day -5 「ニュクス」
みんなはわたしのことを怖がるので、みんなが安心できるように両方の手に『抑制器具』をつける。
これをつけていれば、わたしの力が弱くなるから、みんなが安心する。
みんなが安心するから、これをいつでも身につけていなければいけない。
わたしがおとなしくしていないと、みんなが不安になるので、必要な時以外は自分の部屋からは出ない。
ドアにはいつも外から鍵がかかっている。
わたしは気味が悪い子どもなので、テストや診察のとき以外は、だれとも話をしない。
わたしもわたしを嫌う人なんかとは話をしたくない。
でもだれを嫌いでも、そんなことはみんなには関係ないし、重要でもない。
ドアには鍵がなくても、わたしは外に出ないことも関係ないし、重要でもない。
みんながわたしを怖がっていることが重要で、部屋には鍵がかかっている事が重要だから。
5日前。
『ゴミ置場』から、「それ」が出てきた。
その『ゴミ置場』には実験に失敗した生き物と、生きてないモノが置いてある。
出てきたのは、失敗する前は人間だったモノ。
外国で軍人をしていたその人は、軍人をやめて、傭兵という仕事をしている途中で実験に参加した。
参加して失敗したから、『ゴミ置場』に捨てられた。
捨てられてからはずっと怒っていた。
こんな目に合わせた全部を壊してやるって、最初はそんな感じだったけど、だんだん何に怒っているのか忘れていった。
「それ」はあっという間にみんなを殺してしまった。
怒って殺したのか、殺したいから殺したのか、「それ」はわからなくなったみたい。
わたしは「それ」が今どこにいるかわかるので、「それ」には会わないように逃げたり、かくれたりできる。
「それ」は閉じ込められていた『ゴミ置場』には近付いたりしない。
だから『ゴミ置場』にいれば、わたしも所長も「それ」には殺されない。
研究所はわたしが封鎖した。
この中にいる全員が死ぬことになるけど、外に出してしまえば、もっとたくさんの、研究所とは関係のないひとが死ぬことになる。
みんなは忘れていたけど、わたしは研究所のどの扉も開けたり閉めたりできる。
網膜も、指紋も、声紋も。
全部のデータを残してあった。
消去しないといけないことを忘れていてくれたので、わたしはこの研修を封鎖することができた。
封鎖できる人間はいないはずだと、中に残っていた人たちはびっくりしていたけど。
本当は「それ」が外に出ようが、どれだけ人が殺されようが、そんなことはどうでもいい。
所長がそうしなくてはいけないと思っていたのをわたしは知っていたので、そうしただけ。
どうにかして止めなければ、と所長は考えていた。
放っておけばそのうち死ぬのはわかっているけど、待つ時間がないといった。
わたしなら「それ」を殺せるとおもう、と所長にいったけれど、だめだ、とやめなさい、しかいわない。
あとにはかならず、わたしにこの研究所から逃げなさい、といった。
わたしは研究所の外にはいかない。
外に行ったからって、なにもかわらない。
だから、わたしも死ぬまでここにいるよ。
所長がさみしくないように。
所長はまだわたしが小さいときにしてくれたように、絵本を読んでくれたときのように、所長のなにもかもをおしえてくれた。
今も昔も、幸せも不幸せも。
全部がわたしに流れ込んで、
わたしは流されて
眠ってしまった。




