表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/83

はじめのいっぽ。

※流血表現があります※


苦手な方はご注意下さい。











心の準備はよろしいでしょうか?





では、どうぞ。

















軽く目を閉じる。

意識して呼吸をして、きつい芳香剤の匂いに吐き気がする。


右手で左手の親指と人さし指の間を軽く揉んだ。


位置はわかっている。


実物は目に見えなくても、皮膚の下には探ればそれとわかる小さな塊が指に当たる。


手の他に3カ所。


手で探って分かりやすい場所なのは、回収しやすいからというのが理由で、回収しやすいという事は、取り除きやすいという事だ。


自分でも簡単に出来る。


向こうの都合とはいえ、体内の奥深くでなくて良かった。

10㎝にも満たないアーミーナイフを自分の体に突き立てて、中身をぐりぐり探る勇気はさすがにない。


他人とは比べようが無くても、痛みは人並みに感じるはずだ。


ただ痛みに対する恐怖は、他人よりも少ない自信はある。


目を開けて、握っていたアーミーナイフを掌の上で転がした。


「……何もったいぶってんだ」


厚みのある柄の部分からばらばらと飛び出す刃物の中から、比較的薄くて、鋭利な刃を選んで、他の刃は柄の中にしまう。



親指を外側にして、左手を握る。


飲み薬のカプセルよりもひとまわり程大きな塊が、親指と人さし指の間の水かきにぷっくりと盛り上がる。


どれくらいの深さまで刃を入れればいいだろうか、3㎜かそこら辺か。

血がたくさん出る前に取り出さないと見えにくくて厄介か。


そんな事を考えながら、皮膚の上に刃を当てて、塊に届くまで押さえてみる。


押さえたくらいでは皮膚は破れなかった。

塊も皮膚の下で安定せず、刃の先からつるつると逃げている。


想像通り簡単にはいかない事に少しムッとして、塊の真上からではなくて、筒状の横っ腹の部分、塊を下からすくうようにして、刃物を引いた。


ナイフを口に咥えて、右手で開いた傷口から皮膚の下にある塊と血とを一緒に絞り出す。


カプセル状の小さな塊をペーパーホルダーのわずかなスペースに置いて、すぐ横にスタンバイさせていた消毒液を傷口に振りかけて、ハンドタオルを押し当てた。


悪態と一緒にため息を床に吐き捨てる。


慣れてはいても、痛いものは痛い。

心臓は早いペースで動いている。呼吸は早くなっているし、額には脂汗が浮かんで、気持ち悪い。


糊のきいた新品のタオルが血を吸い上げる前に、出血は治った。


要領は分かった。

上から順番にいこうとシャツの上から脇腹を探る。

右の肋骨の一番下のその下。

体内に入れられたばかりの頃は気になって仕方がなかった、その異物に慣れてしまった今はもう、体の一部のような気さえする。

例え自分の意思ではなく、強制的に埋め込まれたものだとしても。


ころころとする感触も、もうお別れだと思うと、知らず口角が上がる。

気分は晴れやかで、しんみりとは程遠い。


シャツを捲り上げて、手よりも柔らかな皮膚に、さっきと同じ要領でナイフを引いて、中身を絞り出す。


皮膚の下にはもう一カ所。

右足の小指の付け根にあった。


案外1番痛いのが足だった事が笑えて口の端が曲がって上がる。


取り出した塊は、ガラスか強化プラスチック製か、透明なカプセル状のものだった。

実物を自分の目で直接見るのは初めてだった。

血をよく拭いて目の前にかざす。


透明なカプセルの中には銀色と金色の混ざった金属製のものが入っている。

金色のプレートには銀色の線が色んな方向に走って、交わったり綺麗に並んだり複雑な模様を描いている。


目を細めて、息を止めて集中しなければ見るのは難しいくらい中身は小さい。

細部まで見ようと思っても、円筒の小さなガラスの中で、繊細な模様も端が歪んでどうなっているのか分からない。

すぐに見るのは諦めて横に置いた。


残りのもうひとつは左の耳に付いていた。銀製のピアスに見えるけど、取り外せない。

5㎜ほどの玉が前にも後ろにも付いていて、後ろを引っ張れば留め金が外れる、そんな普通の作りではない。

もちろん簡単に外れては意味がないから。


鏡があろうが無かろうが、それはナイフでどうにかできる大きさだとは思えない。


耳たぶに大きな穴を開ける覚悟で、前後に引き抜くか、下に引っ張って耳たぶを割くか。


自分の不器用な指と相談して、前と後ろの玉を親指と人差し指で挟むと、息を吸って、止めた。


横目で消毒液とタオルの位置を確認して、ピアスを持った手を一気に下ろした。







トイレの洗面所で血まみれの手を洗い、その足元にあったゴミ箱に盗んだものは捨てた。

次に使う人がトイレの中を見ても、悲鳴を上げない程度に後片付けもしておいた。



体の中にあった人口の異物は、便器の中に捨てて、短い笑いと一緒に流してやった。





下水処理場で探せばいい。


いい気味だ。






店員は商品を買うどころか泥棒した人間に対して、ありがとうございましたとカウンターの奥から心のこもらない声をかけてくる。


何食わぬ顔でドアを開けて店を出た。









縛りがひとつだけ解けて得られたわずかな自由と、自由になった事で生じる不自由と、びっくりするほど澄んだ空の青色に目の前がくらくらする。






一歩目は、傷のない左足で踏み出した。























だから、この人誰なの〜。





そして、何のために中途半端だと分かっていて前話と分けたかというと。


この流血のアレだったのに。



アップ後1日経って前書きに注意書きをしました。


知らずに読まれた苦手な方。

不愉快な気分になられた方。


申し訳ありませんでした。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