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私立一之宮学園〈特科〉  作者: ヲトオ シゲル
これは14日間のおはなし。
24/83

ハサミの使いよう。

ペーパードライバーのよつばの運転も、なかなか快適だった。



帰りの道を走り出して、数時間。

陽が落ちかけ、空も景色も藍色に近付いていく。




助手席にはリュカ、2列目に榊と榊の膝枕で今も眠っているリュカの女神。


3列目には双子と琴野、コッティ。



都は運転席と助手席の間に座ったり、あちこち移動して、今は2列目の足元のスペースで、休憩で寄ったサービスエリアで買った雑誌を寝転んで読んでいる。




頭の近くで金属のぶつかり合う音がして、そっちを向くと、寝相が変わったリュカの女神の両手がシートからはみ出していた。




太くてしっかりした作りで、古いものなのか、角は削れて丸みがあった。


表面には細く字のようなものが彫り込まれているが、都はそれがどこの国の文字なのか知らない。


その文字すらも磨耗して、所々消えたり、傷が入ったりでよく見えない。



木でできた腕輪なら、どこかの民族の装飾品に見えたかもしれないが、これは金属でしかも腕輪同士が数個の小さな部品で繋がっている。


「ねー。せんせー、コレ外してあげないの?」


起き上がって榊を見上げると、ああ、と声を漏らした。


「これでね、この子の能力を抑える効果があるから、外すのは逆にかわいそうなのよ」


今のうちに、とその能力を話しだした。




そばにいれば強い感情は伝わってしまう。

ものに触れても、そこに残った強い想いや、記憶を読み取ってしまう事。

自分の意思では遮断できない。

いまのところは、まだ、と付け加えられた。



榊は少女の両手首の金属に触れて続けた。


「これのおかげで、今まで正気でいられたんだと思う。…これも本当なら、博物館にで展示されててもおかしくない物なんだけどね」


「古そうだもんな、それ。なんか見た事ない字が彫ってある」


「これね。どこだかの、なんやら神が、めっちゃ苦労した後にすんごい力で魔物を封じたとかなんとか書いてあるらしいわ」


「は。……なんだそりゃ」


後ろから史隆の声がする。





恐怖とはどこまで人を愚かにするのか。


今生きている人間も、昔生きていた人間も大して変わらない。


何かの能力を持って生まれてくる者はいたのだ、大昔から。


正体の分からない恐怖に、悪魔だ魔物だと名を付けて、そうして両方の手首を繋ぎ、自由と尊厳を踏みにじってきた。





本当に封じ込めたいものはなんだったのか。


人の中に魔物がいるとすれば、それはどちらになのか。


枷をつけられた者の中なのか、それとも手首を繋ぐ事で安心した大勢の心の中か。




「…まぁ、だいたいそんな感じの事が書かれてるんだけど、字は消えかかってるし、翻訳も完璧じゃないしね。私的には、この金属の配合具合が何かしらの効果を生んでいるのではないかと思うんだよねぇ、希望だけど。ーーー……多分この真ん中の所を壊して、両手を自由にするくらいは大丈夫だと思う、きっと」


「そんな適当な感じで壊して、大丈夫なのか?」


「どーかなぁ……ーーーでも、もしもの時は、和隆が居るし。……ねぇ?」


後ろから和隆の返事なのか、溜息なのかよくわからない声が聞こえてくる。

どちらにせよ「メンドクサイ」という心の声が後ろについているのは、能力が無くても充分に伝わってきた。







白い照明の下を通るたび、車内の様子が一瞬だけ浮かび上がる。


並行して走る車も、対向車もほとんどない。

単調なリズムで味気ない景色が流れていく。



さっきの休憩で、運転手は史隆に代わった。

よつばは3列目の史隆が居た場所に座り、都は史隆とリュカの間の特等席に座っている。


そういえば、と切り出したのは都だった。

研究所をあんな風にした何かの正体について、何も聞いていなかったと運転手に向かって小首を傾げる。


「あーーーなんだろうね、あれ」


助け舟を期待しても、リュカは助手席の窓にもたれ、前方を見たままで何も言う気配はない。


「えーとね。とりあえずね。…黒かったね」


「黒いのか?」


「ーーー……そんで、デカくて、力が強かったね。動きも早いし」


「……ーーー熊?」


「あーーー、そうね、そんな感じ」


適当に濁した雰囲気に、これ以上聞かないでくれと言われた気がして、都は口を尖らせた。


助手席のリュカが短く笑い声をあげて、あれは人間だと吐き捨てる。


「……もとは人だったんだ。……ーーヒトじゃなくしたのは、俺だけどね」



眠っているのはひとりだけだが、全員が眠ったように静かだった。



何を言い出すのか、榊には見当が付く。






実際に戦った、戦うところを見ていた史隆も、そうだとキツイなくらいの想像はしていた。



「俺………少しの間だけど、あの研究所に居て。やってた事はまぁ、走ったり跳んだり?体力テストみたいな事ばっかりさせられてたんだけど………血とか肉とか採られてたんだよね。………何度も」



