇぇええ?!……え?!これよつば?……なんだ……俺、マジで助さんが人間になっちゃったのかと思ったのに」


後ろの方で和隆が声を殺して肩を震わせている。いち早くその姿を目にした史隆はやっと自分がからかわれていた事に気が付いた。


「カズが最初に言ったんだろ!!だましたな!!」

「本気にすると思ったから言ってみた〜。……よつばとまでは思わなかったけどね〜」

「並ぶとまるで兄弟だな。よく似ているじゃないか」

「ホント〜、比べると似てるわ〜」

「……そう?」


コッティ達の会話にこくりと琴野が頷いている。

だがリュカは似ている事とはもっと別の、他人には言葉で説明し辛い直感的な何かで繋がりを感じていた。


リュカはよつばの横にしゃがみ込むと、名前を呼びながら体を軽く揺する。


よつばは少し唸って寝返りをうった。

眠る前と何か違う感じに薄く目を開く。

緑色と、色んな種類の靴とそれを履いている足が見える。

少しずつ覚醒しながら寝ぼけてかすれた、なに?といった内容の声を小さく吐き出した。




ちょっと休憩のつもりだった。

自分の部屋で勉強していてふと、図書館で借りてきた本があったのを思い出した。

逃避という名の『ちょっと休憩』で、本を取り出して勉強机から離れ、すぐそばの床に寝転んで本を開いた。

最初の2.3ページまでは目で追えていた気がするけど、そこから先を読んだ記憶は無い。

すこーんと寝てしまって、次に目が覚めた時には、ふかふかの絨毯の上ではなく、ちくちくする草の上に寝転がっている。


よつばもまた目に映り、聞こえる音声情報とは別の部分で何かを感じていた。

それは体の奥深くで大きなうねりになり、その中心でうねりに翻弄されながら、ちっぽけな自分が何かを必死に叫んでいる。


「なんでこんなとこで寝てんの?」


小さく笑いながら話しかけてくるリュカの顔を見ながら起き上がり、瞬きを繰り返してよつばは夢かなとつぶやいた。


「あぁ……どうだろうね?どう思う?」

「お……とう……さん」


記憶にあるよりも若い、それどころかそう歳も変わらない雰囲気の、それでも自分の父親は、はいと優しい声で答えてくれた。

夢ならば自分の想像力を褒め称えたいが、そもそも今までどんなに思い描いてもその通りの夢なんて見たことはないし、こんな許容量を軽く超えるような想像力は持ち合わせていない自信がある。




リュカはふたりだけで話したいと振り返り、快く返事をする都と琴野、渋る史隆を和隆が引っ張っていった。そのまま校舎に入っていくのを見送ってから、リュカはよつばの横に並んで座る。


