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ミッション、ポッシブル中。






さらさらと名簿に記入して、使ったペンを守衛室の中にいる男に返した。男は流暢な日本語でお礼を言う外国人の青年に不審そうな目を向ける。

バスも通らないようなこの場所に徒歩で現れ、面会の予定はないが所員に会いに来たという。


警備服を着た老年に差し掛かった男は、目の前にいるふたりの青年とそのうちのひとりが持っていた入館証とを見比べている。


カードは一般職員のものではなく、自分すら入る事が出来ない建物の最奥まで入れる種類のものだった。

こんなに若い、自分から言えば子どもの部類に入る人物はどうしたって印象に残りやすいはずなのに見覚えはない。

しかし入館証は間違いなく本物で、そこに載っている写真本人に間違いなさそうだった。

偽造も疑ってみたが、こんな子どもにそんな技術は無いだろうし、わざわざそうしてどうなるんだと考えていた。


「ねぇ、入って良いんでしょ?」


金髪の青年が受付のカウンターを指の先で数回叩いた。男か視線を上げると、カードの持ち主が手を差し出す。


「何か問題でもありますか?」


いえ、とカードを返し金髪の青年には来客者用の入館証を渡した。人が通る為の小さいゲートを開く。笑顔でどうもと受け取ると、手の中でカードをくるくると回しながらもうひとりにどっち?と話しかけた。

無言で歩き出す青年の後ろ姿を見送ってゲートを閉じるボタンを押す。

会いに来た所員の息子なのかも、と安易な思い付きに納得する事にした。

男は朝からもやもやと腑に落ちない気分と冷めたコーヒーとを喉の奥に流し込む。





高いフェンスでぐるりと囲まれた施設は、一見何かの工場のようにも見える。



大きな工業用製品の工場ではなく、精密部品か薬品を製造していそうな、積み木をいくつか組み合わせたような簡素な外観。似たような建物が数棟並ぶ中で、正面の門から近い一番大きな建物に向かう。


ガラス張りのエントランスホールにある小さな機械にカードを通す。ポーンと低めの電子音と同時に奥に居た受付の女性が立ち上がり朝の挨拶をした。

カウンターの前に立つと、お約束でしょうかと事務的な対応を始める。


「いえ、キヨハルさん来てます?」

「お待ちください……。はい、清春でしたら出社しております」


カウンターの内側にあるモニターを確認して、ご案内いたしましょうかと顔を上げ、ふたりの来客者を見ると少し驚いた表情を浮かべた。


「あ、大丈夫です。勝手に行くんで」


リュカが優しげに微笑んで女性を見返せば、頬を赤らめて俯き、消えそうな声ではいと言う。

恥ずかしそうにチラチラとリュカを見送った。



受付の後ろにあるガラスの扉を押し開けると、真四角に区切られたガラス張りの温室になっていた。小さなジャングルの真ん中を通る道を進んで行く。


「へぇ。すごいね、ここ」


素直に感心の声を上げて、リュカは瑛人を振り返った。


「……あんたの方がすごいよ」

「え?何が?」

「……正面から普通に入ってるし……別にあんただったらどこからでも入れるだろ?」

「適当なとこから入ってこそこそする方が面倒だよ。しかもこんな朝っぱらから」

「……まぁ、そうだけどさ」



奥に進む通路で数回、白衣を着た研究員らしい人物とすれ違う。

資料に目を落としているか、同僚との会話に夢中なのかすれ違っている事すら気付いていない様子だ。

他人に無関心な感じはどこでも一緒だとリュカの口の端が持ち上がる。



建物内は複雑な構造ではないらしく、真っ直ぐ進んだ通路の突き当たり、左側にある扉の手前で瑛人は立ち止まった。


「ここ?」

「……多分、そうだと思うけど」

「そう……じゃあ開けてよ」

「ここは開けられるけど、この奥は入れないと思う……」

「……どうにかするよ……えーと。一緒に行く?」

「は?ていうか、俺、行かなくていいのかよ⁈」

「うーん……用事があるのはおれだからねぇ?」

「何だよ、ここまで連れて来といて……」


不服そうに眉をしかめる瑛人に、リュカは短くははと笑い返す。


「……お前、もうここに帰れなくなるよ?」

「……だから。今さら何言ってんだ話だ‼︎」


ドアの横のカードリーダーにカードを通すと、短い電子音の後に鍵の外れる音がする。


内部は細かく仕切られた小部屋がいくつもあり、そのどの部屋もガラス張りで中では白衣や防護服がそれぞれ作業をしていた。



部屋の向こうの、そのまた奥までも見通せる。

この光景に合わせ鏡を覗き込んだ時のように気分が悪くなって、リュカが唸りながらしゃがみ込む。


「え⁈なんだよ‼︎」

「……うーん……新旧の各種トラウマがほじくり返されて……」


顔を両手で覆うと静かにゆっくりとため息を吐いた。よし、いやいや、大丈夫大丈夫と自分と会話をし、ゆっくりと立ち上がった。


悪かったと瑛人の方を見ると、瑛人もガラス張りの向こうを睨んでいた。

リュカが自分を見ていると気が付いた瑛人は、俺もこの感じ嫌いだと吐き捨てて目的の部屋に向けて歩き出す。


中にいる数人に見送られながらガラス張りの研究室を回り込む通路を進み、白っぽい壁と同じ色に塗られた金属製のドアの前にたどり着いた。


年配の白衣の男が部屋を離れてこちらに向かっているのを確認する。


瑛人がカードを通してドアノブをひねると、あ、と小さく声を上げる。


「ダメだ、これ……やっぱり俺のカードじゃ入れない」

「いや、入れるでしょ」


リュカはにこにことしながら答え、何をしていると近付いてくる年配の男に手を上げてみせた。

瑛人をドアの前から下げると、ゆっくりと右足を持ち上げドアノブの辺りに足の裏を当てる。

足だけの力でそこを押すと、鈍く金属の擦れる音とほぼ同時に鉄製の扉が動いた。

上側の蝶番も勢いで飛んでいき、扉は中途半端に開いたところで床に擦れて止まる。


一拍遅れて、どうしたって緊急事態だとしか聞きようがない警報音が鳴り響く。


それ以上近付く気はないのか、離れた場所から社員が何かしら喚いている。


横目に見ながら瑛人は自分の顔を片手で押さえてため息を吐いた。

笑顔のリュカは部屋の中から瑛人においでおいでをしている。



「ね?入れたでしょ?」










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