あじのあるおしょくじ。
食堂は早目に夕食を取りに来ていた生徒で、半分ほどの席が埋まっていた。
普通科の校舎、1階のど真ん中のフロア。
ロの字の真ん中の部分が食堂で、食事をする為の机と椅子が置いてある場所と、並列しているカフェやコンビニ風の売店で買ったものを食べたりできる場所。
ゆったり座れるベンチソファーで話し込んだり、本を読んだり、自由にできる休憩スペースも同じく、仕切りのない広い空間にある。
どの科の生徒でも出入りしやすく、広くてきれいで開放的な場所なので、開いている以上は、たとえ授業のある時間帯でも、いつ行っても人がいない時はない。
ただ、いつもならこんな早い時間に食事を取りに来る事はないので、一瞬静まりかけた食堂は、特科を中心にザワつきが波紋のように広がっていく。
嬉しそうにはしゃぐ女子生徒の静かな悲鳴も少なくはないが、賑やかに楽しく食事をしているのとも違う。
話し声は聞こえても、内容までは聞こえない。
聞こえないようにトーンを落としてこそこそと話をしているのが、それを目の当たりにした瑛人には良い雰囲気とは言えない。
周囲から注目されながら、瑛人は護送される犯人の様に、リュカと史隆の間に挟まれて行動する。
ひとりも座っていないテーブルを選ぶと、自然を装って離れていこうとする瑛人をやんわりと連れ戻す、他人の目からはわかりにくい攻防を繰り広げながら、全員で同じテーブルに付いた。
特科の面々は特に周りの反応を気に留めもしない、いつもと変わらない様子だ。
いつでも自由にしている様に見える、実際そうしている特科ご一行様に不本意ながら囲まれて、瑛人は食事を始める。
周りの生徒にちらちらと盗み見され、こそこそと何かを言われ、どうしようもないほど目立っていた。
あちこちに見知った顔がある。
後で何事かと質問攻めにあい、しばらくはそれが続くと思うと、今まで周囲に馴染んで静かに過ごしてきた苦労が台無しになったのだと気分が沈んでくる。
「えいちゃん、その唐揚げ2個と俺のアジフライと交換してよ」
「あ、そこの七味取って」
「これ半分食べる?」
ひとつのテーブルを囲んであちこちで交わされる会話と、自分にかけられる言葉を聞きながら、自分の立場について考えを巡らせていた。
何をしているんだ。
どうして仲良さそうに飯を食ってるんだ。
ここで、こいつらと、こんな事をする為に学園に来たのではないのに。
それを、こいつらも知っているはずなのに、どうして唐揚げとアジフライを交換しているんだ。
何をしようとしているのか知っているはずなのに、このまま寮に帰れと言っている。
その上、楽しげに笑いかけてもくる。
少し離れた席に並んで座っているリュカと夜を睨み付け、イラ立ちをそのままに、ゆっくりと低い声に変換してぶつける。
「ーーー……俺が二桁だから、楽勝だと思ってるのか?」
「ふたけた?なにそれ」
反比例した軽い調子で、向かい側にいる史隆が首をかしげる。
「ーーー……もういい。……帰っていいんだろ…」
「うん?ごちそうさまするの?デザートは?」
お母さんの様な質問に、思春期の子どもの返事をする。
「いらない。……ーーーあと、制服…」
「いいよ、いいよ。気にしないで。じゃあ、またね、えいちゃん」
自分の食事トレイを返却口に持っていく。
同じように何人かの視線が移動している。
特科にもそれ以外にも見送られて、瑛人は食堂を後にした。
1番寮に近い側の出入り口から瑛人が出ていくのを見送る中、ふいに夜が立ち上がった。
「ーーー夜?」
立ち上がると同時に、リュカは夜の手を握る。
「うん。……ちょっとエイトに言うことがあるので、いってきます」
手を握り返すと、にっこり笑い、だいじょうぶだいじょうぶと唱えながら、夜は瑛人の後を追いかけた。
足早に校舎を後にして、寮に戻ろうとする瑛人は、自分を呼び止める声に立ち止まって振り返る。
大きなガラスの扉を体で押して開き、夜が走って出てくるのが見えた。
「エイト、ちょっとまって」
にこにこと笑顔の夜の手首に、いくつもの金属が嵌っているのを見て、少しだけ警戒を緩める。
瑛人の前まで走り寄ると、いっそうにっこりと笑ってつぶやくように言葉を落とした。
「エイト。いい子にしてないと、私がお前を殺すから」
覚えておいて。そう言うと夜は来た道を引き返して校舎に入っていった。
人の心を読み取る能力で、どんな殺され方をするのか。
具体的には思い付かなくても、きっとあっさりと楽には死なせてもらえない予感はする。
これは脅しでも警告でもない、準備は出来ているから、いつでも実行に移すという話だ。
それはそうだろう。
これでいい。
こういう反応をするのが当然なんだ。
他の奴らがどうかしている。
明らかに怪しいやつを捕まえただけで、能天気に開放して、みんなに変な目で見られない様に服を与えて、メシまで食わせた。
「……なんなんだ。おめでたいのか、ユルいのか……ーーー自信があるのか」
日が暮れ始めて、ひんやりとしてきた風に体をひとつ震わせて、瑛人は寮の自室に戻る道を歩き出した。
サブタイトルが思い付かなくて、寒い感じにしてやりました。
ハズカチー。




