ふたりの妹リバース。C/W
俺には妹がいる。
正確には、俺たち、だけど。
俺たちが13になったばかりの時、妹が生まれた。
少しの時間だけ家に帰った俺たちは、その時に初めてベビーベッドで寝ているいっちゃんと会った。
小さいリボンがたくさんついた、上下つながった白い服を着ている、どこもかしこもやわらかそうないっちゃん。
母さんは申し訳ないような、困ったような笑顔で、この子は泣いても何も壊れないのよと言う。
俺たちはベッドの周りが爆撃を受けなくて良かったと笑った。
小っちゃないっちゃんを家を出る直前まで見ていたけど、母さんにどれだけ、なんて言われても、妹に指一本触れなかった。
坂の上まではバイクに乗ってたけど、さすがにこの先は近所迷惑になりそうだから、エンジンを止めて、バイクを押して歩く事にした。
久しぶりの家までの道をひとりで歩く。
そういえばこの道をひとりで歩くなんて初めてで、なんとなく心細い気がする。
肉体的にも精神的にも、重いものを引きずったり押したりしているせいか、足取りがゆっくりすぎる。
ずいぶん遅い時間になったと感じたけど、距離と時間の感覚がアレだっただけだし。
ただの、俺の計算ミスだよ。
こんなに早く日が暮れるとは思ってなかったしね!でも、途中の道では結構スピードを出したんだ、これでも。
うん。
決して来にくいとか、ぐずぐずだらだらしていたからとかではない。
計算ミスだし!
コラ、俺のうっかりさんめ‼︎
玄関先に灯りが点いているのを見て、覚悟を決める。
あ、バイクどうしよう……良いか、免許あるし。偽物だけど。
ガレージの端にでも置いといたら見えないか……いや、デカいだろ、見えるだろコレ。
ピンポンを押して出てきたのは父さんで、なんでかすんごい笑っている。
「いや、ここ笑うトコじゃなくない⁈」
「すまん、すまん。…でも、2日連続だと面白くてな…」
2日連続?
…おい、ウソだろ。……はぁ⁈あいつマジか、ふざけんな‼︎‼︎
父さんの足にタックルしてきた小さな物体に、心を全部持っていかれる。
ひとりぷんすかしていた俺の怒りは、あっという間にどこかに飛んでった。
「にーたん!」
うん。
そうだけど。
多分いっちゃんが昨日見たにーたんと、このにーたんは違いますよー。
……まぁ、いいか。
しかしなんだ、尋常じゃないな!
そのまんまるいぱっちりおめめはなんだ!ふくふくのほっぺといい、ぴよぴよはねてるそのふたつくくりの髪の毛といい‼︎
都も大概だけど、最近ちょっと硬くなってきたからな……いっちゃんはやわらかそう……。
まったくもってけしからん。
けしからん可愛さだな‼︎‼︎
「史隆もメシは食ってないだろ?」
も?
「……ハイ、ソウデスネ」
「一花?今日のごはんは何ですか?」
よいしょ、よいしょと父さんの手を引っ張って行くいっちゃんは、得意そうに手を振り上げて答える。
「たまぼ!」
…かまぼこ?
「……ていうか、これナニすごいね!サザエさんちみたいじゃん‼︎」
フローリングの上に畳が敷いてあって、その上には丸いちゃぶ台?低いテーブルが乗っている。
父さんはいっちゃんが転んでも痛くないようにとか何とか言ってるけど、俺はそんな事を聞く前に、畳の上にごろごろ転がっていた。
台所から母さんが、もうすぐご飯だから手を洗ってきなさいと、俺といっちゃんに言った。いっちゃんにはさらに、お兄ちゃんに洗ってもらってと付け加える。
おおう。
母さん……チャレンジャーだな。
思わず手首の腕輪を確認……んー。
まぁ、大丈夫……かな?
