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鬼ごっこ。





学園に転入してから3ヶ月、ヒマを見付けては特科の周りで機をうかがっていた。


いつもは静かで、聞こえてくるのは珍しい、楽しげな歓声を耳にして、瑛人は森の中の藪から校舎の前庭を見た。


「……ーーーていうか、なにアレ。何してんだ」


自分の能力をあんな風に使うリュカに妙にイラついた。

蚊の気配に自分の腕を必要以上に強く叩く。血は吸われないで済んだみたいだ。

周りでうるさく付きまとう蚊にも腹が立って、苛立ちは増していく。



では何のためにある能力なのかと聞かれても、そんな事こちらが聞きたいくらいだが、ただ人を抱えてぴょんぴょん跳びまわる為でない事は確かだ。

能力の事を真剣に考えている自分が馬鹿にされたような気がする。


授業を受けるのを諦めて出向いてきて、わざわざ藪に身を潜めている自分はバカなんじゃないかとさえ思えてくる。


急激にやる気が無くなって、撤収の文字が頭の中で点滅している。




何より特科の誰もが楽しそうで、でもそれを見ているこっちはなにひとつ楽しくない。


瑛人は今よりも更に身をかがめる。

しばらく、こちらから校舎が見えなくなるまではと念を入れて、静かに後退を始めた。





最初に気が付いたのは都だった。


ぼんやりと見ていたいつもの景色に、何か違和感がある気がして、何がいつもと違うのか、どこが変なのか、頭の中にある景色と目の前の景色を照らし合わそうとした時だった。

この間まで咲いていた花が少なくなっていると、答えは簡単に出た。

時期が過ぎて落ちたのだろう。

何だそんな事かと思っていると、視界の隅で森の藪が一部だけ揺れている。


校舎の周りで何度か狸やアナグマや、イタチなんかの動物は見た事があった。

草むらからひょっこりと顔を出すのかもと思っても姿を現そうとしない。

注意して見ていると緑の草の間に、白い色がちらりとのぞく。

更によく見ると制服に使われているチェックの模様まで見えてくる。



今までのことを見られたのかと、瞬間でこれから起こりうる数々の事態を最高なものから最低のパターンまで幾通りも思い描いて、最高なパターンでさえ面倒なのは変わらないと顔をしかめた。



こちらが気付いたことを気付かれないように平静を装って、これを対処するのに一番適している人に近付いた。




子どもらしさを見せ付けて、取って付けてパタパタと可愛らしく走り寄る。

腕を引くと内緒話をする素振りで手を口元で隠してリュカの耳に顔を寄せた。



「きょろきょろしないでよ?ーーー……俺の真後ろの草むらに人がいる。今の見られたかも知れないから、ちょっと捕まえてきてよ。あーーー。史隆と一緒に」



リュカは少し目を見張る。

すぐにそれは細くなって、口の両端がきれいに持ち上がる。

その表情は魅惑的としか表現できない笑みにゆっくりと変わった。

目線だけで了承の意を返すと、屈んでいた姿勢を元に戻した。


「……史隆。一緒に遊ぶか」


「は?ーーー何だよ」


史隆を見ようと顔を向け、その途中で視界の中に都の言った方向を入れる。

直視しないように視線は少しずらしたまま、相手の位置を、確かに人が居るのを確認した。


「何だよじゃないだろ、『一緒に遊ぼう』って言ってんの」


「あーーー。……ーーーえーと。何すんの?」



普段は自分たちが言わない言葉を使おうと言い出したのは史隆で、そんな暗号めいたモノは必要ないし、紛らわしいと言っていたのはリュカの方だった。


暗号を使わなくてはならない状態になるのがそもそも面倒なのにと、ノリノリだった史隆もそこには同意した。

それでもリュカがわざわざ暗号を持ち出したという事は、何だか面倒が起きるのだと、史隆は自分の手首にある金属をなでた。



「このまま真っ直ぐ森の中に走って突っ込んで行け」


「うん?ーーー分かったけど、どんな遊び?」



リュカに指示されて、背中を押されると史隆は森に向かって走り出した。

背後から声が聞こえる。


「『鬼ごっこ』だよ」




という事は自分とルカが鬼で。




暗号の中身を思い出しながら、史隆はこれから自分が真っ直ぐ進む森の中に目を凝らす。









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