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にこにこ鬼。







自分のいる藪に史隆が走ってくるのが見える。


瑛人は動きをピタリと止め、息を潜めた。気付かれたのかも知れないけど、ここで慌てて急に動けば、居場所を自らバラす事になる。

動き出しそうになる体に何とか言い聞かせて、そして狭くなっていく視野を広げると、さっきまでいた場所からリュカが消えている。




気付かれたと、瞬間で悟った。




首の後ろの毛が逆立って、緊急事態だと体に命令が下る。

全力で、本気で逃げなければ確実にリュカに捕まる。

ひとつ悪態をついて瑛人は立ち上がり踵を返して走り出した。


「うお‼︎……びっ……くりしたぁ……てか、早っっ!」




草むらから急に現れた学園の制服を着た男子生徒は、素早く周囲を見回すと体を沈めて消えるようにいなくなった。

何度も見たことがある、リュカが高速で移動する時の初動だった。


史隆は自分が声を上げるのと同時にもう無理、追い付けないと早々に諦めた。


「ーーー俺がヘタに出て行ったらルカに轢かれちゃう……」


くるりと回れ右をして、校舎の前にいるみんなに中に入ろうと声をかける。







森を出る直前に、時間にして数分で決着が付いた。


普通科の校舎の方向に真っ直ぐ、なりふり構わず走ろうと全力を注いでいた瑛人の足を絡め取って、襟元を掴むと、近くにある大きな木に叩きつけるように抑え込んだ。

横からの急襲が成功して、抑えた相手に反撃するヒマを与えなかった。


「ねぇーーー何でお前、そんなに早いの?」


リュカは大きくひと息つくだけで乱れた呼吸を整える。


「……森の中を走ると傷がいっぱいできて危ないよね?」


柔らかな葉っぱですら、人をはるかに上回るスピードで当たれば、服やその下の皮膚を切り裂いてしまう。

構わず走っていたリュカにも瑛人にも数え切れない程の切り傷が出来て、傷にはうっすらと血が滲み出している。


リュカは瑛人を抑え込んだまま、出来た傷をひとつひとつ確かめるように視線を這わす。


「ーーーもしかしてこの傷ももう治ってんじゃないの?」


ぎりぎりと襟元を締め上げられながらも瑛人はリュカを睨みつける。


無言でもその目は、だったら何だと言っていた。

実際痛みは過去の出来事のように薄らいで、血の跡は思い出の品になっている。

血を拭えばその下の皮膚はもうくっついているはずだ。



身じろぎして逃れようとしても、押し返そうにも、リュカの腕は少しも動かない。どころか、動こうとするたびに首元が少しずつ締まっていく。

片腕だけで抑えられているのに、それを押し返すことが出来ない。

全力で逃げていたはずなのに、回り込まれて捕まったのかと思うと、気力が削がれていく。


能力の差を見せ付けられて、逃げる気は完全に失せてしまった。

顔も見られた、もう逃げる意味は無くなったと籠めていた体の力を抜いた。





瑛人から力が抜けて行くのを感じたリュカは、自分も抑え込んでいた腕から力を抜いた。

微笑んでいた顔に、更に笑みを深めてことさらゆっくりと言葉を紡ぐ。



「お前………なんて名前?」




















場面の展開上、今回は短めです。


次は長めです。

バランス悪くてスミマセン。


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