「よつばは何歳になったの?」

「15歳……中3……です」

「はは。同い年だ」

「え?……そうなんですか?」

「やめてよ、敬語とか……前にもここに来たの覚えてる?」

「前?」

「ちょっと前に来たのは5歳のよつばだった……かわいかったなぁ」


リュカは手を持ち上げて、その時にいたよつばの背の高さを示し、その頭を撫でる仕草をした。


「5歳?」

「その前は18だって言ってた」

「僕……まだ……」

「……だよね。あ、でもいちばん最初は小学生だったよ。確か、4年生はえっと……10歳か……覚えてない?」

「……覚えてない……です。それ本当に僕なんでしょうか?」

「さあねぇ、どうかな。でも全員よつばだと言ったし、俺をお父さんと呼んでたよ?」


顔を正面に向けて、何を見ているかといえば自分の心の内側を見ているような、考え込んだ表情のよつばを、リュカはにこにこと笑顔で見ている。


「いつも聞かれるから先に答えちゃうけど……君のお母さんはここにはいませんよ」

「え?いないんですか?」

「あー……やっぱりいることになってんのか……。えっと……まだいない、が正確かな」

「まだ……いない……」

「そ。俺も会えるの楽しみにしてるんだけどねぇ。いつだろうね。早く会いたいなぁ」

「……まだ会ってもない」

「そうなんだ。どんな子かな……髪の長い子が良いなぁ、黒い髪で、それで色白の女の子が良いよね……よつばの好きなタイプは?どんな感じの子が好き?」

「……本当に会ったことがないんですか?」

「うん、超楽しみ」


リュカの心底楽しそうな顔は、本当の事を言っているように見える。

今言った理想のタイプど真ん中だよ、とうっかりツッコミを入れて喋ってしまいそうになる自分に、なんだかそれは良くないことだと言い聞かせる。


「……知りたいですか?どんな人か」

「あぁ、それは……まぁね。でも、それよりも知りたいことがあるんだよね……で?よつばはどんな女の子が好きなの?」

「僕……は、女の子は……どんなとか……」

「え?男の方が好きなの?……あ、いや、大丈夫。そういうのは自由だと俺は思ってるからね……」

「あの……いえ、女の子が好きです」

「うん。……いいんだよ、どっちでも。人を好きになるのは良いことだし」

「女の子が好きですってば!!」

「うんうん、そうかそうか。……で?よつばの名字は一ノ宮なんだよね?」

「そうですけど?!」


そう、と前を向いて自分の内側を見ている表情になったのは、今度はリュカの方だった。


会話の勢いに乗せられて、よつばは返事をした。

知りたいと言ったのはもっと別の話だったと今更ながら気が付いた。

そうかと小さな声をこぼしたリュカを見て、自分は大変な失敗をしたような気がして、心臓の音が早く大きくなっていく。



「小学生のよつばに教えてもらったんだけど、詳しく聞けなかったし、高校生のよつばには上手くはぐらかされたんだ……ずっと考えてた……どうして俺の名字じゃないんだろうって……」



息をしなくてはいけないのを思い出して、よつばは大きく息を吸い込む。



「まず俺の未来のお嫁さんの名字が一ノ宮の場合……それって俺とは別れちゃって、よつばが引き取られちゃったって事だよね」



息を吐き出したいのに、やり方が思い出せない。

目の周りに熱が集まってくるのを感じて、ぎゅっと閉じた。






どうか、どうかと祈る。

どうか、それ以外の可能性には触れませんように。





「それとも……よつばは一ノ宮の養子にならないといけない事情があったのかな……それは、どんな事情だろうって」



塊になって一度に吐き出された息と一緒に、目からはぼとぼとと水の球が落ちる。



「俺と俺の奥さんは……いつまでよつばと一緒にいられるのかな……」



リュカは隣で下を向いたままの頭に手を置いて、髪の毛をかき混ぜた。




「お前が何度も何度も会いに来ちゃうほど……こんなに泣いちゃうほど短いのかな……」












もう陽が傾き始める時間になって、トイレに行く通路の窓から気になっていた外を見た。

目に入った光景が面白すぎて史隆は校舎の外に出ると芝生の上をさくさくと音を立てて歩く。


「……やっぱり助さんじゃないか」


仲良く並んで座っているのは、リュカとスポ専の助三郎さんで、そのふたりの背中は一枚の絵の様に見えた。

その絵の中に入りたくて、史隆はリュカの横に並んで立つ。


「はは……そうみたい……気が付いたら変身してた」

「……それで泣いてんの?」

「泣いてない」

「泣いてんじゃん」

「……もう泣かない」

「……ふぅん……たくさん話せた?」

「まぁね……あ、いや、どうかな……親子ってどれくらい話すもんだろうね」

「……知らね。俺、お父ちゃんとしばらく会ってねーもの」

「……俺も……最後になんの話したっけ……ていうか、どれが最後だ?」

「んあー?……待て、俺も思い出せないぞ……」


ひどい息子だと言い合い笑い合うふたりを静かに、かつ理知的に見つめていた黒い瞳は、何かに呼ばれたようにふいと森の中を見た。


助さんは食事か散歩か、また眠る時間がやって来たのか、四つの足で立ち上がり足音も立てずに歩き出す。


「助さん、また明日ね」


史隆が声を掛けると、ふらりと一度だけしっぽか揺れた。


「また明日か……」

「なんだよ」

「そういう約束をすれば良かったかな……」

「また来んだろ、そのうち」

「……ああ、そうだね……来ると思うよ」

「また来るんならいいんじゃね?約束しなくても」



動作はゆっくりとして見えるのに、助さんはどんどん遠く小さくなっていく。


「……そうかな」




見送っていた後ろ姿は、そうだという返事の代わりに、もう一度ふらりとしっぽを揺らした。

















結果よつばは自分の過去に起きた話はしませんでした。というか、できませんでした。



が、リュカはよつばが何も言わなかった事で察します。

そして他のみんなも何も言わないリュカから察してしまうのです。



『これは14日間のおはなし』内ではよつばの名字についてあえて深く追求はせず、みんなあっさりとした態度だった理由がこういう積み重ねがあったからでした。





あと伏線回収する回なのに、新しく伏線作るとかどうかしてます。

リュカの好み……その話もまたいずれ。




ちなみにこの後すぐに史&和ブラザーズには妹が誕生し、そして助さんは帰らぬ旅に出掛けます。




このように今頃になってやっと時系列表を作ったシゲルさんは、頓着無しに広げた風呂敷にできていたシワを少しずつ伸ばしていくのでした。





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