ふたりの妹リバース。
本筋から急にそれましたが、章タイ通りです。勝手に感謝祭始まります!
和隆がいなくなった。
直後のお話。
俺には妹がいる。
正確には、俺たち、だけど。
俺たちが13になったばかりの時、妹が生まれた。
少しだけ家に帰る事を決めた俺たちは、その時初めてベビーベッドで寝ている一花と会った。
小さくてカラフルなリボンがたくさん付いた、上下つながった服を着ている、まあるい顔とふわふわの髪の毛の赤ちゃん。
母さんは申し訳ないような、困ったような笑顔で、この子は泣いても何も壊れないのよと言う。
俺たちはベッドの周りが爆撃を受けなくて良かったと笑った。
小ちゃな一花を帰る直前までずっと見ていたけど、母さんにどれだけ、なんて言われても、妹に指一本触れなかった。
顔に当たる風の温度が急に低くなったような気がする。
久しぶりの家までの道を、自分の影を踏みながら帰った。
坂道の途中で振り返って見る夕日に、暮れるのが早くないかと文句を言ってみる。
気分が乗らずにいつまでもぐずぐずしていた自分は取りあえず棚に上げて。
家の玄関先に灯りが点いているのを見てはじめて、そういえば居るのか居ないのか確認しないでここまで来た事に気が付いた。
良かったのか悪かったのか、安心したのか、メンドくさくなってきたのか、変な笑い声を短くこぼして、インターホンを押す。
「あ〜、おれ〜。……和隆……です」
です?
なんで敬語かと首を傾げている間に、玄関の内側に人が来た気配がする。
俺の近くにひとり足りないのにすぐに気が付いたらしい。
出迎えた父さんは驚いた顔をしている。
「和隆、ひとりで来たのか?」
「う〜ん。……まぁね」
そうかと笑って、ドアを大きく開いた。
入れ入れとおれの背中を押している。
思わず自分の手首にあるバングルを確認。気付かれないように少しだけ息を吐いた。
このヒトは……自分の息子の能力を把握してないんじゃないのかと疑いたくなる時がある。
まぁ、母さんもだけど。
「ちょうど良いタイミングだな、メシはまだなんだろ?」
「あ〜。……今日なに?」
玄関に入った時から良い匂いはしていた。
食堂みたいに、色んな食べ物が混ざった感じの匂いじゃなくて、なんていうか、『家のごはん』のにおい。
リビングのほとんどのスペースに畳が敷いてあって驚いた。
低いテーブルがあって、そこだけ見るとウチの苗字はさくらか磯野だったっけと思う。
転んでもケガしにくいように畳にしたんだと、言い訳するみたいに父さんは言った。
別に俺たちの時はどうだった、なんて思ってないのに。
「女の子だもんね〜。…畳、良いね〜」
なんて、俺にしちゃよくこんなフォローの言葉が出てきたと思う。
その女の子は、何ごとかしゃべりながら、テーブルの上に落としたジャガイモをスプーンで追いかけ回していた。
ちょっと待て。
「……2年でこんな感じになるのか〜」
「一花、お兄ちゃん帰って来たぞー。今日のごはんは何ですかー?」
「じゃまいも!」
ちょんまげをぴょこぴょこさせながら自信満々で、見せつけるみたいに何も乗ってないスプーンを持ち上げた。
そばにいた母さんが小さく吹き出して、ゆっくり発音する。
「いっちゃん、肉じゃがでしょ、にくじゃ・が」
「にーくじゃーま!」
母さんも俺がひとりだった事に驚いたけど、それは一瞬の事だったみたいで、その後は特に理由を聞かれる訳でもなく、普通にご飯を食べた。
ふつうに。
もし俺が、俺たちが。
他の人と何も変わらない普通の高校生で、学校が終わって、部活でもして、いつも通りに帰って来たらこんな感じだろうっていうくらい、普通に。
母さんが切り分けたリンゴの乗った皿を、一花が俺の方に押してくる。
「にいたん、どうぞー」
「ありがと〜」
とたとたいわせながら机の周りを歩くと、自分専用の小さな椅子にとん、と座った。
うん?
なんだこの生き物は。
これは…女の子だからなのか、小さいからか、妹だから……その全部か?
たいがい都もかわいいと思ってたけど、段違いだな。いやもう、レベルとかの話じゃない。
次元が違う。
自分の手首を痛いぐらい握っていた。
俺の側を通り過ぎる時、何かの拍子にこっちに倒れてきやしないかと、背中に悪寒が走り、腕にはびっしりと鳥肌が立っている。
腕輪はついているから大丈夫。
能力は抑えられているはずだ。
いくらかコントロールだって出来る。
大丈夫だから落ち着けと心の中で何度も繰り返す。
そうだ。
もうひとりでだって、行動できるし。
俺たちは一緒に居なくて、もういいんだと、言いに来たんだ。
リンゴ一切れを良く噛んで飲み込む。
ここまでの道中に考えて、何度もシュミレートした話をゆっくりと始めた。
ひとりでも自分の能力と付き合っていけるようになった事。
俺の事も、史隆も、もう心配しなくていい事。
学園を出た事。
心配させないように、正直に話して、安心してほしくていくつか嘘をついた。
ピンクの柔らかいボールが、俺と妹の間を弾んだり転がったりしながら、行ったり来たりしている。
きゃあきゃあ楽しそうな声を上げている一花のおかげで、雰囲気は悪くない気がする。
俺も深刻な感じにならなくて済んだし、何よりふたりがどんな顔をしているのか見ないで済んだ。
したい話だけして、もうそろそろ電車がなくなるから、そんな感じの適当な理由を付けて家を出ようとすると、いつでも帰っておいでと母さんは言った。
時々で良いから、絶対に帰る事を父さんに約束させられる。
妹が泣き出した。
泣く事に体にある力を全部使っているのか、畳の上にうつ伏せで寝転んで、どんだけだってくらいの大声を出している。
別れを惜しんでくれているのかと思うと嬉しかった。
その姿もかわいかったし、気持ちが一方通行じゃなくなった気がして、『俺の妹』感が増した。
それでも、やっぱり。
父さんと母さんに、どれだけ、なんて言われても。
妹に指一本触れる事が出来なかった。




