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私立一之宮学園〈特科〉  作者: ヲトオ シゲル
閑話ちゃん。
68/83

効率優先タワシ様。





#16廃棄より前のお話。

瑛人が学園に潜入する前のある日の出来事。





では、短いですが、どうぞ。















「あああぁぁぁ……いいねぇ。癒される」


毛並みに沿って撫でた手は、今度は毛並みに逆らって下から上に。

それはもう10分以上続いていた。

最初は撫でられる事を嫌がっていた様子だったが、それも疲れたからか抗ったところで変わらないからか、大人しくされるがままになっていた。




初夏。

5月の大型連休は、学園からほとんどの生徒が居なくなる。

年末の帰省からしばらく時間が経ち、学年もひとつ上がり落ち着いたこの時期が久しぶりに自宅に帰るチャンスだったりもする。

夏や冬の長期休暇は、普通科には講習や模擬試験、スポーツ科には試合、芸術科にはコンテストやその準備で何かとイベントには事欠かない。

逆に学園がこの連休ほど閑散とすることはない。


それでもいつでもどこでもフルオープンにしていてはランニングコストがかかり過ぎるので、休暇中の学園は開いている施設と時間が限定されるのが決まりになっていた。


ひとつの寮で居残り組が3割以下になると他所の寮に寄せ集められるし、食堂及び売店は普通科校舎以外閉店してしまう。





とはいえ学園から生徒がひとりもいなくなることもない。


帰る家がなかったり、帰る必要を感じなかったり、他に大事な用があったり事情は様々。

そのどれにも当てはまる特科の皆さまは、休暇だろうがなんだろうが、普段と変わりなく過ごしていた。


「史隆、もうそろそろ代わってはくれないか」

「……コッティもなでなでしたいのかい?」

「そうじゃない、琴野と代わってやって欲しいのだが」


琴野は膝にコッティを乗せて、史隆が気持ち良さそうに撫でている手を、もじもじしながら見ている。


「……うーん。しょうがないな、じゃあ琴野さんの気が済んだら、また俺と交代ね」


本を読んでいた目線を上げて、都が不満もあらわに声を出す。


「……おい、何か間違ってないか?」

「え?なにが?」

「……もういい」


都が再び小さな字がいっぱい並んだ重そうな本に目線を落としたところで、長椅子に並んで座っていた琴野はいそいそと史隆と場所を交代する。

にこにこしながら柔らかな毛並みを撫で始めた。





効率重視で予定を立てたのは都だった。

今まさに夢中になって読んでいる本や、その他重たいものを大量購入しても、事務所預かりになって特科の校舎までは配達してもらえない。

運ぶなら人手はどうしても必要なので、事務のある本校舎まで荷物を取りに行き、そのついでに近くの普通科の食堂で食事をし、その近辺で諸々用事を済まそうと、あれやこれやと盛り込んだ。



最後の用事ももうすぐ終わる。

あとは特科に帰ってゆっくりするだけだから、いつにも増してのんびりとした雰囲気だった。



夜のために扉を開けたリュカは何してんのと小さく吹き出す。

リュカのエスコートで店を出てきた夜は、目の前に座っている都に歩み寄るとその前にしゃがみ込んだ。

琴野と同じように都の頭に手を伸ばす。


「あれ?変わってないじゃん」


入る前と寸分違わぬリュカに、史隆は首をかしげる。


「ああ、うん。俺は見てただけ……」


連休中も下界の町と同じように、学園内の美容院は営業していた。

そこで髪を切るのが最後の用事の場所だった。

腰の下まであった夜の髪の毛は、背中の真ん中辺りの長さになっている。


女子ふたりに頭を撫でられているのを見て、史隆は眉間にしわを寄せる。


「……俺も坊主にすれば良かった」

「撫でさせないけどな」

「私も許さないぞ、史隆」


ツッコまれるとわかってボケた史隆は満足げな顔でリュカとコッティを見返している。


「……しかし。都が丸坊主になると、夏ももうすぐ……といった感じだな」


バリトンボイスの持ち主は、自分自身では季節を感じることが出来ない所為か、皆の見た目や体調の変化、カレンダーや温度計の数字で季節を感じている。

特科の面々の中で季節の移り変わりにいちばん敏感なフランス人形、コッティがしみじみと付け加えた。


「都もさぁ、もうちょいオサレにすればいいのに……」


お洒落さんになった史隆は琴野の横から、手触りの良い都の後頭部に手を伸ばしてなでなでし始めた。


「必要ない。暑くなってきたから切っただけだ」


重要ではない事は後回し、効率優先の都は、年に一度しか髪の毛を切らない。

しかもその時は決まって一気に住職手前の丸坊主だった。


「あと、楽だからな」

「楽なの?」


子どもの様に弾んだ声で夜が問いかける。


「洗うのも簡単だし、すぐ乾く」


夜はこの上なく短く魅力的なプレゼンに目を輝かせて立ち上がる。

重要ではない事は後回し、効率優先はここにもうひとりいた。


ちなみにこの効率優先姉弟だけが休日なのに制服を着ている。



今出た美容院を振り返った時にはリュカが目の前に立ち塞がっていた。


「俺は夜の長くてきれいな髪が大好きだよ」

「……ダメか」

「ダメだね……」


しばしリュカと睨み合いになるも、あっけなく負けた夜は、ぷくっと頬を膨らませる。


「……俺がバリカン買ってあげるから、もうちょっと色々しようって」

「史隆は頭が触りたいだけだろ」

「だってコレ気持ちいいもん」

「バリカンてなに?」

「んー?……髪の毛をがーっと、都の頭みたいにでき……」

「いや、ダメだからね、夜」

「……ダメか」

「ダメだよ」





この日を境に効率優先姉弟の姉の方は、今よりも髪の毛が短くなることはなく、弟の方は何かと史隆にいじくり倒されることが増えたのでした。

















坊主の後ろ頭は気持ちいい、と言いたかっただけのお話。








※最初は和隆が居ましたが、ちょっと話を整理してたら居るはず無いと気が付きましたので、退場いただきました。

変更前に読んで頂いた方には申し訳ありませんでした。コッティと差し代わっております。

バカなシゲルさんを許しておくれ、カズちゃんや。






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