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優先順位。




言いたい事を言ってもう用の無くなった小さな銀色のモノをリュカに向かって放り投げると、夜は無言で壊すように心に直接話しかけた。

受け取ったリュカが手を握るとアルミのカバーは折れ曲がり、中から小さく割れた欠片がこぼれ落ちる。荒谷に向けて音声を送っていたモノはアルミとプラスティックとその他の小さな欠片とに分かれた。


カーディガンのポケットから腕輪を取り出して、夜は自分の手首にひとつずつ嵌めていく。

瑛人から下りると放り投げた腕輪も回収しにいく。

床にへたり込んで全部手首に戻すと大きく息を吐き出した。


「……つかれた……」


へにゃりと力なく笑う。




リュカは手の中のモノを瑛人に返し、床に座り込む夜の前に両膝をつく。夜の手を取って顔を覗き込んだ。


「なんであんな事……」

「時々でいいから脅せって俺が言ったの」


ひとり椅子に座ったままだった都が背もたれに体重を預ける。両腕を上に伸ばすとその手は頭の後ろに回した。

リュカから今までに向けられた事のない厳しい視線を浴びる。


「エイトはここの話をアラタニに聞かせようとした……まぁいいかと思ったけど、まだリュカをどうにかしようって考えたから……」


同じままの視線で今度は夜を見据えて、額で粒になって浮かんでいる汗を両方の手のひらで拭ってやる。


「……夜はそんな事する必要はないんだよ」

「でもリュカにエイトは殺せない」

「それでも……」

「……リュカはエイトのこと、かわいそうだと思ってる」


どんな言い訳を用意しようとしても夜には通用しない。嘘をついても仕様がないし、つきたくもない。

大きく息を吐くと同時に力を抜いた。


「思ってる。……でも、だよ。自分でなんて言ったか分かってる?」

「なに?」

「体をあげようかって言ったよ」

「……そう言ったらアラタニが来る」

「そうかもしれないけど……夜……お願いだからもう絶対に言わないで」


夜からの返事はない。手をぎゅっと握り、顔を覗き込んでも目を合わそうとしない。全身で納得出来ないと表しているのが、人の心を読み取る能力の無いリュカにも分かった。




静まり返った教室内で遠慮がちに史隆が手を上げる。


「あのー……お取り込み中のところ悪いんだけど……」


立ったままだった史隆は、全体的に教室内を見渡せる位置に居た。


「なんか、えいちゃん……うんうん言ってるんだけど……」


脂汗を流していたのは夜だけではなかった。

夜にただひとり直接触れ、さらに今までと比べ物にならない程、夜の能力の影響下に置かれていた。

瑛人は床の上で横向きに体を丸めて、短い呼吸を繰り返す。顔を歪め小さく唸っていた。


円卓を回り込んで歩み寄った史隆は、瑛人の背に手を当ててゆっくりと息をするように話しかけた。

なかなか状態が変わらない様子を見て、リュカが立ち上がり瑛人を抱え上げる。


「わぁ。お姫様抱っこだね」


何故か羨ましそうな声を上げる史隆をいっそ清々しい程に無視して、夜においでと声をかける。

不服そうな顔をした夜を連れて、2階居住スペースの瑛人の部屋に足を向けた。




2階に行った3人を見送って、都が小さく溜息をこぼす。


「……あの調子じゃダメかな」


何がと聞く史隆に、その時は頼むよとだけ返事をする。

ひとつもいい予感がしない史隆はうっすらと泣き顔になった。


「……お祭りを楽しみたいんですけど」


遠慮せずにどうぞと返されて、乾いた笑いが短く漏れ出る。





手付かずの瑛人の部屋で簡単に寝床を整えてから寝かせると、リュカは後ろを付いて来ていた夜と向かい合った。


「瑛人が苦しそうだよ」

「……やだ」

「……夜?」

「……ムリ。今は……だって……」


自分の感情を上手く言葉に出来ないのか、眉間にしわを寄せて足元の床を見つめたまま、それ以上口が動く気配がない。

リュカは瑛人の様子を確認すると夜の手を取って部屋を後にした。




自分の部屋に連れて入り、ベッドに腰掛けて夜を膝の上に横向きに座らせる。腰に手を回して顔を見ても目線は合わない。


「何に怒ってるの?」

「ぜんぶ」

「ひとつずつ教えて?」


ぽつりぽつりと零れる言葉に乗って伝わってくるのは、怒りではなく大切なものを失いたくないという夜の想いだった。



瑛人を人で無くしてしまったのは変わらない事実で、そこに同情もしたし、シンパシーも抱いた。

瑛人をどうにかなんて出来る気もしないが、だからといって自分のために夜が能力を使う事や、ましてそれで手を汚すなんて決してあってはならない。そんな事は考えるまでもない。




夜が大切にしてくれるように。

同じように夜の事を思っているんだと丁寧に伝えて、どうにかもう一度瑛人の前に連れて行ったのはとうに日付を越えた後だった。


腕輪を外し、今度は瑛人の精神を守るために能力を使う。

嵐が通過した後のように荒れてぐちゃぐちゃだった部屋を、少しずつ元に戻していく。

瑛人が安眠を手に入れた代わりに、能力を使い過ぎた夜の顔色は悪くなっていく。






次の日の朝、瑛人が目を覚まして教室に降りると、卓にあるなんやかんやの上に大きな紙が乗っていた。都と史隆、琴野とコッティは祭に出かけるという内容の置き手紙だった。



階段下スペースのソファ『まったりする所』には、リュカと夜が制服のまま眠っていた。





十六夜祭2日目の朝はうっすらとした頭痛で始まる。










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