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私立一之宮学園〈特科〉  作者: ヲトオ シゲル
和隆がいなくなった。
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side 琴野&コッティ



この森は私が生きていた頃、少年時代を過ごした森によく似ている。

緑深い針葉樹の木立ちとそこに流れる静かな空気。


森の奥の石造りの建物は、私の故郷の建築様式で建てられた。



それほど大きくないこの屋敷には現在、5人の若者と私が住んでいる。






フランス革命の最中、18世紀末。

都市から離れた田舎に、私は人形師の息子として生まれた。


広がる戦火を避けて、独立宣言後のアメリカに新天地を求めて家族で亡命した。


亡命後すぐに両親は病で次々に命を落としたが、父は私に人形師の仕事を残してくれた。



幼い妹を育てる事と、人形を作る事が私の生き甲斐で、それが全てだった。

そして人形作りに捧げた私の命は、19世紀の中頃、アメリカで終わりを迎えた。








では今。


私は死んでいるのかと言えば、そう。

肉体は150年以上ずっとアメリカの地中深くにあって、今もまだそこにあるはずだ。

棺の中で腐って、骨だけになっているだろう。

が、しかし私の意識はここにあるのだ。

私が肉体の死を迎える直前まで作っていた人形と共に。





転々と持ち主は変わったが、私は今の持ち主が一番愛おしい。

物静かではにかみ屋の私の妹に似ているのが理由の1つだが、それよりも。


彼女とは意思の疎通がはかれるのだ。

それは今までの持ち主には望めなかった事だ。




名前は琴野。

彼女の家は相当に裕福で、私は大きな大きな蔵の中の片隅に、他の色々な道具と同様に、長い間、保管されていた。


この国でも起こった戦火を避けるために大切に保管され、そのまま忘れられていた。



初めて私を見付けたのは、琴野が4歳になったばかりの頃。


琴野と、この家の『憑き物』のしょうぶ。

(私のようなものをひとりと数えるのならば)

ふたりで見つけ出してくれた。



しょうぶ、は家の庭の菖蒲の花の下によく佇んでいるので、琴野がそう名付けたという。


残念ながら、私はしょうぶの姿を見ることは出来ない。話も出来ない。

しょうぶも私の事は、なんとなく気配だけを感じていたらしい。

私たちのようなモノは多くの場合お互いをはっきりとは認識出来ない様だ。


時にしょうぶの様に他のものの気配を感じたり、もしくは姿を見るだけであったり、声だけは聞こえたりするようだが、お互いを感じるのはごく稀な事らしい。





琴野は蔵の中にしょうぶに導かれてやって来た。

大きな蔵の片隅に、立派な木箱に入れられた、埃をかぶった人形を抱き上げる。




おはなしできるの?と言った琴野は、私とそんなに変わらない大きさだった。


それ以来ずっと、私は琴野と共にいる。


何故しょうぶが蔵の中にいる私を琴野に探させたのか、理由はしばらくすれば明らかになった。


先ず、しょうぶは、琴野を大事に思う内のひとりだった。


家の『憑き物』だが、家の中には入れないらしい。かといって庭以外、敷地の外にも出られない。

私がこの人形の体の中だけで存在出来るように、しょうぶも庭にいる事しか出来ない。


だから家の中や、敷地外に出られる私の存在が必要だったのだ。


そして家の中にも、敷地の外にも、私やしょうぶのような存在はいくらでもいる。


そしてそのほとんどが、琴野を大事にしてくれないもの達だった。




生きている人間は、空中の何もない場所を見ては何事かを話しかけている琴野を気味悪く思っている。


生きていないものは、大概が琴野を貶めようとする性質の悪いものばかり。



そんな中で琴野の味方をしてくれる者は、生きている人もそうでないものも、私としょうぶを含めても、片手で数えられるほとしかいなかった。




琴野が小学校にいる間には、琴野は完全に人と話すことはしなくなり、外聞と世間体を気にした琴野の両親は、小学校卒業を機に自分の知り合いである人物の経営する学園に我が子を入学させた。




寮のある学園に。

私から言わせれば厄介払いした同然だった。





果たしてその場所は、琴野にとって、大変良い場所であった。




同じに、何かを見たり話をしたりする者はいなかったが、他の人とは違う何かしらの能力を持つ若者達がいた。


琴野の力もこの中にあっては、特異なものとは思われていない。




誰も琴野を気味悪がったりしない。






そして何より、私の口を通じてではあるが、琴野の意思を伝えられる。


私は歓喜に打ち震えた!


まあ、人形なので実際そんなことになればただの怪談話で、私は震えたりは出来ないのだが。







ここで運命の出会いを果たす。





ふたつ年上の和隆。

双子の史隆の提案で、和隆の側に行ってみると、琴野は自分の能力が弱まった。


年若い少女が、自分を助けてくれる少年の側にいればどうなるか、そんな事は解りきっていたが、それでも。



この暗いものしかない世界に光を落としてくれるのならば。





変わっていけるはずだ。

世界は暗いばかりではない。

悪い感情ばかりで出来ているのでもない。








そして月日は流れて、現在に至る。


先頃、とても恐ろしく悲惨な場所から、少女がやって来た。


名前は、夜。

その名の表す通り、闇色の長い髪と瞳を持つ少女。

琴野と同い年だ。

他人の心が文字通り解るこの少女ならば、琴野と仲良くできるに違いない。














夜はとても済まなさそうに琴野に詫びた。

自分の所為だと、自分が来た為にこんな事になったと。





琴野はそれが本当なのか、考えあぐねている様子だ。





それよりも自分が和隆を思い留まらせる

存在たり得なかった事に、自責の念を感じている。





校舎の表にある、カフェテーブルの椅子を蹴り飛ばし、…うん……自責の念を抱いて。



私だけに解る言葉で

「黙って行ってしまった」

「私に何も話してくれなかった」と…。


うん?……自責の……。


「連れて行けよ、ヘタレ」



自責………?






「私は和隆の邪魔にしかならないのかな」



………ああ。間違いなく自責の念を抱いて、押し潰されそうになっている。







『今』がその全てで、先のことなんて考えるのも難しいかもしれないが、琴野。




私はこう思うのだ。



貴女はその心も体も、自由にどこまでも行ける。


私と違って。



その自由な心で、今に見ていろと思えば良いし、その自由な体で、いつか和隆を探しに行くのも良い。




今の琴野にこんな事を言っても、とても実感はないだろう。



和隆が居なくなった上に持て余す力で、見たくないものは増えていく。




今は針葉樹の木立ちの向こうに消えてしまった、和隆の後ろ姿を探すだけかもしれない。





それもいつか己の力を肯定出来るようになれば。



幻の後ろ姿ではなく、いつか本当に和隆の背が見えてくる事があれば。







いつか我が姫にご進言申し上げる時が来る。




その時までは、

貴女を守る事もままならない私だが。


動けもしない、ただのおしゃべり人形だが。





いつも貴女の側に居よう。






私の愛おしいお姫様。




























ポエミー。


コッティ、ポエミー。



オッサンの半分はロマンチックでできています。

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