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一之宮迷宮。





私立一之宮学園。




生徒の個性や能力に合わせたカリキュラムで、独自の教育を施すこの学園は、国内外を問わず優秀な人材が集い、育っている。


広大な敷地にはそれぞれ専攻の校舎、生徒の宿舎、店舗だけではなく、娯楽施設もあり、ちょっとした町と言えるほどに人工が多い。


学業を修める者、スポーツに汗を流す者、芸術に魂を削る者。

己を磨き上げ、創設者の一ノ宮の意志を受け継ぎ、卒業すれば世界へ向けてそれぞれの分野へ旅立って行く。

学園はそのように百年もの歴史を刻み、もうずっと『名門』と呼ばれていた。



学園を案内する地図には、本校舎を中心に東西に校舎が並び、それぞれの校舎の南北に専攻の関連施設と寮がある。

それぞれの建物が四角い形の線だけで簡単に描かれている。

他には生活に必要な物が揃えられている店、単身の職員の為の宿舎、催し物ができるホールと、生徒が広い敷地で迷子にならないようにと、それぞれの建物に名称が載せられている。


その中に、本校舎から一番遠く、学園の敷地の東の端に、名称の載せられていない小さな建物がある。

〈特科〉の校舎。

同じ建物内に寮も兼ねていて、他の建物と比べれば収容人数も極端に少ない。

何がどのように特別である科なのか、ほとんどの教師や生徒に知られていなくても、学園にいるほとんどの人間が、その名前の無い校舎が〈特科〉であることは知っていた。


白っぽい灰色の石造りの建物は、校舎というよりも洋館に近い規模と見た目で、針葉樹に囲まれた森の中にぽつんと建っている。

入り口のドアは真ん中にあって、シンメトリーのデザイン。

その昔建材を輸入して建設したのだから、「欧風」ではなく歴としたヨーロッパの建物だ。

学園の中でこの特科と、本校舎と呼ばれている建物だけが創立当時から残るのみで、他の校舎の方こそ、「欧風」建築だった。


特科に行くには森を抜けて行かなくてはいけない。

くねくねとカーブする石畳の緩やかな坂を上る。道はその一本しかない。

歩けば結構時間がかかる。

途中で自分がどこの国にいるのか、現実の世界にいるのか不安になる距離だ。

その辺りにきらきらの半透明の羽を生やした小さな女の子がいても、バスケットを持った赤い頭巾の女の子がいてもおかしくないような気がしてくる。


特科とその周りを囲む森だけが昔から何も変わっていない、時間の止まった空間に見えた。



それに比べ〈普通科〉と呼ばれる校舎は、生徒数も校舎の規模も違う。

全生徒の6割近くが普通科の生徒で、その人数を収容する校舎も、周りの環境も特科とはまるで違っている。


日当たりの良い広々とした芝生の広場に、角砂糖のような白い立方体の建物は、美術館のような外観をしている。

その周辺の関連施設も、同じく合理的で機能的な造りで、学園内では一番新しい建物だった。


横から見れば角砂糖の校舎も、上から見ればロの字になっている。

建物は大きくても、簡単な造りなので迷いにくい。

真っ直ぐ歩き、角を4回曲がれば同じ所に戻って来る。


迷いにくいはずなのに、その中で小野瑛人(おの えいと)は迷子になっていた。


「ーーー元の場所に戻った……?」


長い廊下の真ん中に立って、右を見ても左を見ても、同じ景色しかない。


「うーん。ラビリンス……」


腕を組んでひとつ頷くと、さっさと見切りをつけて諦めることにした。

これはどうも目的の教室にはたどり着けそうにない。

であるならば、本来のすべき事を続行しようと、角にある階段に向けて歩き出した。


すっきりとしたデザインのせいで、特徴のなくなってしまった校内には、3E(3階東)や、2N(2階北)とフロアの数字と東西南北がわかりやすく表示されている。


入学してすぐに上級生から叩き込まれる学園の常識を、小野瑛人はほとんど知らない。


もうそろそろ授業開始の鐘が鳴るから戻らないと、そう思った時には遠くから鐘の音が聞こえてきた。

同じクラスの誰かにくっついて行けば迷う事はないと考えていたのに、戻った時には廊下にはもう人の気配はなくなっている。

自分の所属するクラスの教室ではなくて、別の教室で授業がある事は分かっていても、特別教室の並ぶこのフロアで、自分がどこの教室に行けば良いかまでは把握していなかった。


同じクラスの誰もが忘れてしまっているが、瑛人は3ヶ月ほど前に転入してきたばかりで、知っている事も上級生から教えてもらったものではなく、なんとなく空気を読んで、集団に紛れていた結果仕入れた情報だけだった。


クラスの人間が不親切な訳ではない。

そう仕向けていったのは、瑛人自身だった。


転入生と珍しがられ、かまわれるのは行動の妨げになる。


一番生徒の多いコースの2年生。

全生徒の8割と同じように寮住まい。

成績は中の下、適度に委員会などの活動をし、強くも弱くもないクラブ活動で適度に運動して汗を流す。

問題を起こすわけでもなく、教師達からしてみれば面倒の掛からない、印象の残らない生徒。

溶け込みやすいように人当たり良く、周りから浮かないように目立つ事もなく、クラスメイトとも寮で同室の者とも、仲は良いが深入りはしない絶妙の距離感を保ってきた。


他人の印象には、なるべく残りたくない。


周囲とは違う行動を他人に詮索されないようにする為には、印象に残ってはいけない。

特別難しい事でもなかった。

表面上は何ら周囲の人間と変わる所はない。

見た目も何もかも平凡に見える。


瑛人は今までもそうやってやり過ごしてきた。





















瑛人目線で話を展開したいが為?に、学園の説明をまたしてしまいました。


くどくてスミマセン。




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