高速で流れていくコンクリートの壁を見ながら、あのとき、と続けるリュカの声には、怒りや悲愴な感じは含まれてはいない。

他人事のような調子だった。


「あの時採った俺の血や肉を使って、俺みたいのを作ろうとしたんだよ。………この子を作った時みたいに、最初からじゃなくて、もっと簡単に」


「ーーーそうかもね。……てかまぁ、そうなんでしょう」


「せんせー」


「ここで否定してもしょうがないじゃない、リュカだって慰めて欲しい訳じゃないし、気を使われるのもイヤでしよ?」


「……まぁね」


「あなた達は、ハサミやナイフよ。正しく使わなきゃ、人を殺す。凶器と同じ。……でももう違う。ーーー今はもう使う人間を選べる事を知ったし、もう少し頑張れば切りたくないものは切らないように出来るかもしれない。………ーーーて、励まして欲しいのよね」


「………ヤな大人だな、おい」


都が後ろ向きに座り直し、胡座をかいた。


「こればっかりはねぇ。私だってこんな説教みたいな事言いたくないわよぅ。てか、言える立場じゃないもの。………私は使う側、あなた達はハサミで、私はハサミじゃない。………これはもう変わらない。ホント、どうしようもないもんねぇ」


作ったわざとらしい声を上げて笑う榊の声に、ハサミより辛いのかもと生徒達は思う。

使う側も悪い人間ばかりじゃない。

でも悪用する人間の方がはるかに多い事を知っている。

その上で使われるハサミの気持ちを汲もうと、心を砕くのだから。



「材料がルカで、完成品がアレ………ってーーーーん?………まぁ、妥当か」


「ははは……ーーー殴ってやろうか」


「殴るなら、俺がメシを食ってからにしてくれ‼︎俺もう腹ペコなんだ‼︎給油ランプも点いてるし、話を切り出そうとしても、なんか空気が重たいし‼︎‼︎もう、色々大変なんだ、俺‼︎‼︎」


「あ〜、じゃあ俺も〜。コーラ飲みたい、コーラ」


3列目から双子のもう片方の後方支援を受けて、エンジンの音が高くなる。


「我が姫はオレンジジュースをご所望だぞ」


バリトンボイスの愛らしい人形が手を振っている。振らせている琴野はいつものように微笑んでいる。


「俺も。……腹へったな。食べるとこが閉まる前に早く行こう」


都が前に向き直り、ナビよりも早く大きなサービスエリアの名前と、そこの名産品をあげていく。





あの研究所の所員達は、自分の研究に真摯に向き合えていなかった。

もしくは純粋に研究の内容だけに向き合った。

今まで無視し続けたもののツケを一度に返済することになった。


あそこで起こった事は、今まで数あった悪い例えのどの見本よりも酷かった。



あの惨状はあの場に居た全員に、何でも起こり得るという事実を叩きつけた。




それも考えられないほどの短時間の間に、この上もない程、力強く。









今まで何度でもそんな経験はしてきたつもりだった。普通の子どもに比べれば。




心を折って打ちひしがれるのは楽で、簡単で。

でも、それをしないで、ギリギリでも立っていられるのは、


もう、ひとりではなくなったから。







車内にはいつものような空気が戻り、車は怖いほどスピードを上げる。

何台も車を追い抜いて、あっという間に目的地に到着した。



眠ったままの女の子をひとりには出来ないからと、食料を買い込んで車の中で賑やかに食べた。


満腹になったみんなを乗せて、満腹になった車はもう学園に帰るまで、一度も止まらなかった。















説教回。


ヤダヤダ説教。

自分がクドクド説教されるの嫌いだから、軽めにしたつもりでも、全体からオーバーフローしているこの説教感たるや。


許してあげて下さい、この子たち、ティーンなエイジャーなので。

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