売店前集合。
あの時間だ、と立ち上がった史隆。
待ってましたという表情で続いて琴野も立ち上がる。
「え?琴野さんも来るの⁈」
にこにこ笑って頷き返しながら、コッティを抱えなおした。
ついさっきまで恋バナをしていたのだ、遠くからでもいいからそのお相手を見てみたい、人の恋でもいい、少しでもいいから触れてみたい、ていうか、気になって仕様がない!と思うのは女の子なら当然の反応だ。
「決して邪魔にならないようにすると約束しよう」
コッティの良い声に反応して、どうしようかな、とくねくねと体をよじらせている史隆を横目に見ながら、リュカは雑誌を閉じると、同じような雑誌の積まれた小さな山の上にポンと投げて置いた。
無言ですたすたと出入り口の扉に向かっていく。
「え?ちょっと……」
史隆も揃って出ていくのを見て、ひとり特科の教室に取り残されそうになった瑛人は、かといってこの場に残る訳にもいかず、片付け中の銀色のクッキーの袋を片手に史隆の後に付いて行く。
特科の森を抜けスポーツ科の方に近付くにつれ、人々のざわめきがはっきり聞こえてくる。
放課後になったばかりの時間かと、瑛人は自分の腕時計を確認する。
部活を始めようとする生徒の軽口に笑って答える史隆、自主的に練習を始める生徒にいつも可愛いねと言われてパタパタと手を振る琴野、ただ外で体を動かしたい生徒達の、夜はなぜいないのかという質問に睨み返すリュカ。
校舎が他の科に比べて近くにあるせいか、勉学に励んでいるのではなく、自らの高機能ぶりを頼りにこの学園にいるという共通点があるからか、スポーツ専攻科とは以前からお互いに気兼ねがない。
ランニングしているジャージの川を、そこに浮かぶ小舟のようにゆったりと特科の面々は歩いていく。
昼間の暑さの名残が漂う校舎をいくつも通り過ぎ、本校舎に近い売店まで行くと、そこには夜と都がいた。
売店へ続く道の両脇にいくつかベンチが並んでいるが、いつも座る場所は決まって大きなスギ科の木の下のベンチだった。
背もたれのない木製のベンチに跨る格好で向かい合って座り、ふたりの間にはお菓子の袋がすでに封が開いた状態で置いてあった。
売店を背にした都が先に気が付いて、手を上げる。
想い人の姿が見えない史隆のテンションはガタ落ち、反比例して夜の姿を見たリュカの笑顔は輝きを増す。
自分の指定席である夜のすぐそば、少しでも体勢を変えるとどこかしらが触れ合うような距離に座った。
史隆の目がお地蔵様より細くなる。
「え〜?ほのかさん居ないの〜?」
「さっきまでいたんだけど、準備が大変だからもう行くって」
史隆の方に少しひねった夜の背中がリュカの腕に触れ、満足そうに微笑んだリュカの目もお地蔵様のように細くなるが、やっぱりふたりの顔は対極の位置にあった。
件のほのかさんは、次の週に控えた学園祭の準備で、文化・芸術専攻科は授業を半日に削ってまで準備に大忙しらしい。
外部から多数の人を招いて行われる学園の年に一度の大イベントで、史隆の想い人はミツバチのごとくあちこちを飛び回るようにしている。
その話は少し前に本人から聞いていたので、声だけは残念そうに漏れているものの、さっさと気持ちを切り替えて、史隆は都の後ろに同じようにベンチを跨いで座り、背後からお菓子に手を伸ばした。
「んあー……十六夜祭ね……はいはい。あ、そだ。ーーーチケットは?」
「もらったよ、みんなのぶんも」
夜と都の間、ベンチの上の白い封筒をばんばんと夜は叩いた。
封筒に乗った夜の手をぺいっと除けると、史隆はその封筒を大事そうに制服のポケットにしまう。
背中に乗っかられた都がどけろ、と苦し気に声を漏らした。
文化・芸術専攻科の各クラスで行われる企画に参加する為のチケットを律儀に用意してくれていた。
その科の名に相応しく、演劇、吹奏楽などの舞台公演から、絵画や造形作品を鑑賞できる展示会もある。
もちろん一之宮の系列大学に進学という道があるものの、三日間に渡って行われるこの学園祭に招待される他大学の関係者や著名人の目に留まれば、その先の道がはっきり見えてくる。
力の入り様も半端ではない。
今までイベント事に積極的に参加しなかった特科だが、今回はほのかさんが所属する絵画クラスの作品展示会、という名のカフェにお邪魔する約束になっていた。
「残念だが琴野、今日はどうやら会えない様だな」
小さく頷いた琴野はコッティにしか分からない声で会話をしている。
「……そうだな。うさぎちゃんクッキー紅茶味……というわけで、売店に行ってくる」
ひとりと一体も史隆同様に目的をすっぱりと切り替えた。
足はもうすでに売店の方に向いている。
本日のアイスクリームがまだだった史隆も、俺も俺も、と琴野と並んで売店に向かった。
「うさぎちゃんクッキーってなに?」
都の顔に説明求むと書いてあっても、進んで説明をしてくれる人は売店の中に入ろうとしている。
「……それナニ?」
瑛人は都の視線の先にある、自分の右手に握ったままの銀色の袋に目を落とす。




