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私立一之宮学園〈特科〉  作者: ヲトオ シゲル
和隆がいなくなった。
39/83

side 史隆





俺と和隆は双子の兄弟だ。

俺がお兄ちゃん。


いつも一緒に行動していた。




小さい子どもの時は町なかを歩くのもいつも手を繋いで歩き、年上のお姉さん達からは「かわいいー」と言われ、さらに年上のお姉さん達からは「あらあら、仲良しね」なんて言われて。



とにかく女の人のウケは良かった。



ウケたのが嬉しくて、わりと進んで手を繋いでいた。

まぁ、それだけじゃなくて、俺達は手を繋いでないといけない訳があった。


赤ちゃんの頃からとにかく物を壊したらしい。



俺が大泣きするたびに哺乳瓶が割れ、おもちゃがぶっ飛び、俺達のベビーベッドの周りだけはいつも爆撃を受けたようになっていたと、母さんは笑いながら言った。






母さんは最初、まぁ派手に泣いていた俺に原因があるんだと思っていて。


でもある時壊れた物の半分程が、俺が泣く前に大きな音を立てて、その音に驚いて泣いている事に気が付いた。



その時和隆がどうしていたかというと、そりゃもう赤ちゃんにはあるまじき静かさだったそうだ。


その頃からカズちゃんは低燃費だったらしい。




兄弟が離れ離れになると壊れる物が増えるので、いつも一緒にされていた。






特別変わってるとは思ってなかった。

生まれた時からずっとそうだし、誰でもそんなもんだと思ってたし。

母さんの言うことを聞いていれば、まぁそう厄介な事になる前になんとかおさまっていた。



俺達が普通の人は持っていないものを持っていると言われたのは、6歳の時。

母さんや父さんは、母さんや父さんだから物を壊さないと思っていたけど、そうじゃなかった。


何度も根気強く教えてもらった。


俺がその立場なら我慢できる自信がないほど、何度も根気強く、丁寧に。


約束をたくさんした。



怒ったり泣いたりしている時に、ものに触らない事。


自分の好きなものに触る時は、気を付ける事。


体の中が落ち着かない時は、ふたりでくっ付いて、落ち着くまで待つ事。





いつも一緒にいる事。









手の中に握ったものの形が変わった。

広げた手のひらには黒くて粒子の細かい粉が貼り付いている。

黒い粉は指紋や手のシワの中に入り込んで、少し手を振るったぐらいでは落ちない。



体温が一気に体の中心に集まって、手足が急速に冷えていく。

指先が痺れて感覚がない。


体の真ん中に開いた針の孔程の小さな黒い点に自分が全部持って行かれて、瞬きをする程の間にその孔は世界の全部を飲み込んだ。



その黒色の名前は、怒りと恐怖。




目の前のものがスローで動いていって、景色が回転する。

体が床に叩き付けられて、だけど少しも痛みを感じない。

ルカが何か言ってるようだけど、何を言ってるのか聞こえない。

都が必死で引っ張ってるのがルカの腕だと思って、ああ、ルカの力に都が敵うわけないのにと、思う。



シャツの小さな白いボタンが飛んでいく。

視界の端に見えてるのが今着てる自分の服で、首を締め上げられてるのは俺なのに、何も感じない。


誰の声も聞こえない。


何の音も聞こえないと感じるのは、もうすでに大きな音が耳に入っているから。




これは、あれだ。

俺が叫ぶ声だ。






手のひらの中にある黒い粉は、さっき俺が掴んだもの。


夜のシャツの襟の部分と、ちょうどその辺りにあった髪の毛。

お前のせいだと夜に掴みかかった。

誰かの所為にしたかった。



誰だって怒るだろ。



ずっと一緒だったんだ。

それこそ、生まれた時から。

その前、母さんのお腹の中にいる時から。

もっと言えば、ひとつの細胞だったんだ。





ここまで見境なくキレたのは、記憶にないから、多分、生まれて初めてなんだと思う。


その俺を引きずり倒したのは、夜に能力を使ったのを怒ったルカで、そのルカから俺をひっぺがしたのは、俺を怒らせた夜だった。




向かい合った格好で夜に抱きしめられて、子どもみたいに背中をとんとん叩かれている。



どれぐらいそうしていたかは分からないけど、段々あちこち痛くなってきて、少しずつ落ち着いて色々考えられるようになってきた。




あんなに何度も根気強く教えてもらったのに、約束を守れなかった。




本気でどうにかするとこだった。




夜の腕輪を分けてもらってて、良かった。

これが無かったらって想像するだけで死にたくなるし、その時は間違いなく確実にルカに殺される。







夜にも腕輪(コレ)が効いてるかな。

今まで近くに居るだけで聞こえてた夜の心の声が聞こえない。


俺のこんなえげつない気持ちも聞こえてなきゃいいけど。




こんだけくっ付いてるのに、ずっと背中をとんとんしてんだから、まあ、聞こえてないか…。



しかし。




いやー。






くっ付いてんなー、コレ。






うーん。



ちょ……



どうだろ。






離れた方が良くね?



多感なお年頃だって事がね?

今さらなんですけど、ホント。






……あー、と。


口で言わないと、やっぱり伝わんない?


……スゲー効き目だな、腕輪(コレ)



「夜?……もういいよ」




あはー。


ぎゅーってされちゃった。



「ホント、もういいから、離れて。……………なんかムラムラしてきた」




うっは。

早っぇえ、ルカ。





はぁーあ。



マジかあいつ。




腕輪(コレ)が手に入ったからか。



ここぞとばかりか。

もういいんか。












「はぁぁぁぁあああ。俺の弟、いなくなっちゃった」
























兄の心の健全さよ。


強いのかなー。


おバカなのかなー。


かわいい子ですなー。


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