俺が迷っている間に、いっちゃんはさっさと洗面所の方へ。
にーたんと呼ぶ声がする。
「はいはーい………ぐふぁ⁈」
かわいい顔がこっちを見ている。
踏み台に上がってるけど、蛇口までは手が届かないから、ちょーんて感じで待っていた。
踏み台の上でもまだもうちょい手が届かないので、試行錯誤の結果、俺の片足を踏み台に乗せて、その膝の上にいっちゃんを座らせて、俺の両腕で落ちないように支えるという合体技を繰り出した。
3分の1もない小さな手を包んで、水に流して洗ってやる。
…やっぱりやわらかい。
…んで、ちっさい。……ぬくいし。
……決めた。
かわいがりたおしてやろう、そうしよう。とりあえずいっちゃんは溺愛確定で。
テーブルにはもうすでに晩ご飯がならび始めていた。
「おお!たまぼって、たまごのことかぁ……オムレツな!」
「おむえつな!」
いっちゃんはとことこ走って、自分専用の椅子にとん、と座った。
いちいちかわいいな。
母さんがオムレツの中身の具は、昨日の肉じゃがなのよとにこにこしながら言った。
ほほう、昨日は肉じゃがで……なるほどなるほど。
俺にはそれにたまぼ!がプラス。
ふふん……やっとカズちゃんにひとつ勝った気がするぞ。
ご飯を食べながら、最近の出来事を話す。
もちろん全部じゃなくて、話せる分だけ。
それは誰でも一緒だと自分に言い訳しながら。
能力なんてない普通の男子高校生だって、言えないことのひとつやふたつ絶対あるはずだろ。
ついでに和隆の話もしといた。
ついで、っていうか、まぁ、この話をしに来たんだけど。
あいつが先に来て話をしたんなら、ヘタな事は言えない。
俺から和隆には連絡が取れない事は言わなかった。
理事長の関係で、一足先に社会人になった事は言った。
どんな仕事か、なんとなく想像はつくけど、それは正確には分からないから何も言わなかった。
母さんと父さんは、心配だけど、和隆が決めた事ならと、一応は納得したらしい。
映画や小説の影響で、変な想像が止まらないけど、とふたりして悲しそうに笑った。
俺はすごくウケたフリをする。
「そんなのないって‼︎大丈夫、大丈夫〜‼︎何見たの⁈ヤッター!ってやつ⁈」
俺の足の上でいつの間にか寝ていたいっちゃんが、ごそごそ動いて寝相をかえた。
声が大きかったのかな、にいちゃん動いちゃったから?
ほっぺをふにふにさわって聞いてみたけど、もちろん返事はない。
さらに悲しそうな顔でふたりは笑って、この話は終了。
いつでも帰ってきてねと母さんは言う。
時々は帰ると、父さんと約束する。
もちろん。
俺が先にいっちゃんに名前を呼んでもらわないといけないからね。
見送りは玄関までにしてもらった。
外にバイクあるし。
なんか、イヤだっていう理由で。
和隆もそうだったらしい。
どうしてかって聞かれても、なんていうか、普通にしてほしいって思っちゃうんだよね。
わがままかなぁ。まぁ、めんどくさい事言ってるなって自覚はある。
でもねぇ?
男だし、俺。それにもう、16だよ?
可愛い女の子なら、それこそいっちゃんが高校生とかで、心配だから送りたいとかなら気持ちは分かるけど。
「……学校に行く男子高校生を毎日わざわざ遠くまで見送ったりしないでしょ?」
「……そうだな」
「……フツーにしてほしいんだ。テキトーにさ。行ってら〜とかで良いんだよ、俺は」
「……お兄ちゃん……いってらー……」
母さんに抱っこされたいっちゃんが、寝たまま腕を振らされている。
そうそう。こんなフツーの感じが良い。
両親は普通の人です。
俺たちの妹も普通の人です。
優しくて、かわいい人たちです。
俺の、
正確には俺たち、の家族です。
「うん!じゃあね!行ってきまーぅす‼︎」
すみません、50話とかいう節目?の話があんまり盛り上がってないところだな〜って事でひとりで勝手に盛り上がってみた次第です。
いきなりなんだよ、話の流れ止めるなよ!と思われた方はすみませんでした……。
次回は本線に戻ります。
祝☆50話記念‼︎
勝手に感謝祭でした‼︎‼︎
お付き合いいただきまして、誠にありがとうございました‼︎‼︎




