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コンビニ、朝。







黒とシルバーで大型のクルーザータイプのバイクの前に、飛び出して前に立った。



後輪を滑らせながら横向きになる。

半歩前で危なげなくバイクは止まって、ライダーはバイクと同じような黒いヘルメットの奥で、なんだよ、とくぐもった声を小さく上げた。


「もれそう」


「はぁ?」


「うんこもれそう。近くのトイレまで連れてって」


返事も聞かずにライダーの肩に手をかける。そのまま後ろの座席に跨って肩を軽く叩いた。


もう一度なんだよ、とこもった声が聞こえて、エンジンはヒュルルと軽そうな音で一度鳴いて、いきなり現れた哀れな乗客を乗せて滑るように走り出す。


バイクの性能も、ライダーの性能もよく分かっている。

轢かれるとはひとつも思わなかったし、もしそのまま止まらなかったとしても、自分が轢かれるような間抜けな真似はしない自信があった。



てっきりこの近くの住宅街にある公園にでも連れて行かれると思っていたのに、そこでスピードは落ちる事はなく、あっさりと通り過ぎていった。

もう少し先にあるコンビニに行こうとしているのかと予測して、ある意味緊急事態の人間を少しでもキレイなトイレに、という行為が、果たして親切なのかどうなのか、微妙な感じはする。


もしかしてトイレどころか、とんでもない所まで連れて行かれて、そこで降ろされるのかもしれない。

それくらいに失礼な事をしている自覚は無い訳でもない。


実際のところ、本当は緊急事態でもなんでもないので、公園でもコンビニでも、それこそどこかの山中でも、ここから離れられるならどこでも良かった。



バイクは住宅に挟まれた道を走る。

家と家との間隔は結構広い。


昔からある純日本建築の古い家々の並ぶところと、新興の住宅地とがちぐはぐに混ざっている。そのどの家も、わりと大きくて、広い庭がついている。


間に大きな田んぼや畑もある。

車道も歩道もこんな田舎にどれだけの交通量だとツッコミたくなるほど無駄に広く、田舎だからこそ余裕のある土地をふんだんに使いましたと言わんばかりに真っ直ぐに設定されているので、見通しはかなり良い。


この大きなバイクのエンジン音も遠くまで響いているだろう。

周囲の建物や山から反響して、こんな時間じゃ、そこそこ迷惑に違いない。



のどかな環境に配慮しました、とアピールしている、低い位置にある看板が見えてくる。

田んぼの真ん中にぽつんと建っているコンビニ店。

大きな施設があるものの、利用するのはもっぱら近所の住人だけで、このコンビニが儲かっているとはお世辞でも言い難い。

オーナーは当てが外れてさぞがっかりだろう。


やっぱりこんな田舎には無駄に広い駐車場に、スピードを落としながらすんなりとバイクは進入した。


店の入り口を目指してバイクは真っ直ぐに進んでいく。そんな事が出来るのも、他には停まっている車が少ないから。

場所的にも時間的にこうなのか、それともいつもこうなのか、この広い駐車場が車でいっぱいになる日は永遠にやって来ないと簡単に推測できる。



少しでもキレイなトイレに連れて行ってくれる親切な部類の人間だというのは、なんとなく分かっていた。

口の端に笑いが漏れるけど、その声はすぐに後ろに流れて自分にも聞こえない。



強いという事は、余裕を生んで他人に親切に出来るのかと、頭の中で言葉にはならなくてもぼんやりと感じる。

その事実はより一層、腹立たしさを増させるし、自分を小さく感じさせる。


でもそれも言葉にならなくて、イライラとした感情というラベルの付いた箱に乱暴に放り込まれてジャンル分けされた。



見事に入り口の真ん前にバイクは横付けされた。


ライダーを掴んでいた手で、肩を軽く叩いてバイクを降りた。


「どうも」


ありがとうとは言わず、頭を1㎜も下げなかったのは、どこか心の奥底からふつふつと湧き上がってきた意地だった。


ヘルメットをかぶった相手に、聞こえるかどうかわからない程度のボリュームで言って、コンビニ店の入り口ドアを押して、店内に入る。


雑誌のラックが並ぶ通路の奥に、トイレの案内プレートが付いたドアが見える。


雑誌と向かい合った棚に陳列されているいくつかの商品を、店員にも見られず、防犯カメラにも映されないように手を出した。


視線を感じてトイレに通じるドアの前から大きなガラスの外側を見ると、黒いヘルメットがこっちを向いている。


店員の目にも、防犯カメラにも残らなくても、あのバイクの男には見えている。


あんたが分かっている事を、分かっているよと顔に貼り付けて笑う。




バイクは1度吠えながら、後ろのタイヤを滑らせて90度方向を変える。

止まることなく、するりと駐車場から出て行った。


学園の方角に向かって走る。


あのスピードなら、午前中には到着できるだろう。


腕時計をちらっと見て、あと15分で1時間目が始まるなと思う。

思ってそれももう自分には関係ないと息を漏らした。



トイレのドアを体で押す。

個室が空いているのを確認して入ると、内側からカギをかけた。


ついさっきまで陳列されていた商品を、トイレットペーパーホルダーの小さなスペースに並べていく。

ビニールやプラスチックの包装は破いて床の上に投げた。


ジーパンの後ろポケットから10㎝もないキーホルダーを取り出して、便座の蓋を下ろしたところに座った。















新展開です。


誰がどうなってコンビニのトイレでナニ展開だよ。


万引きは犯罪です。

ですよー。

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